読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

中国ビジネスへの警鐘

2012年06月30日 | 読書

◇『だまされて―涙のメイド・イン・チャイナ―』 著者: ポール・ミドラー(Paul Midler) 
  (原題:POORLY MADE IN CHAINA)  訳者:サチコ・スミス
                            2012.3 東洋経済新報社 刊




 中国本土での翻訳計画が立ち消えになった。むべなるかな。こんな本の出版を中国政府が許すはずがない。
何しろ20年以上中国ビジネスに携わったコンサルタントの綴ったノンフィクションまがいの著作である。なかな
か反論は難しかろう。

 著者は大学で中国語と中国史を学び、広州を拠点に、永年中国で数百に及ぶ製造業者と欧米の輸入業者と
の仲介ビジネス(主として生産委託)に携わってきたプロ。
 2009年の本書の出版は、アメリカを初め欧州等で大きな反響を呼びエコノミスト、フォーブス、Inc.などの
ベスト書籍として取り上げられた。
 実例をもとに一篇のストーリーに仕立て上げられているので、登場する人物のキャラクターも相俟って面白く
読ませる。

 これまで断片的に中国ビジネスをめぐるトラブルを知るにつけ、単に低賃金によるコストダウンを狙って中国
での生産に走る製造業の帰趨に一抹の危惧を覚えていたが、本書を読むに及びその危惧は確信に至った。
 世界中が安い労働力を求めて中国に殺到した時代は終わり、進出企業の撤退が始まっているという。その
背景の一つは、最初からずっと変わらず、そして多分今後も続くと思われる一種の企業モラルである。

 著者ポールは、今はボディソープは使わず熱い湯だけのシャワーにしてるという。石鹸もあまり使わなくなった。
「わざわざ危険な目に遭わなくても…」という気持ちから。たとえ大手のビュ―ティ・ヘルスケア製品であっても
どこに中国製のものが使われているか分からないからだ。
 彼らにはエンドユーザー(最終消費者)は念頭にない。毒性の強い化学薬品も安ければ平気で使う。彼らは
自分たちがごまかしても消費者が知らなければ顧客(委託業者・小売業者)が被害を受けることはないという
信念があるらしい。そもそも中国の消費者は自国の工業製品をもともと信用していないのだ。

1.商談が進みサンプルを手に入れると模造品製作に走る。納品数量以上に作りいい値段で第二市場に売る。
2.契約が済むと途端に納入価格の引き上げを迫る。輸入業者はその段階で他にサプライヤーを見つけること
 は出来ないので泣く泣く値上げを飲む。これはほぼ常とう手段。
3.自社の財務状況、原価計算などの数字は示さない。(明らかにしたくない。したくとも出来ない)
4.平気でスペックの原材料をを変える(安く上げるために)。製品の品質保証などの概念はない。
5.すべて儲け次第。例えば、シャンプーのボトル裏面の成分表示に間違いがあった。アメリカの食品薬品局は
 成分表示にはうるさいのでラベルを直すように要求した。
  ところが新しいボトルが生産ラインから届いたとき、唖然・・・。前と同じラベルが貼ってあった。「先ず旧い
 ラベルを使いきらないとね」とのこと。
6.中国ではごまかしがあっても罰せられない。せいぜい次回ちゃんとやること、で済む。悪くてももう一度作りな
 おすことくらい。気がつかれたら「ごめんなさい」。分からなければラッキー。
  商品見本通り作らなかった製品は模造品になる。模造品の知的所有権は作った工場側にあるとの理屈で、
 アメリカの著名メーカーの製品とそっくりな外見の(中身が)粗悪なコピー品は別のラベルを貼って堂々と第二
 市場に売られていく。
 
 ことほど左様に世界の常識は中国の非常識とばかりのビジネス感覚。してやられたと思った時には随分と
 うまい汁を吸われた後の祭り。

 著者ポールのアドバイスは何処まで中国ビジネス新規参入者に役立つか。

 (以上この項終わり)

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