Facebook友の長谷川教授が、とても貴重な体験を話してくださいました。
その貴重な体験とは、浜岡原発本体の見学。
その際に、同行された中部電力の若手社員(XX氏)との会話(激論)を経て垣間見ることができた、電力会社の社員(もちろんその人個人としてですが)の考え方や姿勢を、
そしてそれらに対する、長谷川教授の率直な意見や思いを、さらには、なかなか数字には現せない、苛酷事故が起こった際の被害額などを、とてもわかりやすくまとめてくださっています。
ぜひ、みなさんにもと思い、ここに転載させていただきます。
↓以下、転載はじめ
浜岡原発見学



浜岡原発見学。
誰でもアポなしで入れる、浜岡原子力館(実物大の原子炉の模型などがある)見学に続き、
Oさんを通して事前に申し込んでいた私たちは、原発の本体も見学させてもらえた。
ロックのかかった、分厚い金属製の扉のハンドルを回し、浜岡5号機の建屋内に入る。
ガラス越しではあるが、停止中の原子炉が見える。
しかも、作業のため、格納容器と圧力容器の蓋がはずされており、
満々と水をたたえた中に、核燃料が沈んでいる圧力容器の中を、覗き込むことができる。
写真や映像でしか見たことのなかった光景。
計器や画面がぎっしりと配置された、5号機の中央制御室も(ガラス越しに)見学。
福島事故で有名になった、事故対応の拠点になった、いわゆる「免震重要棟」では、実際に中に入って、「OO本部長席」などと書かれた椅子に座って、説明を聞く。
津波を防ぐ新たな防潮堤の、建設現場も見学。
22mの津波を防ぐことができるという、鉄筋コンクリートの防潮堤は、
(遠景の写真では「こんなんで津波防げるの?」という薄っぺらな感じに見えたが)
近くで見ると、相当な迫力。
その他、さまざまな安全性向上の対策費用に、約3000億円を費やすという。
現在停止している原発の代替で、追加購入している石油・石炭が、年間約3000億円なので、
原発が稼働できれば、1年で、建設費が回収できるのだという。
原発の再稼働が、結局は、経済原理に基づいているのだと感じる。
原発から駅へ向かう車の中で、中部電力の若手社員(XX氏)と、大激論になる。
その内容等については、その若手社員に同行していた上司の方(◯◯さん)に宛てたメールを、以下に貼り付けますので、ご興味のある方はご覧ください。
なかなかディープな体験でした…!
__________
◯◯様、
昨日は、浜岡原発見学でお世話になり、どうもありがとうございました。
なかなかできないような、得難い、貴重な経験をさせていただきました。
皆さんが、原発の安全性を少しでも高めるため、日々たゆまぬ努力を続けられていることを感じ、感服いたしました。
ただ、「福島事故と同じような事態が起こらないよう、このような対策をした」
という種類の対策が、多いように感じました。
福島事故の教訓は、単に、
「福島はこれとこれの対策が十分でなかったので、その対策さえすればいい」
ということで終わってしまっては、まずいと思います。
もっと大きな見地から見たとき、
「大規模な自然災害が起こったとき、完全には予測しきれない、それまでの対策では十分対応できないような、さまざまな事態が起こりうる」
という広い視野から、ものを見ていただきたいと思います。
その意味で、津波の被害は甚大だったが、地震の程度としてはそれほどではなかった福島事故の、現象面だけを見て対策したのでは、
南海トラフ地震で想定されるような、激烈な破壊力を持つと予想される大地震に、本当に対応しきれるのか、疑問が残りました。
たとえば、見学の際も申しました通り、
「制御棒が全部きれいに入る」というのを、たまたま福島が、幸運にもそうだったからと言って、
さらに大きい震度の地震が予想される東海エリアで、それを、まるで前提のように考えてしまうのは、まずいと思います。
また、これも、既に申したことですが、
福島事故では、放出された大量の放射性物質の大部分が、西から東への風に乗って、太平洋上へと流れ、
国土を汚染した放射性物質は、全体のほんの一部に過ぎませんでした。
これに対し、浜岡原発から放射性物質が放出されれば、このエリアで最も多い、南西から北東方向へ吹く風に乗って、
