鼎子堂(Teishi-Do)

三毛猫堂 改め 『鼎子堂(ていしどう)』に屋号を変更しました。

『数えずの井戸:京極夏彦・著』

2011-03-28 23:13:11 | Weblog
晴れ。気温徐々に上昇か・・・。
 

番町皿屋敷・・・夜な夜な井戸の中から現れいでたる幽霊は、お菊さん。
いち~まい、にまぁい、さんまぁい・・・お皿を数える幽霊さんですが・・・。

貧乏だけれど格式高い番町・青山家の庭先には、枯れてはいないのに使っていない井戸がある。
かの千姫が、大阪城落城後の晩年、住んだといわれるこの番町皿屋敷。
千姫の手討ちにあった夜伽数名の遺体を投げ込んだと伝わる瘴気漂う井戸を前に、若き旗本・青山播磨は、幼い頃からの欠落感から逃れらず、常に『ナニカが足りない・・・』無間地獄を彷徨っている。

朋輩の遠山主膳も、立場は違えど、播磨と同じ満たされることのない地獄に身を置く者。

青山家の家宝・姫谷焼き揃いの十枚の皿と青山播磨の両方を手に入れたい大久保吉羅は、充分持っているはずなのに、まだまだ欲しい・・・強欲なお姫様。

そして・・・夜空にぽっかりと浮かぶ月のような儚い美しさと純粋な心、生来の慎重さ、そして、不器用さが、仇となり奉公先で、何かとトラブルの耐えない菊。
それでも菊は、全てを持っている・・・。何も持っていない貧乏人だけれど、生きているだけで、幸せだと思う『足ること』を知っているひとだ。従順で優しく底辺に生きることを受け入れているひとだ。

映画など既成のお菊さんとは、全く違っているようで、ひんやりと静かで、薄暗く、さらりとつめたい物語。

『数えるから足りなくなる・・・』

見る人の心を虜にして、他の事なんかどうでもよくなってしまう神品・姫谷焼き揃いの十枚皿。

縁の糸を紡ぐのは、裏京極堂シリーズの御行の又市、四珠の徳次郎。
全く無関係だと思われた青山播磨とお菊の因縁。
播磨もお菊も自分では、どうにもならない親の因縁が、複雑に絡まり、悲劇へと向う。

もう少し早く、二人が出会っていたならば・・・。
或いは、もう少しあとに・・・。
そんな思いがよぎる・・・

旗本・青山播磨は、どことなく『嗤う伊右衛門』の民谷伊右衛門を連想させるキャラクターである。
菊は、宮部みゆきさんの『孤宿の人』の主人公『ほう』が、年頃の娘さんになったら、菊のような人になるのではないだろうか・・・と思いながら読んだ。

もしかすると、季節的には、夏に読んだ方がいい一冊かも・・・???
番町皿屋敷だもんなぁ・・・。