イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「三千円の使いかた」読了

2023年03月10日 | 2023読書
原田ひ香 「三千円の使いかた」読了

ベストセラーの本だそうだ。2018年の出版で、以前に貸し出し予約をしてみたもののあまりにも順番が遅すぎて一度は借りるのをあきらめたのだが、ドラマにまでなるというのでもう一度予約をして、やっと順番が回ってきた。
タイトルだけしか知らなかったのでこれはきっと節約のハウツー本か、性格診断の本かと思ったら小説仕立てであった。

御厨家の人々と、彼らを取り巻く人々がおカネの問題を通して人生の価値観を見直すというストーリーで、そんな人たちひとりひとりが主役の短編集という構成である。
タイトルの、「三千円の使いかた」は次女が中学生のときに祖母から言われた、『三千円の使い方で人生が決まるよ』という言葉から取られているようだ。『三千円くらいの少額のお金で買うもの、選ぶもの、三千円ですることが結局人生を形作っていく、ということ』というのがその意味だそうだ。

その次女は就職を機にひとり暮らしを始めるが、恋人との小さな仲違いや同僚のリストラを通して会社は人生のよりどこでもなく、安心材料でもないことに気付く。そして、街でみかけた保護犬の里親探しのイベントを見て犬を飼うことができる一軒家の購入を目指そうとする。そして、新たな恋人の両親との金銭感覚のギャップによってさらに人生を見直すことになる。

長女は結婚と同時に専業主婦となる。子供のため、大学に入るまでに一千万円の貯金をすることを目指す。ささやかな夢は新婚旅行でも行けなかったハワイである。そして、消防士である夫の月給23万円の給料をやりくりしての節約生活が待っていた。その節約術はクレジットカードの新規申し込みでポイントを得るなどの「プチ稼ぎ」だ。
しかし、友人がプチセレブとの婚約をしたことを知り、自分の生活とは一体何なのだという疑問が湧いてくる。

73歳の祖母は残りの人生への不安から一千万円の貯蓄が取り崩されることに不安を覚える。一念発起、パートの仕事を始めるが、そのことが働くことの喜びを呼び覚ます。
そして、タイトルのように、孫や自分の子供たちに様々なアドバイスをすることになる。

ふたりの娘の母親は、友人の熟年離婚をきっかけに自分の家の経済状況と、現在の年金制度を知ることで、亭主に不満を持っていたとしても離婚の難しさということを知った。

祖母がホームセンターで偶然出会った歳の離れた友人は定職に就かず、季節労働者の仕事でおカネが貯まれば旅に出る生活をしている。恋人がいて、結婚を迫られるが自分にはそんな価値がなく、結婚をして子供をつくり育てるということに対する費用対効果に疑問を抱き躊躇するが、ある事件をきっかけにその考えに変化が生まれる。

有り余るおカネを持っている人は別にして、誰もが持っている、おカネの悩みと“幸せの尺度とはどこにあるのか”ということに対する疑問を赤裸々に書いているということが共感を呼んだのだろうと思う。

そして、登場人物たちは自分の身の回におこる出来事を通して人生とはおカネで縛られるものではない。お金や節約は人が幸せになるためのものであり、それが目的になってはいけないと考えるのである。すべてがハッピーエンドで終わるというのはなんとも朝ドラ的でもある。


僕も、全部と言っていいほど当てはまると思えるのである。僕のブログの中身も、おカネに関するセコい話がしょっちゅう出てくる。こいつはどこまでセコいのだと思われているのだろうがそれが実際のところである。三千円はおろか、100均の棚の前でこれを買おうか買うまいかと逡巡している毎日である。
僕だってベンツやBMW、せめて普通車には乗りたいと思うし、他人の真っ白でピカピカの船を見ているとうらやましくて仕方がない。そんな自分にどうやって折り合いをつけていいのかというのがこの小説とまったく同じなのである。
SNSというのは、ある意味、自分の大きかったり小さかったりする幸せをちょっと自慢する場だと思っているが、はるかに見劣る自分の日常生活に情けなくなるのである。
そんなにケチケチしてどうなる。しかしお金がないのも事実である。これでは部品代を半額にして打ち上げに失敗したロケットと同じではないかと思えてくるのである。しかし、これも遺伝情報に組み込まれてしまい、シナプスもそうなるように刈り込まれてしまっているのだから仕方がない。

おカネの問題というと、我が家の貯蓄額というものを全く知らないということに気がついた。御厨家の中心である主婦も、自分たちの貯蓄額の少なさに愕然とするが、僕もそうなるのではないかと思ってしまう。こういうとはまことに面倒であるので知らないほうがいいのであると思っていたが、実はもっと深く入り込んで、投資ということも考えておくべきだったと思う今日この頃だが、それも今となってはあとの祭りである。

夫婦間の問題というと、ウチの奥さんは僕の遊びのすべてを快く思っているわけではない。魚釣りについてはあきらめているようだが、山菜採りやワカメ採りについては明らかに嫌がっている。それはいろいろなところが汚くなるというところからなのだろうが、そんなことばかりをやっているといつ捨てられるかわからない。事実、本当の危機に陥っても僕の家族は僕を助けてはくれないというのは5年半前の出来事で実証済みである。まあ、それも構わないと思っている。いざというときには自活してゆく自信については少しはある。
しかし、そのとき、「残ったお金はこれだけです。」と言われてゴッソリ(といってもゴッソリというほどのものはないはずだが・・)持っていかれても僕は疑うことさえできない。おカネだけが幸せになるための唯一の手段ではないというもののおカネがないと生きてゆけないのが現代社会である。
そういう思い込みをなんとか変えさせようとしてくれているのがこの本なのであろうが、硬直化してしまった人生観を変えるというのはなかなか難しい・・。

この本、心に刺さるような一元半句もまったく見つけることもできないので文学というレベルでは相当低いと思うのだが、結構軽く読みながらもその内容はもっと心に刺さってしまうような内容だったのである。
コメント
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