自在なオノマトペ ~句集『肥後の城』を読む~
金田佳子
コロナがちょっと収まっていた去年の十一月、小さな旅に出た。帰り、八代駅から電車に乗るとどんどん暗くなり、大きな丸い月まで出てきた。思わずこの句が浮かんだ。
通勤車月の出づれば旅となる
永田満徳さんの第一句集『寒祭』のなかの句である。
永田さんの句は、こんな風にふと頭に浮かんでくる。今度の第二句集『肥後の城』でも、避難所の炊出しのおにぎりを詠まれた
こんなにもおにぎり丸し春の地震
三角のおにぎりを見るとつい口ずさみ、地震の時のいろいろを思い出す。かたつむりを見れば、たとえその時じっとしていても
かたつむりなにがなんでもゆくつもり
という具合だ。ふと口ずさみ愛唱するというのは、間違いなく私にとって名句である。
さて、そんなことを思いながら『肥後の城』を読み返した。すると今度はオノマトペが気になった。抜き出してみよう。
城下町 なし
肥後の城 ぽたり、だりだり、ごろんごろん、とろり
花の城 どさり、ぬるんぬるん、ひたひた、ぼこぼこ、
しゃりしゃり、ぱっくり、ぱんぱん
大阿蘇 とんとん、ぐらぐらぐんぐん、もぞもぞ、ゆったり、じっくり、ぽたんぽたん
独特なのは、「だりだり」くらいで、他は普通のオノマトペなのに句の中にあると印象鮮明、途端に句が生き生きとする。うまい。動詞や形容詞、形容動詞で説明されるよりずっと体感する。例えば、
助手席の西瓜のごろんごろんかな
これで車がカーブの多い道を走っていることがわかる。
天草のとろりと暮れぬ濁り酒
濃密な日暮れの時間ととろりと濁る酒。
制服をどさりと脱ぐや卒業子
どさり、という言葉に制服の重さだけを思う人はいないだろう。
ぐらぐらとぐんぐんとゆく亀の子よ
孵ったばかりの海亀の子だろう。はじめは覚束ない足取りだったのが海へ向かって砂浜を一心に進んで行く。ぐんぐんと進んで行く。上空では鳥が旋回しながら狙っている。早く早く!そんな気持ちになった。
『肥後の城』は、私にとってオノマトペの可能性を感じた句集だった。
ところで、永田さんは国際俳句にも力を入れていらっしゃるが、これは外国語に訳せるのだろうか?
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