◇ 『烙印』著者:天野節子 2010.12 幻冬舎刊
著者天野節子は、初めて出した小説『氷の華』が2006年で、これが自費出版。この本は翌年単行本
で、のちに文庫化されベストセラーになった。1946年生まれで作家デビュ―62歳、遅まきの大型新人
と囃された。
「烙印」とは鉄などの金属を焼いて印を焼きつけること。消すことにできない汚名を着せる時なども「烙
印を押す」などという。罪人に押す印であり良い意味には使われない。その意味ではこの本の題名はな
ぜ「烙印」なのかよくわからない。確かに殺人者は出てくるが象徴する「烙印」の意味合いが明確には浮
かび上がってこない。
しかし、この作者の構想力、小説としての構成力は大したものだ。慶長15年(1610)房州・御宿に難破
したスペイン船がたどり着く。この史実と400年後の現代の殺人事件が深いところでつながりを持つ。壮大
な隔世遺伝を小 説の主題においたところがすばらしい。足で緻密な捜査を積み重ねていく刑事とクールな
容疑者との駆 け引きも魅力である。
◇ 『ドラゴン・ティアーズ龍涙―池袋ウェストゲートパーⅨ―』
著者:石田衣良 2009.8 文芸春秋刊
怪しげなエステの被害者女性たちからの訴えで乗り出した「マコト」。街頭キャッチャーと収奪の仕組み
を暴きだし、UTubeとニコニコ動画を巧みに使って懲らしめる。(キャッチャー・オン・ザ・目白通り)
ホームレスの就労者手帳を巧みに巻き上げ失業保険金を不正受給する悪辣な建設会社に対し、ホー
ムレスを圧力集団に仕立て上げてデモを演出、見事に手帳を取り返した「マコト」。(家なき者のパレード)
新種の出会いシステム「出会い部屋」。街金・中小暴力団とつるんだ某「出会い部屋」で、母親の借金
のカタに管理売春をさせられている女の子を救い出してほしいと頼まれた「マコト」。彼女いない歴28
年のサンタクロース体型の片思い彼氏と一緒に奮闘する。(出会い系サンタクロース)
最低賃金をも下回る賃金で収奪されている中国研修生。郷里の父親の治療代捻出のために宿舎を脱
出、某中国人就労あっせん闇グループに駆け込んだ女性を取り戻すために頭を絞る「マコト」。これを依頼
してきたのは日本語の上手な中国人(実は上海系グループの情報屋)。複雑な中国マフィアグループを
うまく凌ぎながら三方一両得の結果を導き出す。(ドラゴンティアーズ=龍涙)
(以上この項終わり)