その大部分が、神奈川・東京を直撃するであろうことは、かなり高い確率で予想でき、
その分被害も、福島とは比べ物にならないものになる、という事実も、直視しなければなりません。
1900ガルまで耐えられるよう対策した、という説明があったかと思いますが、
震源が遠く、津波の被害に比べれば、地震の被害はそこまでではなかった東日本大震災でも、
最大2933ガルが観測された、と伝えられています。
南海トラフ地震ともなれば、さらに、大きな揺れも十分考えられるでしょう。
原子炉本体もさることながら、長く複雑な配管系が、そのような激しい揺れに耐えられるのか、
地割れや土砂崩れなども考えられる状況で、私は疑問を抱かずにはいられません。
(皆さんは、点検・検査というものに、全幅の信頼をおいていらっしゃるようでしたが、
検査・点検漏れや、ずさんな検査・点検が引き金となった、原発の「人災」的トラブル、
特に、配管系のトラブルが、今までいかに多数起こっているかを知っている私には、
「検査・点検をしているから大丈夫」と、楽観する気にはとてもなれませんでした。)
帰りの車の中で議論になり、私も熱くなってしまい、皆さんに不快な思いをさせてしまったことは、申し訳なかったと思います。
ただ、私と議論をされた中部電力の方(XXさんという方でしたでしょうか)の発言の中に、少々気になる点がありましたので、書かせていただきます。
ひとつは、
「原発を再稼働するかしないかは、(所定の手続きさえ踏めば)事業者である中部電力の判断で、決定することである」という、「驕り」が見えたことです。
これは、XXさんに限らず、中部電力の皆さんに、心にとめておいていただきたいことですが、
仮に、手続き上はそうだとしても、電力事業の公共性、それゆえ、ステークホールダー(利害関係者)が多岐にわたることを考えれば、
「私たち中部電力が決めること」という姿勢は、思慮に欠けるものだと思います。
特に、万一事故があったときには、きわめて広範囲の人たちが、深刻な影響を受けることは、既に、福島事故によって示されています。
もし、東京電力が、
「原発の再稼働は、事業者である東京電力が決めることですので、事故を起こさなかった福島第二原発は、再稼働します」
と言ったら、福島県民は黙っていないでしょう。
浜岡原発が事故を起こした場合に、受ける深刻な影響について、
東京都民や神奈川県民が、福島県民ほどは十分に認識していなかったとしても、
だからと言って、東京都民・神奈川県民など、深刻な影響を受けるであろう人たちの意向を無視して、稼働することは許されない、という認識をもって、事業にあたっていただきたいと思います。
あと、XXさんの発言の中に、
「理性的な男性は、原発の安全性について理解してくれるが、原発に対して感情論で不安がるのは、女が多い」
という、驚くべき女性差別発言がありました。
これは、言葉尻をとらえるようではありますが、
「反原発の連中は、女と同じぐらい程度が低い」という、
(反原発派だけでなく)女性を愚弄する男尊女卑的思考が、その背後に見え隠れしており、看過できないものでした。
抗議しようかと思いましたが、△△氏にたしなめられた後だったので、黙っていました。
ちなみに私は、原発に批判的な京大の小出裕章先生の議論と、稼働を進める立場のXXさんの議論を比較したとき、
XXさんの議論の方が理性的で優れており、小出先生の議論は「女性的」な感情論である、とはまったく感じないどころか、
小出先生の議論の方がはるかに理性的である、と感じます。
最後に、XXさんが言っていた、「リスク・ベネフィット論」に乗っかって、少し書かせていただきます。
原発を再稼働しないと、代替の燃料費に、1年間で3000億円かかる、という数字がありました。
これを、原発事故のリスクと比較したとき、
まず、原発の苛酷事故の発生率が、仮に、200年に1度(0.5パーセント)とします。
正確な計算は不可能ですし、たかだか50年の日本の原発の歴史の中で、福島事故だけでなく、苛酷事故一歩手前の事象が何度も起こっていること、
東海エリアを震源域に含む大地震が、近い将来に予測されていることを考えれば、もっと高いと私は思っていますが…。
