読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

どら猫は何処へいった

2011年01月13日 | その他

S夫妻は旧くからの友人で、Kちゃん、Hちゃんと呼びかける間柄である。
Kちゃんは一昨年の暮れ近くに思わぬ病に罹り現在闘病中である。
奥様のHちゃんが新年のあいさつにと訪ねてきた。

「去年の暮れにあった話。まあ聞いて下さいよ」とHちゃんが話し出した。

暮れのある夜更け、Kちゃんが物音で目覚めた。
「がたがた、ごとごと」しばらくするとまた「がたがた、ごとごと」・・・。
こんな夜更けにこの物音は何か。ネズミ駆けるにしてはちょっと音が違う。
さては泥棒か。

Kちゃんは工務店の社長さんである。
この家は「ショールーム」的な目的もあって大きな立派な家である。
2所帯が住める構造で、建坪が60坪もある。泥棒が狙いをつけても不思
議ではない。
寝室は現在事務所として使っている棟に接しており、その異様な物音は
どうやら事務所棟から聞こえてくる。
事務所狙いの空き巣か?

このままではとても寝ておられないと同室の妻Hちゃんが起きないように
そっと起き出し、どてらなど着こんで、懐中電灯を手に、様子を見に外へ
出た。ついでに玄関先にあった黒檀の靴べらを携えた。「おっとり刀」に
しては頼りない代物ではあるが、とっさのことであり責められない。

事務所の下が駐車場になっており、事務所への階段を上がるとシャッタ
ーがある。Kちゃんはこのシャッターに懐中電灯の光を当てた。
途端。
黒い塊が目の前に向かって飛び込んできた。Kちゃんはとっさに件の黒檀
の靴べらを横薙ぎにした。
「ぎゃっ!」
手応えはあって、曲者は悲鳴と共に消え去った。

 「医者には風邪をひかないように気をつけなさいよと言われているのに。
 どうして私を起こさなかったの。もし凶器を持った泥棒だったら命が危な
 かったでしょうよ。それも靴べらで闘おうなんて。昔のKちゃんじゃないん
 だから。何かあったらどうするの。」と奥様には散々怒られたらしい。

どうやら物音の犯人は猫だったらしい。分かってみれば「なーんだ」という話
であるが、そんな時は一番悪いことを想像するので、Kちゃんの対応も分か
る。相手が猫でよかったとしよう。

さて後日談。
S夫妻のお宅の近くの奥様は犬好きで毎日犬を散歩させる。ところが猫も飼
っていて、その太った黒い猫がなんと犬と仲好し。散歩する犬の後をついて
いくらしい。
いつも決まった時間に散歩に現れるので見慣れた光景ではあるが、あの事
件のあと、黒猫がついてこない。
見慣れた猫がいない。

想像するに、例の夜Kちゃんに横なぎに「斬られた」曲者猫はこの黒猫だった
のではないか。
犬の散歩の奥さんに「このところ猫の姿が見えませんが、どうかしましたか・・
・?」と聞いてみようかとも思うがどうしたものか。今Hちゃんは悩んでいる。

それにしてもかわいがっている猫をなぜ家の中に入れていないのか。寒空
の夜中、人さまの家のシャッターを叩いて中に入れてもらいたがるほどの仕
打ちをするわけは何?。

件の猫は今どうしているのか。
① 打ち所が悪くて、内臓破裂で犬猫病院へ担ぎ込まれたのか。
② 派手に悲鳴は上げたものの打った場所は脚で、当面痛いのでお散歩は
  お休みしているだけなのか。
③ 手傷を負っては飼い主に合わせる顔がないと、人知れぬ場所まで這って
  行って果てたか。
④ おのれこの恨み晴らさでおくものかとばかりに、近くの公園の物陰から
  「虎視眈々」とばかりにS家の隙を窺っているとか。

 鍋島騒動を例に引くまでもなく、猫をいじめたるすると後味が悪い。犬にはそ
んな陰湿なイメージはないが、猫には気位が高くて人間を見下したり、侮る風
とかがあり、執念深さは群を抜いているように思えるが如何?
この黒猫騒動、まだ治まったとは見えない。


(この項終わり)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする