【永田満徳(みつのり)】 日本俳句協会会長代行 俳人協会幹事 俳人協会熊本県支部長 「文学の森」ZOOM俳句教室講師

「火神」主宰 「俳句大学」学長 「Haïku Column」代表 「秋麗」同人 未来図賞/文學の森大賞/中村青史賞

☆ 第6回 俳句大学三賞発表 ☆

2024年02月18日 20時47分21秒 | 俳句大学

回 俳句大学三賞発表

 

【第回 俳句大学大賞】

津髙里永子『寸法直し』

(東京四季出版)令和4年2月

【永田満徳】選評

『寸法直し』は十五年間の句業が集約された四百五十六句の句集。「未来図」を経て「小熊座」の同人、さらに「すめらき」「墨BОKU」の代表。

一口で括れない句柄の豊かさを堪能できる。

建国日富士には煙突が似合ふ

この冒頭の句は太宰治の「富士には月見草がよく似合う」を踏まえていて、本歌取りをなぞっただけの句に堕するきらいがあるが、「煙突」が秀逸である。発想の原点は写生であっても、そこからの「建国日」という季語に飛躍するところが独自である。

たんぽぽの絮よわが夢何だつけ

「たんぽぽの絮」の浮遊感に「夢」のはかなさを持ってくる辺りはこの作者ならでは発想である。

おほごとになればなつたで髪洗ふ

「髪洗ふ」をうまく使い、肝の座ったところを詠み、「たんぽぽの絮」の句と同様に、口語表記のおかしみがある。

まあまあの男にバレンタインデーチョコ

恋の句にありがちな甘さがない。

ぶんらんこの重たさに恋手離すか

「重たさ」は「ぶんらんこ」と「恋」の両方に掛かっていて、取合わせの妙味を味合わせてくれる。

海外詠にも視点の確かさ、面白さを堪能させてくれる。

ブータンの人みな正月らしき顔

シベリア鉄道寝返り打てば壁

「正月らしき」にしても仏教の国「ブータン」が立ち上がってくるし、「壁」にしても自然の厳しい「シベリア」が的確に描かれている。

作風の幅の広さがこの句集の魅力であるだけに、津高理永子氏は次の句集を読んでみたいと思わせる俳人の一人である。

 

「第回 俳句大学大賞準賞」

松野苑子『遠き船』

(角川書店刊)令和4年4月

【仲寒蟬】選評

第62回角川俳句賞を受賞した作者の第3句集。

あとがきには母の死や闘病など辛いことの多い時期だったとあるが、俳句の読後感が明るいのは作者の性格ゆえであろう。

  春の日や歩きて遠き船を抜く

 句集の題になった句。印象鮮明である。

  緑さすコップの中の水平線

火の上に自爆の形して栄螺

夏帽子駝鳥に求愛ポーズされ

いつも自然体で好奇心旺盛な松野さんらしい。

  死後も効く薬なら飲む天の川

  病窓の春満月の神話めく

 人を楽しく前向きにさせてくれる句集である。

 

黛まどか『北落師門』

(文學の森)令和4年7月

【五島高資】選評

黛まどかの句集『北落師門』(文學の森)は、前句集『てっぺんの星』から、十年を経ての句集であり、その間、日本は度重なる自然災害、新型コロナウイルスによるパンデミックなどに苦しめられた。

また、作者自身も大切な知己の死や、とりわけ俳人である父・黛執の死に遭遇したことが、生死を超克する、更なる句境の深まりをもたらしたのではないだろうか。

句集名の北落師門は、南の魚座の首星をいうが、俳句はもちろん、多くの芸術活動に携わるなかで、その孤高な光が彼女の心を支え続けた。父の一周忌後の墓参の際にその星をたまたま望むことが出来たのも偶然ではないだろう。

青空のどこかが弛み梅香る  

竹煮草いづくで憑きしひだる神 

面より底ひの水の真澄かな 

月光の浮かせてゐたる力石 

滴れる山を重ねて高野山 

ためらはず沈む夕日も秋水忌  

などに覗われる句境の深まりは、同時に、見えない聖性に裏打ちされた詩的至境として私たちに大きな感銘を与えてくれる。そして、それらは、かつて作者が茂木健一郎と著した『言葉で世界を変えよう』(東京書籍)の体現として、言霊による現代俳句の新しい未来をも示している。  

 

※岡田耕治氏の『使命』(現代俳句協会・令和4年2月)は複数の選考員が推挙するも、岡田耕治氏が選考委員ということで、選考の対象外とした。

 

選考委員 : 岡田耕治 (大阪教育大学特任教授・「香天」代表) 、木暮陶句郎 (「ひろそ火」主宰) 、五島高資 (俳句大学副学長) 、斎藤信義 (「俳句寺子屋」主宰) 、仲寒蟬(「牧」代表)、永田満徳 (俳句大学学長)

 

 

【第6回 俳句大学新人賞】

 

「晩夏光」大津留 直

【五島高資】選評

物自体に迫る作者の感性が、言葉を超えて詩的に昇華されている句が多かった。一句一章にしても二句一章にしてもそこに「切れ」の詩法が活かされているものに感銘を受けた。例えば、

レース編む針の光のたゆたかな

 レースを編みながら時折見える針の光がゆっくりとしたリズム感として共感覚的に捉えられている。レースの透かし模様に夏の涼しさを感じさせると共に、編む人の心の穏やかさも見えてくる。それは作者の心とも共鳴してまさに「ものの見えたる光」としてまさに揺蕩いながら読者の心にも迫ってくる。

窓際のアンモナイトの朧かな

 アンモナイトは太古に栄え、そして今は絶滅したオウム貝に似た古生物であり、おそらくその化石が窓際に置かれているのであろう。現在の地球も温暖化などの異常気象で様々な生物が生存の危機にあると言う。人類もまた生存の窓際ならぬ瀬戸際にあるのかもしれない。すでに絶滅した恐竜なども「朧」から連想それて深い詩的交響が身にしみる。

 その他、感銘句を抜粋する。

舟唄や卯波の宿す星の影

花魁の墓に十薬蔓延れり

狼の非在にこもる力かな

 これらの他にも、過不足のない言葉によって、叙景から心象風景に至るまで、「切れ」により詩法がうまく成就しており、作者の素晴らしい感性と詩性に感銘させられた。

 

【第6回 俳句大学新人賞準賞】

 

「農夫の目」杉山 滿

【辻村麻乃】選評

鍬先の寝惚け眼の蛙かな

に農業をされる方の日常が顕著に見られ、その根底には、

墓洗ふ四代前の名をなぞり

のような先祖を大切にする気持が含まれている。

ただし惜しまれるのは、

風光る波に跳ねてる白マスト

の「跳ねてる」のような拙い口語表現があることで、「跳ねてゐる」の略だがこの場合「跳ねたる」が妥当だろう。 

農業にとって大切な太陽を

 焦点を水平線に初日待つ

のような目線で描く点は作者の力量を感じる。

「農夫の眼」には実体験から詠まれた力強さを感じた。天変地異のおこる今の日本だからこそ、こういう揺るぎない自然への感謝を含めた句は力を持つ。

 これからに期待したい。

 

選考委員 : 大高翔 (「藍花」副主宰) 、五島高資、仙田洋子(「天為」同人)、辻村麻乃 (「篠」主宰) 、永田満徳、松野苑子(「街」同人会長)

 

 

【第6回 俳句大学評論賞】

 

該当者なし

選考委員 : 井上泰至 (防衛大学校教授) 、加藤直克(自治医科大学名誉教授)、五島高資、永田満徳

【選考資料】

第6回俳句大学大賞候補」

【岡田耕治】

津髙里永子『寸法直し』(東京四季出版)令和4年2月

小田島 渚『羽化の街』(現代俳句協会)令和4年10月

恩田侑布子『はだかむし』(角川書店)令和4年11月

 

【木暮陶句郎】

堀本裕樹『一粟』(駿河台出版社)令和4年5月

小川軽舟『無辺』(ふらんす堂)令和4年10月

星野高士『混沌』(深夜叢書社)令和4年8月

 

【五島高資】

津高里永子『寸法直し』(東京四季出版)令和4年2月

黛まどか『北落師門』(文學の森)令和4年7月

小山玄紀『ぼうぶら』(ふらんす堂)令和4年11月

 

【斎藤信義】

布施伊夜子『あやかり福』(角川書店刊)令和4年12月

松野苑子『遠き船』(角川書店刊)令和4年4月

黛まどか『北落師門』(文學の森)令和4年7月

 

【仲寒蟬】

岩田 圭『膚』ふらんす堂)令和4年12月 

杉原祐之『十一月の橋』(ふらんす堂)令和4年4月 

松野苑子『遠き船』(角川書店刊)令和4年4月

 

【永田満徳】

津髙里永子『寸法直し』(東京四季出版)令和4年2月

和田華凜『『月華』』(ふらんす堂)令和4年3月

柴田奈美『イニシャル』(本阿弥書店)令和4年8月

 

「第6回 俳句大学新人賞候補」

「晩夏光」大津留 直

新人賞推薦

【五島高資】【永田満徳】

新人賞準賞推薦

【辻村麻乃】【松野苑子】

 

「農夫の目」杉山 滿

新人賞推薦

【辻村麻乃】

新人賞準賞推薦

【五島高資】【永田満徳】

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俳句のレトリックとは何か 「策略風新聞網」

2024年02月18日 20時36分22秒 | 華文俳句

「策略風新聞網」よりお知らせ!