事故による除染、賠償等の損害額は、以下記事によると、福島では、3年間で11兆円、とのことです。
http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/20140311/1516_songaigaku.html
福島県の人口約200万人に対し、浜岡で苛酷事故が起これば、影響を受けるであろう東京(1300万)・神奈川(900万)・静岡(375万)の、広大なエリアの人口は、合計2600万人ですから、
単純に13倍と計算しても、損害額は、1年間に約48兆円になります。
実際には、福島200万のうち、会津エリアは、事故の被害・補償を、ほとんど受けていないことを考えれば、
東京・神奈川・静岡は、もっと大きな数字になる可能性があります。
さらに、東京都のGDP92兆円、神奈川県のGDP30兆円、静岡県のGDP15兆円の計137兆円が、原発事故によって10%減少するとしても、約14兆円のマイナスになります。
福島は、元々の経済規模が小さいのに対し、いわゆる「復興需要」などもあって、落ち込みは、比較的小幅にとどまっているようですが、
東京圏は、元々の経済規模がはるかに大きいのに対し、それに比べれば、除染事業等の復興需要など、相対的にわずかなプラスにしかならないでしょうから、
落ち込みは、福島よりはるかに、大幅なものとなると予想されます。
さらに、全国の経済のコントロールセンターとしての東京圏の役割が、深刻な打撃を受けることによる、
全国の経済へのマイナスの波及効果を合わせれば、損害は、少なく見積もっても、2倍にはなるでしょうから、
全国では、28兆円のGDPのマイナスになる、という計算ができます。
東日本大震災による、2011年の日本全体のGDPへのマイナスが、年間0.5%、という報道があり、
これは、日本のGDP約500兆円で計算すると、約2.5兆円となります。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS23027_T20C11A3EE1000/
東京圏が、深刻な打撃を受ければ、マイナスはその10倍、つまり、マイナス5%では済まないでしょう。
これは、日本のGDP約500兆円で計算すると、少なくとも25兆円ということになり、上で計算した28兆円という数字と、おおむね一致します。
そうすると、年間被害総額(48兆円+28兆円=76兆円)X確率(0.005)=3800億円となり、
原発を稼働することによるベネフィット、3000億円を上回ります。
これはあくまで、福島と同程度の原発事故・放射能被害が、静岡・神奈川・東京で起こった場合、という計算です。
実際には、浜岡事故が、東京・神奈川・静岡にもたらす被害は、
単に、被害エリアの人口や経済規模が大きい、というだけではなく、上で述べた立地・風向きの条件から考えて、
被害の程度も、福島事故と比べでも、はるかに深刻なものとなることが予想され、その分数字も、さらに大きなものとなるでしょう。
なお、この計算には、さまざまな社会資本・インフラ等が使えなくなることによる損害は、含まれていませんので、
それを加えれば、損害は、さらに大きくなります。
東日本大震災では、総額14~18兆円と試算されています。
http://www.mri.co.jp/NEWS/magazine/journal/55/__icsFiles/afieldfile/2012/03/19/jm12031102.pdf
このうち、地震そのものによる被害と、原発事故・放射能汚染による被害を切り分けることは、むずかしいと思われますが、
社会資本・インフラの総額は、東京圏の方が桁違いに大きいので、被害総額も、桁違いに大きいものとなるでしょう。
これは、非常におおまかな計算で、当然異論もあるでしょうが、
この計算には含まれない、多数の都民・県民の、さまざまな生活上等の甚大な被害が、当然予想されますし、
単なる「目先の損得勘定」だけから言っても、「原発を稼働した方が得」と、単純に言えるのか疑問です。
さらに、議論の中でも言ったように、
原発は、10万年も管理しなければならない。
