わ! かった陶芸 (明窓窯)

 作陶や技術的方法、疑問、質問など陶芸全般 
 特に電動轆轤技法、各種装飾方法、釉薬などについてお話します。

素朴な疑問 196 歪みと変形の美とは3?

2015-11-21 15:15:29 | 素朴な疑問
3) どの様にして、変形や歪み(ひづみ)を与えるのか?

 ① 変形の仕方。

 ② 歪みの付け方。(以上が前回までの話です。)

 ③ 電動轆轤ではない、昔の手回し轆轤の方が、歪みのある作品ができ易い?

  現在轆轤と言えば、電動轆轤を想定しますが、電動轆轤が出現してから、数十年しか経って

  いません。それ以前は、作り手が自分の手や足を使い、轆轤を回転させながら、作品を作って

  いました。

  ) 現在の轆轤は、軸受けにボールベアリングを使い、「ガタ」が無く、回転も滑らかである

    為、返って作品が綺麗過ぎる程、綺麗に成り易く趣が無いと感じる人さえいます。

   a) 電動以前では、重たい木製の轆轤で、手回し轆轤と蹴(り)轆轤があります。

    蹴轆轤は現在でも使用されていますが、手回し轆轤はほとんど見掛ける事が無くなりました。

   b) 手回し轆轤は、木製の天板の縁に開けられた複数の穴に、回し棒を差し込み回転させる

    構造で、腕が回転し易い様に、右回転(時計回転方向)に回しているのが、一般的です。

    その流れを汲んで、わが国では電動轆轤でも右回転で使用する人が多いです。

   c) 当然、当時の轆轤の中心の回転棒と軸受けは、現在の様にベアリングは使われず、木製

    又は金属製が使われ、滑りを良くする為、油を差していました。一方轆轤が直ぐに止まら

    ない様に(慣性を大きくする為)、天板も厚くて重く作られていました。回転も力仕事で

    あった為、もっぱら男性の仕事と成っていました。

   d) 軸受けと軸は磨耗して「ガタ」が生じる事になります。

     幾ら精巧に作られた堅い木製の轆轤であっても、使い続けると磨耗が進みます。その為、

     作品も自然と歪みが発生し易くなります。更に、手や足で回転させる為、回転速度は最初

     が速く次第に遅くなります。現代の電動轆轤に対し、「速度の回転むら」は、はるかに

     大きいです。その為、更に歪みの要素が増えます。

   e) 回し棒を使う回数を減らす事も重要になります。即ち少ない労力で作業を行いたいと思う

     のは人情です。その為には、素早く轆轤作業を終わらせる必要があります。いかに素早く

     轆轤挽きを完了させるかも、大事な修行の一つになります。

     又、回し棒を右手で持つ為、右手は直ぐには使えません。棒を置いてから使う事になり

     作品の大きさによっては、左手一本で作る事もありました。いずれも、歪みの原因になる

     要素とも言えます。

  ) 切糸や「シッピキ」を用いて切る際にも歪みが発生します。

    この件に付いては、前回でも述べましたが、より詳しく説明したいと思います。

     注:「シッピキ」とは、片方に持ち手がある25cm程度の長さの紐状の物で、昔は馬の

      尻尾や藁(わら)を撚って使用されていましたが、現在では凧糸や水糸のものが多い

      様です。尚、両方に 持ち手のあるものは、切り糸と呼ばれています。

   a) 轆轤を回転させながら作品の底を切り離します。

    一塊の土から次々に作品を作る数挽きの方法では、下の土から切り離す為、糸や「シッピキ」

    と呼ばれる用具を使います。その際轆轤を止めた状態で切る場合と、回転させながら切る

    方法があります。回転して切る場合には、「シッピキ」を使います。

   b) 切り離す位置を、竹べらや親指の爪を用いて固定し、「シッピキ」を当てます。

    轆轤の回転と共に巻き付きますので、一回転半したら水平に引き抜き、切り取ります。

    その際、手前に当てる方法と、向こう側に当てる方法があります。前者であれば右手で引き

    抜き後者であれば、左手で引き抜く事になります。素早く引き抜かないと、「シッピキ」の

    上に何時までも作品が乗った状態ですので、作品が「ドベ受け」に転げ落ち、作品が傷だら

    けに成ってしまいますので、素早く引き抜く事です。尚、切る際、一般いは「シッピキ」を

    水で濡らしますが、場合によっては、水を付けない方法もあります。

   c) 「シッピキ」で切った切り口は、綺麗な渦巻状に成っています。

    切りっ放しの底の場合(ベタ高台)には、この渦巻き文様も一つの見所となります。

    尚、回転方向を逆にすれば渦の巻き方も逆になります。

   d) 「シッピキ」で切ると、計算外(予想外)の力が作品に加わり、左右対称の形が壊れます。

    即ち、「シッピキ」は作品の中心に向かって巻かれますので、作品の底や口縁など全体に

    中心に向かう力(向心力)が働きます。更に横方向に引き抜く際、抗力が働き作品の形を

    変形する力と成って現れ、これが作品の動きとなります。その動きも、回転の早さ、手の

    動かし方(挽く抜く動作)によって、変形の仕方も変わると言われています。

    これも作品に個性の出る要素になります。

4) 歪や変形の美とは?

以下次回に続きます。
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