会田誠著『性と芸術』(幻冬舎)の帯には、「日本の現代美術氏史上、最大の問題作“犬”は、なぜ描かれたのか?」とあり、小さな文字で「作者自らによる全解説。これはほぼ『遺書』である」とも書かれている。
著者の会田誠氏は1965年生まれだから、今年57歳の作家である。生まれは新潟県だから東京に出てくるまでは、田舎育ちだったことだろう。1991年に東京芸大の大学院美術研究科を修了している。
どんな作品を描いたらよいか、いつも悩み続けていたようだ。3年生の時の作品『河口湖曼荼羅』は、寺院の天井に描かれた曼荼羅をモチーフにしているが、四角の中に円を配置していて、斬新さも説得力も感じない。
翌年の卒業制作『死んでも命のある薬』は、抽象画のような花火の線が描かれ、花火の筒と思われるものだけが、実物大に精密に描き込まれている。本人曰く、「優等生的抽象画より、黴の生えた過去の遺物=具象画を描くことにした」。
東京国立博物館に展示されている狩野永徳の『檜図屏風』に触発されて、油絵で日本画の精密な描写を再現する手法へ変わっていく。1989年大学院修了展に提出した『犬』は、パソコンで会田誠を検索すれば観ることが出来る。
手足を切断され、首輪をつけた裸の少女が空を見上げている絵である。エロチックで衝撃的な作品であるが、同時に女性を弄んでいるとも言える。美しいと思う人もいれば、吐き気がすると感じる人もいるだろう。
愛知県美術館で開催された「不自由展」の時、『平和の少女像』を政治的だとか、天皇の写真を燃やすのは「不謹慎」と反対運動が起きた。観る人がどう受け止めるかは自由だが、展示の中止を求めるのは「表現の自由」に反している。
作者の手を離れてしまえば、作品から何を感じるかは観る人の自由である。会田誠氏はどのようにして『犬』が出来上がったかを語っているが、本人も書いているように、「美術作品の解説なんて作者本人はしない方がいい」。
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