放射性廃棄物を生み出し、子孫に残すことになるが、その処理のめどさえ立っていない。
たとえ事故を起こさなくても、多くの原発労働者の、被ばくによる白血病などの健康被害を生み、
労基署で労災認定が認められたケースも相当数ある、などの問題も抱えています。
長くなりましたので、この辺で失礼いたします。
もしかしたら、今後また、お世話になることもあるかも知れませんが、その際は、どうぞよろしくお願いいたします。
専修大学法学部教授
長谷川 宏
そしてもうひとつ、同じく長谷川教授が教えてくださった、内田樹氏のインタビュー。
朝日新聞から、川内原発再稼働についてインタビューを受けた内田樹氏が、その内容を、ご自身のブログ『内田樹の研究室』に掲載してくださったものからの引用です。

引用元:
http://blog.tatsuru.com/2014/11/12_1134.php
僕も、彼らが、利己心や邪悪な念によって原発再稼働を進めている、とは思いません。
彼らは彼らなりに、「善意」で行動している。
主観的には、首尾一貫しているんです。
でも、それは、せいぜい5年程度のスパンの中での経済的利益を、確かなものにすることです。
経営者としては、当然のことです。
しかし、1億人以上の人が、限られた国土で、限られた国民資源を分かち合いながら、暮らし続けることを運命づけられた国民国家を運営するには、百年単位で、ものごとを考えなければならない。
株式会社なら、四半期の収支が悪化すれば、株価が下がり、倒産のリスクに瀕します。
だから、「百年先」のことなんか考えていられないし、考えることを求められてもいない。
目先の利益確保が、あらゆることに最優先する。
でも、国民国家の最優先課題は、「いま」収益を上げることじゃない。
これから何百年も、安定的に継続することです。
株式会社の経営と国家経営は、まったく別のことです。
原発推進派は、それを混同してしまっている。
その貴重な体験とは、浜岡原発本体の見学。
その際に、同行された中部電力の若手社員(XX氏)との会話(激論)を経て垣間見ることができた、電力会社の社員(もちろんその人個人としてですが)の考え方や姿勢を、
そしてそれらに対する、長谷川教授の率直な意見や思いを、さらには、なかなか数字には現せない、苛酷事故が起こった際の被害額などを、とてもわかりやすくまとめてくださっています。
ぜひ、みなさんにもと思い、ここに転載させていただきます。
↓以下、転載はじめ
浜岡原発見学



浜岡原発見学。
誰でもアポなしで入れる、浜岡原子力館(実物大の原子炉の模型などがある)見学に続き、
Oさんを通して事前に申し込んでいた私たちは、原発の本体も見学させてもらえた。
ロックのかかった、分厚い金属製の扉のハンドルを回し、浜岡5号機の建屋内に入る。
ガラス越しではあるが、停止中の原子炉が見える。
しかも、作業のため、格納容器と圧力容器の蓋がはずされており、
満々と水をたたえた中に、核燃料が沈んでいる圧力容器の中を、覗き込むことができる。
写真や映像でしか見たことのなかった光景。
計器や画面がぎっしりと配置された、5号機の中央制御室も(ガラス越しに)見学。
福島事故で有名になった、事故対応の拠点になった、いわゆる「免震重要棟」では、実際に中に入って、「OO本部長席」などと書かれた椅子に座って、説明を聞く。
津波を防ぐ新たな防潮堤の、建設現場も見学。
22mの津波を防ぐことができるという、鉄筋コンクリートの防潮堤は、
(遠景の写真では「こんなんで津波防げるの?」という薄っぺらな感じに見えたが)
近くで見ると、相当な迫力。
その他、さまざまな安全性向上の対策費用に、約3000億円を費やすという。
現在停止している原発の代替で、追加購入している石油・石炭が、年間約3000億円なので、
原発が稼働できれば、1年で、建設費が回収できるのだという。
原発の再稼働が、結局は、経済原理に基づいているのだと感じる。
原発から駅へ向かう車の中で、中部電力の若手社員(XX氏)と、大激論になる。
その内容等については、その若手社員に同行していた上司の方(◯◯さん)に宛てたメールを、以下に貼り付けますので、ご興味のある方はご覧ください。
なかなかディープな体験でした…!
