去年の末に、最愛の夫を失ったイライザ。
発症から1年半の闘病だった。
少しでも良さそうなこと、効果がありそうなことがあれば、どんどんと取り入れては試した。
話が大好きだったルエルを襲った悪性腫瘍は、事もあろうに脳の言葉を司る部分に居座った。
ものすごく大きな不安とストレスを抱えてもなお、ルエルはイライザを優しく愛し続けた。
最期の最期まで。
そんな彼が亡くなって、残されたイライザを支えようと、友人たちがそれぞれにできることをした。
イライザ自身も、喪失感と憤りと悔いを心に抱えながら、それでもなんとか大きな波に飲み込まれないようにと、いろんな公的支援や専門家に助けを求めた。
そんな毎日を数ヶ月過ごした頃、突然今度は母親が亡くなった。
そのショックから抜け出せないでいる彼女に、さらに追い打ちをかけるように、父親が余命2ヶ月の末期ガンであることがわかった。
夫とわたしは、そんな彼女の気持ちを支えたくて、スカイプや電話で話した。
でもやっぱり、近くで目を見て、声を聞きながら話したいな。
肩を抱いて、背中を撫でて、手をそっと握って、何も言わずに一緒にいたい。
イライザにとって、父親の看病が今一番の優先事項なので、彼女の都合に合わせ、急きょカナダに出かけることにした。
車の窓ガラスから容赦なく差し込んでくる太陽の光が、年々強くなっているような気がするのはわたしの錯覚か?
最近は、高速道路のサービスエリアに、マッサージ機が置かれるようになった。
週末なのに、国境がガラガラ?!
ラジオからはフランス語が、そして標識もフランス語。
道の両側はずっと、広々とした畑の風景が続く。
舗装されていない道路を15キロほど走った。時々、前の車が作る砂埃で、2秒ほど全く前が見えないようになった。
いつもと全く同じ湖がそこにはあった。
わかってはいたつもりだったけど、全く同じということに動揺した。
全く同じ風景の中にルエルがいない。
とても大切な人がいなくなった後に、いつも必ずその人がいた所に行くと、その場所で感じていた心地良さとか楽しさが、蜃気楼のように揺らぎながら消えていく。
ルエルがいつも座っていた岩。
翌日の土曜日は、朝からよく晴れた。
あ、チップモンクくん!
え?え?いいの?撮らせてくれるの?
こんなことは初めてだった。
と感動していたら、今度はリスくんが!
人間に近づかないはずのリスくんが、なぜかすぐ横にある薪の保管棚の所をチョロチョロし始めた。
ちょっとちょっと!
イライザが干しているタオルの上で…。
そうか!わかった!ルエルだ!
そう思ったら嬉し涙がこみ上げてきた。
糸トンボくんも登場。
湖畔の花たち。
おまけ。
うがい水と飲み水をゲットしに、近くの湧き水の所に行く。蚊の総攻撃を一手に受けるわたしは、ちょっと離れた所から写真を撮るだけ。
イライザが設置してくれたハンモック。
気持ち良かねえ〜。
日がどんどん暮れてくる。
いつも金色に光る窓。小学校の時に、なんかそういう話を読んだような気がする。
夫が見つけたケムトレイル。
気を落ち着けよう。
いきなり賑やかになったと思ったら、
4羽のアヒルさんたちが、水中に頭を突っ込んで遊んでた。
三日目の日曜日は、天気予報通り、朝から曇り時々雨。
気温が一気に下がったので、薪ストーブをつけた。
モントリオールで大流行りのコンブチャ。いわゆる紅茶キノコ。
せっかくの雨なので、車で40分ほど走った所にある町のカフェに行くことにした。
来るたびに同じ写真を撮ってる気がする…。
イライザは、ずっとずっと話し続けた。
もう涙は出尽くしていて、わきあがってきても流れ落ちることはなかった。
彼女が抱えているのは、夫と母親の死と現在進行形の父親の死。
ルエルの発病から今までに至る2年と3ヶ月の間に、彼女は闘い、打ちひしがれ、倒れそうになってはまた立ち上がり、気持ちを強めるためにありとあらゆる事をした。
その歴史の所々を、彼女は思いつくまま話し、夫とわたしはただただ耳を傾けた。
夫にとって、ルエルのいない湖畔の家は、イライザとはまた別の悲しみを与えた。
『男の子は泣くんじゃない』、というタイトルの曲を教えてくれたのはルエルだから、だから僕は泣かない。
どうしても泣きたい時は独りで泣く。
と言う夫は、今回、車を停めて家の玄関まで歩いて行く途中で泣いた(らしい)。
だから、イライザの話は辛すぎて、何度も途中で姿を消した。
幼い頃から50年近く、兄弟のようにして遊んできた人を、夫は失くした。
大人になってから30年近く、魂と魂が触れ合うように愛し合ってきた人を、イライザは失くした。
そんな二人の、それぞれの悲しみが、湖の水に溶けていくよう祈った。
四日目の月曜日は、夫とわたしの二人だけになった。
家に帰るかどうか起きてから決めようと言ってたら、なぜか突然のめまいに襲われた。
ベッドで横になっている時には、ちょっと変だなと思うくらいだったのに、起き上がって立とうとしたら、いきなりグワ〜ンと世界がゆっくり回った。
これはやばいと思って、少し落ち着くまでベッドの端に腰掛けた。
しばらくしてトイレに行って座り、ちょっと頭を傾げてみたら、途端に強烈なめまいが…。
もう黙っている場合ではない。
帰るどころか、部屋の中を移動するのもおぼつかない。
夫にめまいのことを話すと、即、鍼治療開始。
鍼を入れたまましばらく眠った。
めまいがすっかり消え、食欲も出てきた。
ぐずついた天気になるはずが、暑くもなく寒くもなく、それほど湿気もなく、いやこれ、カヌーにぴったりちゃう?
