2) 三角座標を使った灰釉の調合。
・ 使用する釉の三要素は、長石(福島長石、平津長石、三河長石など)と土灰(又は柞(いす)
灰)に藁(わら)灰です。 注: 柞灰とは、鉄分の少ない灰で、鉄分を嫌う釉に使います。
・ 正三角形の頂点Aに長石100%と土灰0%を、底辺左側の角をBとし、藁灰100%と長石0%
とし底辺右側をCとし、土灰100%と藁灰0%とし、各辺を10等分し各辺に平行に線を引いて
グラフを作ります。
・ 灰には天然の物と人工的に作られた灰があります。前者は収穫時期や土地によって成分に
ばらつきが有り、釉にも変化があります。それ故、陶芸作家が好んで使います。
後者では、成分が一定にできますので、釉のばらつきは少なく、その分面白味が少ない様です。
灰釉の特徴として、焼成温度幅が広い事が挙げられます。
◎ この調合での実験例は多く、ある程度の結果が出ています。以下例を挙げます。
① 志野釉調: 完全に熔融せず、光沢も鈍く泡もやや多い釉です。
・ 長石80% 土灰20% ・ 長石70 土灰20 藁灰10 ・ 長石70 土灰20 藁灰10
② 鵜の糞、月白釉の基礎釉向き: 泡を含む失透性を帯びた光沢のある釉になります。
・ 長石50% 土灰30% 藁灰20% ・ 長石60 土灰30 藁灰20
③ 黄瀬戸釉、御深井釉などの基礎釉向き: 泡が無く透明性が強く、光沢のある釉。
・ 長石40% 土灰60% ・ 長石30 土灰60 藁灰10
④ 白萩、藁白風の基礎釉向き: 失透性があり、強い光沢のある乳濁釉。
・ 長石30% 土灰20% 藁灰50% ・ 長石40 土灰20 藁灰40
⑤ 結晶釉に向く釉: 光沢が有り、透明性のある結晶釉となる。
・ 長石15% 土灰70% 藁灰15%
⑥ 艶消し、伊羅保(イラボ)風に向く釉: 縮れを起こす場合も有ります。
・ 長石5% 土灰90 藁灰5%
3) 三角座標は釉の三要素をどの様に調合すると、どの様な釉が出来るかが解かる様になって
います。しかし、三要素の材料に変化があると、その結果も自ずから変化します。
① 長石を変化させる。
「長石の種類を変えると釉の性質が変化する。」とは昔から言い伝えられて来た言葉です。
長石には、以下の種類があり、その成分も異なります。およその成分比を記載します。
但し、実際には、各種長石の複合体のものが多いようです。
) 正(カリ)長石: 一般的に使用される長石で、福島長石が著明です。
福島長石: SiO2(62.5%) Al2O3(20.0%) K2O(11.3%) Na2O(3.7%) その他
) 曹(ソーダ)長石 : SiO2(68.7%) Al2O3(19.5%) Na2O(11.8%)
) 灰長石: SiO2(43.2%) Al2O3(36.7%) CaO(20.1%)
② 媒熔剤を替えると三角座標に於ける釉の状態も変化します。
) 前回取り上げた例では、媒熔剤を石灰石:酸化亜鉛=6:4 としましたが、
石灰石:炭酸マグネシウム=6:4 とすると広い範囲でマット釉に成ります。
石灰石: 炭酸バリウム=6:4 とすると透明釉に成りますが、座標の周囲ではマット釉に
成ります。
) 釉の熔ける範囲も変化します。焼成温度範囲が広がる場合と、狭まる場合があります。
一般に、多くの種類の媒熔剤を補助剤として添加すると、温度範囲は広がります。
③ 基礎釉によって色釉の発色が異なります。
以下次回に続きます。