__________
◯◯様、
昨日は、浜岡原発見学でお世話になり、どうもありがとうございました。
なかなかできないような、得難い、貴重な経験をさせていただきました。
皆さんが、原発の安全性を少しでも高めるため、日々たゆまぬ努力を続けられていることを感じ、感服いたしました。
ただ、「福島事故と同じような事態が起こらないよう、このような対策をした」
という種類の対策が、多いように感じました。
福島事故の教訓は、単に、
「福島はこれとこれの対策が十分でなかったので、その対策さえすればいい」
ということで終わってしまっては、まずいと思います。
もっと大きな見地から見たとき、
「大規模な自然災害が起こったとき、完全には予測しきれない、それまでの対策では十分対応できないような、さまざまな事態が起こりうる」
という広い視野から、ものを見ていただきたいと思います。
その意味で、津波の被害は甚大だったが、地震の程度としてはそれほどではなかった福島事故の、現象面だけを見て対策したのでは、
南海トラフ地震で想定されるような、激烈な破壊力を持つと予想される大地震に、本当に対応しきれるのか、疑問が残りました。
たとえば、見学の際も申しました通り、
「制御棒が全部きれいに入る」というのを、たまたま福島が、幸運にもそうだったからと言って、
さらに大きい震度の地震が予想される東海エリアで、それを、まるで前提のように考えてしまうのは、まずいと思います。
また、これも、既に申したことですが、
福島事故では、放出された大量の放射性物質の大部分が、西から東への風に乗って、太平洋上へと流れ、
国土を汚染した放射性物質は、全体のほんの一部に過ぎませんでした。
これに対し、浜岡原発から放射性物質が放出されれば、このエリアで最も多い、南西から北東方向へ吹く風に乗って、
その大部分が、神奈川・東京を直撃するであろうことは、かなり高い確率で予想でき、
その分被害も、福島とは比べ物にならないものになる、という事実も、直視しなければなりません。
1900ガルまで耐えられるよう対策した、という説明があったかと思いますが、
震源が遠く、津波の被害に比べれば、地震の被害はそこまでではなかった東日本大震災でも、
最大2933ガルが観測された、と伝えられています。
南海トラフ地震ともなれば、さらに、大きな揺れも十分考えられるでしょう。
原子炉本体もさることながら、長く複雑な配管系が、そのような激しい揺れに耐えられるのか、
地割れや土砂崩れなども考えられる状況で、私は疑問を抱かずにはいられません。
(皆さんは、点検・検査というものに、全幅の信頼をおいていらっしゃるようでしたが、
検査・点検漏れや、ずさんな検査・点検が引き金となった、原発の「人災」的トラブル、
特に、配管系のトラブルが、今までいかに多数起こっているかを知っている私には、
「検査・点検をしているから大丈夫」と、楽観する気にはとてもなれませんでした。)
帰りの車の中で議論になり、私も熱くなってしまい、皆さんに不快な思いをさせてしまったことは、申し訳なかったと思います。
ただ、私と議論をされた中部電力の方(XXさんという方でしたでしょうか)の発言の中に、少々気になる点がありましたので、書かせていただきます。
ひとつは、
「原発を再稼働するかしないかは、(所定の手続きさえ踏めば)事業者である中部電力の判断で、決定することである」という、「驕り」が見えたことです。
これは、XXさんに限らず、中部電力の皆さんに、心にとめておいていただきたいことですが、
仮に、手続き上はそうだとしても、電力事業の公共性、それゆえ、ステークホールダー(利害関係者)が多岐にわたることを考えれば、
「私たち中部電力が決めること」という姿勢は、思慮に欠けるものだと思います。
特に、万一事故があったときには、きわめて広範囲の人たちが、深刻な影響を受けることは、既に、福島事故によって示されています。
もし、東京電力が、
「原発の再稼働は、事業者である東京電力が決めることですので、事故を起こさなかった福島第二原発は、再稼働します」