夫に内緒でカメラをビニール袋に入れてカヌーに乗り込む。
シルバーレイクの主、ルーンの声を夜に一度聞いたっきりで、今回はまだ姿を見ることができないでいた。
カヌーを漕いでいる間にもし出会えたら…と願いながら、湖の半分を周ったけれどだめだった。
まあ、毎度会えるわけでもないしな、そう思ってあきらめた。
気温が昨日より上がったので、もう一度泳いで、その勢いでシャワーを浴びることにした。
どうして勢いでシャワーを浴びるかというと、実は今回、お湯が全く出ないのだった。
食器を洗うのは、よほどの油物でない限り全く差し支えがないのだけど、泳いで冷えた体で水シャワーを浴びると、石けんを洗い流す頃には全身寒イボだらけになる。
でも、入らないわけにはいかないので、よっしゃ、行くぞ!と独りでブツブツ覚悟を決めていると…、
え?あれ?もしかしてあれは?
ルーンだった!!
あんなに探しても見つけられなかったのに、向こうから来てくれた!!
ああルーン…会いたかったよぉ〜!!
と、そこに、でっかい灰色サギが飛んで来て!
いやあもう、全員総出という感じ。
きっとこれもルエルのおかげだな。
帰宅日は、朝から掃除に励む。
立つ鳥跡を濁さず!
また来年までバイバイ!
なぜか白猫のBLACK CAT車。
これまたスカスカの国境。
モクモク雲。
また会おうね、ルエル。
発症から1年半の闘病だった。
少しでも良さそうなこと、効果がありそうなことがあれば、どんどんと取り入れては試した。
話が大好きだったルエルを襲った悪性腫瘍は、事もあろうに脳の言葉を司る部分に居座った。
ものすごく大きな不安とストレスを抱えてもなお、ルエルはイライザを優しく愛し続けた。
最期の最期まで。
そんな彼が亡くなって、残されたイライザを支えようと、友人たちがそれぞれにできることをした。
イライザ自身も、喪失感と憤りと悔いを心に抱えながら、それでもなんとか大きな波に飲み込まれないようにと、いろんな公的支援や専門家に助けを求めた。
そんな毎日を数ヶ月過ごした頃、突然今度は母親が亡くなった。
そのショックから抜け出せないでいる彼女に、さらに追い打ちをかけるように、父親が余命2ヶ月の末期ガンであることがわかった。
夫とわたしは、そんな彼女の気持ちを支えたくて、スカイプや電話で話した。
でもやっぱり、近くで目を見て、声を聞きながら話したいな。
肩を抱いて、背中を撫でて、手をそっと握って、何も言わずに一緒にいたい。
イライザにとって、父親の看病が今一番の優先事項なので、彼女の都合に合わせ、急きょカナダに出かけることにした。
車の窓ガラスから容赦なく差し込んでくる太陽の光が、年々強くなっているような気がするのはわたしの錯覚か?
最近は、高速道路のサービスエリアに、マッサージ機が置かれるようになった。
週末なのに、国境がガラガラ?!
ラジオからはフランス語が、そして標識もフランス語。
道の両側はずっと、広々とした畑の風景が続く。
舗装されていない道路を15キロほど走った。時々、前の車が作る砂埃で、2秒ほど全く前が見えないようになった。
いつもと全く同じ湖がそこにはあった。
わかってはいたつもりだったけど、全く同じということに動揺した。
全く同じ風景の中にルエルがいない。
とても大切な人がいなくなった後に、いつも必ずその人がいた所に行くと、その場所で感じていた心地良さとか楽しさが、蜃気楼のように揺らぎながら消えていく。
ルエルがいつも座っていた岩。
翌日の土曜日は、朝からよく晴れた。
あ、チップモンクくん!
え?え?いいの?撮らせてくれるの?
こんなことは初めてだった。
と感動していたら、今度はリスくんが!
