「思っているだけでは伝わらないぞ。ちゃんと口に出して言わなければダメだ」と、先輩に言われたことがある。思いが強ければ、以心伝心のように思うけれど、相手だって、何となく解っていても、早合点ということもある。
言葉で伝えることが大切なことだと分かっていても、なかなか難しい。若い男性は、「そんな面倒なことをするくらいなら、別に恋なんかしなくてもいい」と、ハッキリしている。「恋人がいなくて寂しくないの?」と聞くと、「却って自分の時間が出来ていいですよ」と言う。
若い時はそれでいいのかも知れないが、「歳をとると寂しくなるよ」と、言いそうになって止めた。50歳も年下の人に、そんなことを話しても理解できないだろう。彼らには彼らの生き方があり、価値観も違う。「恋愛はしたことありますよ。でも、何で結婚するんですかねえ」と逆に問われてしまった。
好きになれば結婚するのが当たり前だと思っていた。好きな人と一緒に、景色を観に出掛けたり、食事をしたり、映画や演劇を観たり、話をしたり、それがとても楽しかった。恋することの歓びと充実があった。
「それは僕らも同じですよ。時々身体の交わりもあったりして、それで充分じゃーないですか?」と、言われてしまうとどう返答してよいのか困った。恋愛中に性行為は無かったし、するべきものでは無いと戒めていた。
高齢者となった今、若い時のようなセックスは出来なくても、恋人同士のように付き合っている人たちもいる。松井久子さんの『最後のひと』の男女は86歳と75歳だが、慎み深い性愛に満たされている。
恋愛は本人たちが満足なら、どんなかたちであってもよ恋愛以心伝心い。高齢者のふたりが、籍を入れる入れないも、ふたりが納得出来ていればよい。以心伝心に頼らずに‥。