石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(12)

2023-06-15 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(12)

 

プロローグ(12)

 

012.サイクス・ピコ協定(1/2)

フセイン・マクマホン書簡に続く「三枚舌外交」の二枚目は英国がフランス(そしてロシア)と結んだ旧オスマン・トルコ帝国領土の秘密分割協定「サイクス・ピコ協定」である。

 

 第一次世界大戦で英仏連合国側の勝利が濃厚となった1915年末頃から大戦後のオスマン帝国の分割について英国の中東専門家マーク・サイクスとフランスの外交官フランソワ・ジョルジュ・ピコが原案を作成、その後ロシア帝国も加わった秘密協定が作成された。二人の名前を取って後に「サイクス・ピコ協定」と呼ばれるこの協定は1916年5月、ロシアのペトログラードで3カ国が調印した。「フセイン・マクマホン書簡」(前項参照)によりマッカの太守フセインが蜂起する直前のことであった。

 

 この秘密の領土分割協定で英国はシリア南部と南メソポタミア(現在のイラクの大半)を獲得、シリア、アナトリア南部及びイラクのモスル地区がフランスの勢力範囲とされ、ロシアには黒海沿岸が与えられた。サイクス・ピコ協定のうち英仏が分割した中東地域をもう少し詳しく見ると、アナトリア南部からベイルートに至る地中海沿岸一帯はフランスの直接統治領となり、ダマスカスからアレッポ、さらにモスルに至る北メソポタミア地域はフランスの勢力下に置かれた。これらの地域を現在の国境線で見ると、フランスの勢力圏はトルコ南部からシリア全域、さらにイラク北部及びレバノンと言うことになる。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(11)

2023-06-14 | 今日のニュース

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

プロローグ(11)

 

011フセイン・マクマホン書簡(2/2)

そしてファイサルの作戦参謀として活躍したのが英国陸軍将校トマス・ロレンス、いわゆる「アラビアのロレンス」である。「アラビアのロレンス」はあたかもロレンス自らが機知策略を弄して無知蒙昧なアラブ人の先頭に立って戦ったかのごとき印象を与えるが、これは英国側でかなり脚色された虚像である。彼は英国軍との連絡係であり、英国からアラブ側に補給される資金や武器弾薬の窓口であったというのが正しいであろう。彼自身は自分の国イギリスが書簡の約束を忠実に守ると信じ込んでいた。

 

しかし第一次大戦後、実際にアラブ人に割り当てられた土地は彼らが期待していたものとは程遠かった。そのためロレンスはアラブ側の信頼を失い帰国した後、オートバイ事故で自らの命を失う羽目に陥る。アラブ世界ではロレンスは「英国の走狗」とみなされ全く評価されていないのである。戦勝者はいつの世も自分に都合の良い英雄を作り出すものである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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石油と中東のニュース(6月13日)

2023-06-13 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・FRB利上げ見送りと踏んで原油価格下落。Brent $73.90, WTI $69.33

(中東関連ニュース)

・林外相、西村経産相、アブダッラーUAE外相と個別会談。 *

外務省プレスリリース経産省プレスリリース参照。

・アラブ-中国ビジネス会議開催、26カ国 3,500人が参集

・リヤドで13年ぶりのアラブ-太平洋島嶼国会議開催

・イラン大統領、ベネズエラなど中南米3カ国歴訪に出発

・イラン、オマーン仲介で米国と間接交渉継続中と言明

・イラク国会、1,530億ドルの大型予算承認。クルド地区の原油生産で妥協

・国連事務総長:ウクライナ産小麦の黒海経由輸出はロシアの反対で停止の恐れ

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(10)

2023-06-12 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

プロローグ(10)

 

010フセイン・マクマホン書簡(1/2)

 これら三つの約束のうちの最初のものは第一次世界大戦開戦の翌年に英国の駐エジプト高等弁務官ヘンリー・マクマホンがマッカの太守フセイン・アリーに送った書簡であり、対トルコ戦に協力することを条件にアラブ人に居住地区の独立を約束したものである。1915年10月24日付のフセイン宛の書簡でマクマホンは次のように述べている。

 

 「私は貴殿に対しイギリス政府の名において次の通り誓約を行い、貴殿の書簡に対して次の通り返答する権限を与えられている。:イギリスはマッカの太守が提案した境界線の内側にあるすべての地域におけるアラブ人の独立を(一部修正条件付きで)承認し支持する用意がある。」

 