と言ったら、福島県民は黙っていないでしょう。
浜岡原発が事故を起こした場合に、受ける深刻な影響について、
東京都民や神奈川県民が、福島県民ほどは十分に認識していなかったとしても、
だからと言って、東京都民・神奈川県民など、深刻な影響を受けるであろう人たちの意向を無視して、稼働することは許されない、という認識をもって、事業にあたっていただきたいと思います。
あと、XXさんの発言の中に、
「理性的な男性は、原発の安全性について理解してくれるが、原発に対して感情論で不安がるのは、女が多い」
という、驚くべき女性差別発言がありました。
これは、言葉尻をとらえるようではありますが、
「反原発の連中は、女と同じぐらい程度が低い」という、
(反原発派だけでなく)女性を愚弄する男尊女卑的思考が、その背後に見え隠れしており、看過できないものでした。
抗議しようかと思いましたが、△△氏にたしなめられた後だったので、黙っていました。
ちなみに私は、原発に批判的な京大の小出裕章先生の議論と、稼働を進める立場のXXさんの議論を比較したとき、
XXさんの議論の方が理性的で優れており、小出先生の議論は「女性的」な感情論である、とはまったく感じないどころか、
小出先生の議論の方がはるかに理性的である、と感じます。
最後に、XXさんが言っていた、「リスク・ベネフィット論」に乗っかって、少し書かせていただきます。
原発を再稼働しないと、代替の燃料費に、1年間で3000億円かかる、という数字がありました。
これを、原発事故のリスクと比較したとき、
まず、原発の苛酷事故の発生率が、仮に、200年に1度(0.5パーセント)とします。
正確な計算は不可能ですし、たかだか50年の日本の原発の歴史の中で、福島事故だけでなく、苛酷事故一歩手前の事象が何度も起こっていること、
東海エリアを震源域に含む大地震が、近い将来に予測されていることを考えれば、もっと高いと私は思っていますが…。
事故による除染、賠償等の損害額は、以下記事によると、福島では、3年間で11兆円、とのことです。
http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/20140311/1516_songaigaku.html
福島県の人口約200万人に対し、浜岡で苛酷事故が起これば、影響を受けるであろう東京(1300万)・神奈川(900万)・静岡(375万)の、広大なエリアの人口は、合計2600万人ですから、
単純に13倍と計算しても、損害額は、1年間に約48兆円になります。
実際には、福島200万のうち、会津エリアは、事故の被害・補償を、ほとんど受けていないことを考えれば、
東京・神奈川・静岡は、もっと大きな数字になる可能性があります。
さらに、東京都のGDP92兆円、神奈川県のGDP30兆円、静岡県のGDP15兆円の計137兆円が、原発事故によって10%減少するとしても、約14兆円のマイナスになります。
福島は、元々の経済規模が小さいのに対し、いわゆる「復興需要」などもあって、落ち込みは、比較的小幅にとどまっているようですが、
東京圏は、元々の経済規模がはるかに大きいのに対し、それに比べれば、除染事業等の復興需要など、相対的にわずかなプラスにしかならないでしょうから、
落ち込みは、福島よりはるかに、大幅なものとなると予想されます。
さらに、全国の経済のコントロールセンターとしての東京圏の役割が、深刻な打撃を受けることによる、
全国の経済へのマイナスの波及効果を合わせれば、損害は、少なく見積もっても、2倍にはなるでしょうから、
全国では、28兆円のGDPのマイナスになる、という計算ができます。
東日本大震災による、2011年の日本全体のGDPへのマイナスが、年間0.5%、という報道があり、
これは、日本のGDP約500兆円で計算すると、約2.5兆円となります。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS23027_T20C11A3EE1000/