人間に近づかないはずのリスくんが、なぜかすぐ横にある薪の保管棚の所をチョロチョロし始めた。
ちょっとちょっと!
イライザが干しているタオルの上で…。
そうか!わかった!ルエルだ!
そう思ったら嬉し涙がこみ上げてきた。
糸トンボくんも登場。
湖畔の花たち。
おまけ。
うがい水と飲み水をゲットしに、近くの湧き水の所に行く。蚊の総攻撃を一手に受けるわたしは、ちょっと離れた所から写真を撮るだけ。
イライザが設置してくれたハンモック。
気持ち良かねえ〜。
日がどんどん暮れてくる。
いつも金色に光る窓。小学校の時に、なんかそういう話を読んだような気がする。
夫が見つけたケムトレイル。
気を落ち着けよう。
いきなり賑やかになったと思ったら、
4羽のアヒルさんたちが、水中に頭を突っ込んで遊んでた。
三日目の日曜日は、天気予報通り、朝から曇り時々雨。
気温が一気に下がったので、薪ストーブをつけた。
モントリオールで大流行りのコンブチャ。いわゆる紅茶キノコ。
せっかくの雨なので、車で40分ほど走った所にある町のカフェに行くことにした。
来るたびに同じ写真を撮ってる気がする…。
イライザは、ずっとずっと話し続けた。
もう涙は出尽くしていて、わきあがってきても流れ落ちることはなかった。
彼女が抱えているのは、夫と母親の死と現在進行形の父親の死。
ルエルの発病から今までに至る2年と3ヶ月の間に、彼女は闘い、打ちひしがれ、倒れそうになってはまた立ち上がり、気持ちを強めるためにありとあらゆる事をした。
その歴史の所々を、彼女は思いつくまま話し、夫とわたしはただただ耳を傾けた。
夫にとって、ルエルのいない湖畔の家は、イライザとはまた別の悲しみを与えた。
『男の子は泣くんじゃない』、というタイトルの曲を教えてくれたのはルエルだから、だから僕は泣かない。
どうしても泣きたい時は独りで泣く。
と言う夫は、今回、車を停めて家の玄関まで歩いて行く途中で泣いた(らしい)。
だから、イライザの話は辛すぎて、何度も途中で姿を消した。
幼い頃から50年近く、兄弟のようにして遊んできた人を、夫は失くした。
大人になってから30年近く、魂と魂が触れ合うように愛し合ってきた人を、イライザは失くした。
そんな二人の、それぞれの悲しみが、湖の水に溶けていくよう祈った。
四日目の月曜日は、夫とわたしの二人だけになった。
家に帰るかどうか起きてから決めようと言ってたら、なぜか突然のめまいに襲われた。
ベッドで横になっている時には、ちょっと変だなと思うくらいだったのに、起き上がって立とうとしたら、いきなりグワ〜ンと世界がゆっくり回った。
これはやばいと思って、少し落ち着くまでベッドの端に腰掛けた。
しばらくしてトイレに行って座り、ちょっと頭を傾げてみたら、途端に強烈なめまいが…。
もう黙っている場合ではない。
帰るどころか、部屋の中を移動するのもおぼつかない。
夫にめまいのことを話すと、即、鍼治療開始。
鍼を入れたまましばらく眠った。
めまいがすっかり消え、食欲も出てきた。
ぐずついた天気になるはずが、暑くもなく寒くもなく、それほど湿気もなく、いやこれ、カヌーにぴったりちゃう?
夫に内緒でカメラをビニール袋に入れてカヌーに乗り込む。
シルバーレイクの主、ルーンの声を夜に一度聞いたっきりで、今回はまだ姿を見ることができないでいた。
カヌーを漕いでいる間にもし出会えたら…と願いながら、湖の半分を周ったけれどだめだった。
まあ、毎度会えるわけでもないしな、そう思ってあきらめた。
気温が昨日より上がったので、もう一度泳いで、その勢いでシャワーを浴びることにした。
どうして勢いでシャワーを浴びるかというと、実は今回、お湯が全く出ないのだった。
食器を洗うのは、よほどの油物でない限り全く差し支えがないのだけど、泳いで冷えた体で水シャワーを浴びると、石けんを洗い流す頃には全身寒イボだらけになる。
でも、入らないわけにはいかないので、よっしゃ、行くぞ!と独りでブツブツ覚悟を決めていると…、
え?あれ?もしかしてあれは?
ルーンだった!!
あんなに探しても見つけられなかったのに、向こうから来てくれた!!
ああルーン…会いたかったよぉ〜!!
と、そこに、でっかい灰色サギが飛んで来て!
いやあもう、全員総出という感じ。
きっとこれもルエルのおかげだな。
帰宅日は、朝から掃除に励む。
立つ鳥跡を濁さず!
また来年までバイバイ!
なぜか白猫のBLACK CAT車。
これまたスカスカの国境。
モクモク雲。
また会おうね、ルエル。