 〜  俳論掲載さる  〜

※洪郁芬氏(訳)の紹介で、台湾の「策略風新聞網」に拙論「俳句はレトリック」が掲載されました。
※「策略風新聞網」とは、日本の産経新聞のネット版のようなもので、その「文芸欄」です。
専門知識を活かし、台湾を知恵の島にするために、知識共有のプラットフォームです。
※お読み頂ければ幸いです。

【本文】

俳句のレトリックとは何か
 永田満徳
 
「文学の森大賞」の第一次選考委員である望月周が私の第二句集『肥後の城』(文學の森、2021年)について、「心の表現に適う修辞を自覚的に探りながら、郷土・熊本への熱情を多彩な詩に昇華しており、強い印象を残す。」と述べて、『肥後の城』における「修辞」(レトリック)の効果を高く評価している。
私は『俳句界』2023年5月号で「文学の森大賞」受賞について言及した際、「夏目漱石の言葉とされる『俳句はレトリックの煎じ詰めたもの』に倣い、連想はもとより、オノマトペ・擬人法・同化などを駆使して、多様な表現を試みました。」と書いているだけに、望月周の選考評は私にとって非常に満足のいくものであった。
 
私は代表を務める「俳句大学」で、講師として選句も担当してきた。私が提示した兼題には必ずオノマトペが含まれているので、当然、『肥後の城』においてはオノマトペを使った俳句が多くなる。
 
今村潤子は『火神』第75号の「特集 永田満徳句集『肥後の城』」のなかで、
 
春昼やぬるんぬるんと鯉の群
 
しやりしやりと音まで食らふ西瓜かな
 
を取り上げて、「擬声語、擬態語が大変旨く表現されている。このようなオノマトペを使った句は他にもあるが、そこに作者の詩人としての感性が匂ってくる。」と述べている。
また、『肥後の城』第四章の「大阿蘇」のなかの、
 
ぐらぐらとどんどんとゆく亀の子よ
 
という句の場合、一句の中に「ぐらぐら」と「どんどん」というオノマトペを使うことによって、「左右に揺れながら一心に進んで行く」といった複雑な内容の長い文章を五七五の短い表現にできる。
オノマトペは世界一短い定型詩である俳句にとって非常に効果的であると考えてよい。
 
続いて、比喩は、譬えとも言うが、何かを表現したり伝えたりする際に、あえて他の事柄にたとえて表現する技法のことである。今村潤子は同じく「特集 永田満徳句集『肥後の城」において、
 
春の雷小言のやうに鳴り始む
 
熱帯夜溺るるごとく寝返りす
 
を取り上げて、「一句目は、春の雷は夏の雷と違ってごろごろと弱く鳴っている。その様を『小言のやうに』譬えた所、二句目は寝苦しい熱帯夜に輾転反側している様を『溺れるように』と譬えた所に、熱帯夜が唯ならぬものであることが感受できる。」と述べて、「譬えが句の中で精彩を放っている」と指摘している。
比喩は当たり前の表現をおもしろくしたり、分かりにくいものでも分かりやすくしたりする利点がある。
 
更に、擬人化について触れると、『肥後の城』の第一章の「城下町」だけでも多く取り出せる。
 
いがぐりの落ちてやんちやに散らばりぬ
 
「いがぐり」があちらこちらの散らばって落ちている様を詠んだもので、人間以外の「いがぐり」を「やんちや」坊主という人間に見立てた句である。
擬人化の句は別の一句では次の通りである。
 
極月の貌を奪ひて貨車通る
 
擬人化は意外性のある句を作ることのできる魅力的な手法であるとともに、わかりやすさ、納得しやすさという点で修辞法の代表といえる。
 
最後に象徴であるが、象徴は抽象的な思想・観念をわかりやすく、別の具体的な事物によって理解しやすい形で表現する方法である。
例えば、
 
こんなにもおにぎり丸し春の地震
 
「おにぎり」を「真心」といった具合に、物と人間の深奥とを重層的に表現していると言うことができる。
物そのものを詠むのが俳句の骨法であるが、象徴は具体的でありながら抽象的な概念を詠み込むことができる象徴化という表現技法は「俳句のレトリック」の極北である。
 
「俳句のレトリック」は言葉の力を最大限に引き出すための表現手法として重要な役割を果たす。レトリックは俳句という短詩型にとって有効な表現手段である。俳句は究極的には「レトリック」の固まりと言ってよい。作者の意図、感動を正しく読者に伝え、共感を得るために、もっと積極的に取り入れてよいのではないか。

 

https://strategicstyle.org/popustyle-8371/202406/

 

永田満徳
1954年日本の人吉市生まれ。 熊本大学大学院修了。俳人協会幹事、日本俳句協会副会長、俳人協会熊本県支部長。俳誌「火神」主宰、俳句大学学長、俳誌「秋麗」同人。著書に句集『寒祭』(2012・9・27発行)。第二句集『肥後の城』(2021・9・27発行)で「文學の森大賞」受賞。

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