東京圏が、深刻な打撃を受ければ、マイナスはその10倍、つまり、マイナス5%では済まないでしょう。
これは、日本のGDP約500兆円で計算すると、少なくとも25兆円ということになり、上で計算した28兆円という数字と、おおむね一致します。
そうすると、年間被害総額(48兆円+28兆円=76兆円)X確率(0.005)=3800億円となり、
原発を稼働することによるベネフィット、3000億円を上回ります。
これはあくまで、福島と同程度の原発事故・放射能被害が、静岡・神奈川・東京で起こった場合、という計算です。
実際には、浜岡事故が、東京・神奈川・静岡にもたらす被害は、
単に、被害エリアの人口や経済規模が大きい、というだけではなく、上で述べた立地・風向きの条件から考えて、
被害の程度も、福島事故と比べでも、はるかに深刻なものとなることが予想され、その分数字も、さらに大きなものとなるでしょう。
なお、この計算には、さまざまな社会資本・インフラ等が使えなくなることによる損害は、含まれていませんので、
それを加えれば、損害は、さらに大きくなります。
東日本大震災では、総額14~18兆円と試算されています。
http://www.mri.co.jp/NEWS/magazine/journal/55/__icsFiles/afieldfile/2012/03/19/jm12031102.pdf
このうち、地震そのものによる被害と、原発事故・放射能汚染による被害を切り分けることは、むずかしいと思われますが、
社会資本・インフラの総額は、東京圏の方が桁違いに大きいので、被害総額も、桁違いに大きいものとなるでしょう。
これは、非常におおまかな計算で、当然異論もあるでしょうが、
この計算には含まれない、多数の都民・県民の、さまざまな生活上等の甚大な被害が、当然予想されますし、
単なる「目先の損得勘定」だけから言っても、「原発を稼働した方が得」と、単純に言えるのか疑問です。
さらに、議論の中でも言ったように、
原発は、10万年も管理しなければならない。
放射性廃棄物を生み出し、子孫に残すことになるが、その処理のめどさえ立っていない。
たとえ事故を起こさなくても、多くの原発労働者の、被ばくによる白血病などの健康被害を生み、
労基署で労災認定が認められたケースも相当数ある、などの問題も抱えています。
長くなりましたので、この辺で失礼いたします。
もしかしたら、今後また、お世話になることもあるかも知れませんが、その際は、どうぞよろしくお願いいたします。
専修大学法学部教授
長谷川 宏
そしてもうひとつ、同じく長谷川教授が教えてくださった、内田樹氏のインタビュー。
朝日新聞から、川内原発再稼働についてインタビューを受けた内田樹氏が、その内容を、ご自身のブログ『内田樹の研究室』に掲載してくださったものからの引用です。

引用元:
http://blog.tatsuru.com/2014/11/12_1134.php
僕も、彼らが、利己心や邪悪な念によって原発再稼働を進めている、とは思いません。
彼らは彼らなりに、「善意」で行動している。
主観的には、首尾一貫しているんです。
でも、それは、せいぜい5年程度のスパンの中での経済的利益を、確かなものにすることです。
経営者としては、当然のことです。
しかし、1億人以上の人が、限られた国土で、限られた国民資源を分かち合いながら、暮らし続けることを運命づけられた国民国家を運営するには、百年単位で、ものごとを考えなければならない。
株式会社なら、四半期の収支が悪化すれば、株価が下がり、倒産のリスクに瀕します。
だから、「百年先」のことなんか考えていられないし、考えることを求められてもいない。
目先の利益確保が、あらゆることに最優先する。
でも、国民国家の最優先課題は、「いま」収益を上げることじゃない。
これから何百年も、安定的に継続することです。
株式会社の経営と国家経営は、まったく別のことです。
原発推進派は、それを混同してしまっている。