フセインは預言者ムハンマドの直系の子孫(第39代目)と言う由緒正しい家柄で聖地マッカの太守であると同時にヒジャズ地方(マッカを含む紅海沿岸一帯)の王として君臨していた。英国のお墨付きを得たフセインは息子のアブダッラー(後のヨルダン国王で現アブダッラー国王の祖父)やファイサル(後のイラク・シリア国王)にオスマン・トルコに対するゲリラ作戦を命じたのである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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石油と中東のニュース(6月11日)

2023-06-11 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

(中東関連ニュース)

・仏大統領、イラン大統領と電話会談。ロシアへのドローン兵器供給を牽制

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(9)

2023-06-10 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

プロローグ(9)

 

009第一次大戦中の英国の3枚舌外交

 第二次世界大戦後の中東を語る際にどうしても言及しなければならないのは第一次世界大戦中に英国が行ったいわゆる「三枚舌外交」と呼ばれるものである。

 

 第一次世界大戦は英仏を中心とする連合国(日本もその一員であった)とドイツ・オーストリア・オスマントルコの同盟国との戦争であった。連合国側が勝利し、1919年に英国とフランス主導による戦後処理をめぐるパリ講和会議でベルサイユ条約が締結された。この条約は敗戦国ドイツに対して過酷極まるものであり、ドイツは領土をむしりとられ、莫大な賠償を強いられた。そこに見られたのは勝者総取りの図式である。英国とフランスはドイツと共に敗戦国となったオスマン・トルコ帝国に対しても容赦しなかった。両国はトルコ民族固有の領土である小アジアを除くレバント、チグリス・ユーフラテス一帯をオスマン・トルコから取り上げ、それぞれの支配下においたのである。それは19世紀から連綿と続くヨーロッパ帝国主義国家による植民地獲得競争の最終仕上げとでも言うべきものであり、その地に古くから生活を築いてきたアラブ民族のことなど一顧だにされなかったのである。

 

 中東の現在につながるこのような状況が生まれる原因となったのが第一次世界大戦中に英国が結んだ三つの約束―フセイン・マクマホン書簡、サイクス・ピコ協定及びバルフォア宣言―である。これら三つの約束はそれぞれ約束の相手が異なるだけでなく、内容が全く矛盾する約束であった。そのためこれら一連の英国の外交は3枚舌外交と酷評されたのである。否、酷評されただけでは済まず百年後の今日まで中東全域に災いをもたらす結果を招いたのである。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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今週の各社プレスリリースから(6/4-6/10)

2023-06-10 | 今週のエネルギー関連新聞発表

6/4 OPEC

35th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting

https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/7160.htm

 

6/5 石油連盟

石油連盟会長コメント  第35回OPECおよび非OPEC閣僚会合の終了にあたって

https://www.paj.gr.jp/news/692

 

6/5 INPEX

次世代蓄電池の開発を行う「TeraWatt Technology社」への出資について

https://www.inpex.co.jp/news/2023/20230605.html

 

6/8 コスモエネルギーホールディングス

第8回定時株主総会の議案(第5号議案 )に関する議決権行使助言会社レポートに対する当社見解について

https://www.cosmo-energy.co.jp/ja/information/press/2023/230608.html

 

6/9 経済産業省

「夏季の省エネルギーの取組について」を決定しました

https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230609003/20230609003.html

 

6/9 経済産業省

2023年度夏季の電力需給対策を決定しました

https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230609009/20230609009.html

 

6/9 TotalEnergies

Kazakhstan: TotalEnergies signs a 25-year PPA for a 1 GW Wind Project

https://totalenergies.com/media/news/press-releases/kazakhstan-totalenergies-signs-25-year-ppa-1-gw-wind-project

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石油と中東のニュース(6月9日)

2023-06-09 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

(中東関連ニュース)

・米国務長官、GCC外相とISテロ対策等について協議

・米、シリア、イラクのIS対策に1.5億ドル拠出

・クウェイト、内閣退陣。議会選挙で反政府勢力が50議席中29議席獲得

・エジプト、スエズ運河ホールディング設立。経済活性化図る

・サウジ、外資導入促進のため外国人投資家訪問ビザ制度立ち上げ

・トルコ中央銀行総裁に米金融機関経験者の女性任命。利上げに転換か

・トルコリラの対ドルレート、大統領選挙後最低に

 

 

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原油高値と円安で拡大する国際石油企業と日系企業の格差:2022年(度)業績比較 (9完)

2023-06-09 | 海外・国内石油企業の業績

(注)本シリーズは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0578MajorEneosIdemitsuMar2023.pdf

 

4.財務キャッシュフロー 

(財務に熱心なメジャーズ、関心の薄い日系!)

(1)2022年(度)財務キャッシュフロー

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-06.pdf 参照)

 2022年(度)の財務キャッシュフローを比較するとENEOSは▲133億円(▲1億ドル、換算レート:135円/ドル)であり、出光は▲904億円(7億ドル、換算レート:135.5円/ドル)であった。一方メジャー5社はShellが▲420億ドルと最も大きく、次いでExxonMobil(▲391億ドル)、bp(▲280億ドル)、Chevron(▲250億ドル)、TotalEnergies(▲193億ドル)であり、5社ともに財務キャッシュフローは日系2社に比べかなり高い水準である。

 

(極めてダイナミックなメジャー5社の財務キャッシュフロー!)

(2)2019年(度)~22年(度)財務キャッシュフローの推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-16.pdf 参照)

 2019年のメジャー5社の財務キャッシュフローはShell(▲352億ドル)がとびぬけて高く、ChevronはShellの6割(▲198億ドル)であった。その他3社は70億ドル前後であり、各社の財務戦略には大きな違いが見られた。その年度の日系2社のそれはENEOSが▲11億ドルであり、出光は比較した7社の中では唯一プラス(15億ドル)であった。

 

2020年(度)は世界的なコロナ禍と経済縮小の影響を受けてメジャーズ5社は財務改善に走り、ExxonMobilなど3社はプラスに転換、Shellの財務キャッシュフローも前年の5分の1の規模に縮小している。ところが2021年には一転して各社とも積極的な財政出動を行っており、ExxonMobil(▲354億ドル)、Shell(▲347億ドル)の2社が▲300億ドルを超え、TotalEnergies、Chevronは250億ドル前後、最も少ないbpも▲181億ドルのキャッシュフローであった。これに対し日系2社の税務キャッシュフローには大きな変化は見られなかった。この傾向は2022年(度)も引き継がれている。

 

以上

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                              E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

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見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(8)

2023-06-08 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

プロローグ(8)

 

008中東を流れる三つのアイデンティティ(3/3)

 三つ目のアイデンティティとしてあげた「智」は主義、主張を伴った政治的あるいは経済的なイデオロギーのことである。「智」の対立が起こるのは宗教の束縛から解放されてからである。西欧では中世以降、産業革命を通じて経済面で重商主義が起こり、さらに資本主義へと発展していった。その過程で富の分配の不平等が問題となり、社会主義、共産主義のイデオロギー、すなわち「智」の世界が広がっていった。

 

 それが世界レベルに広まったのがロシア革命によるソビエト社会主義連邦(ソ連)の誕生である。そもそも西欧資本主義とソビエト社会主義は互いに相容れない性質のものだったが、ドイツ・ナチスの全体主義に対抗するため両者は共闘してこれを打倒し第二次大戦を終わらせた。しかしその途端米ソ二大陣営は鋭く対立、「冷戦時代」となった。「冷戦」と言っても実際には世界各地で両陣営の代理戦争―熱い戦争―が発生、中東もその舞台の一つになったのである。中東ではイスラームの呪縛から解放されないまま第二次大戦後にイデオロギー戦争に巻き込まれた。このことが後々の混乱を拡大したのである。

 

 改めて「血」と「心」と「智」の時系列的な発生の順序を考えてみたい。「血」はDNAとして先天的、遺伝的に身に備わったものである。それに比べ「心(信仰)」と「智(主義)」は後天的なものである。さらに「心(信仰)」はほとんどの場合物心のつかない幼時期に身に染み付く。キリスト教徒の赤子は洗礼を受け、そしてイスラーム教徒(ムスリム)の場合はモスクから流れる祈りの言葉「アザーン」を子守唄として成長する。それに対して「智(主義)」は教育(特に高等教育)を通じて個人の頭脳の中に刷り込まれる。つまりこれら三つの要素が人間に取り込まれるのはまず先天的な「血」に始まり次に「心(信仰)」であり、「智」は最も遅い。これがごく自然な順序と言って良いであろう。

 

国家レベルで見ると「血」の民族国家、「心」の宗教国家。「智」の資本主義あるいは社会主義国家が形成される歴史的な順序は異なる。西欧社会ではそれらがそれぞれ相当の時間差(タイムラグ)で歴史に登場しており、同時並行的に現れることはなかった。ところが中東ではそれら三つの要素が第二次大戦後の70年という短い歴史の中で同時並行的に登場している。戦後中東の混乱と悲劇はそのような土壌の中から生まれたものではないか、というのが筆者の見方である。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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