読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

笹本稜平の新作『漏洩』を読む

2012年09月17日 | 読書

◇『漏洩―素行調査官―』 著者: 笹本稜平 2012.5 光文社 刊

       

 笹本稜平の新作『漏洩』を読んだ。
 山岳小説、冒険小説から警察小説まで間口が広がってきた。1951年生まれながら作家デビュー
は2000年の『ビッグブラザーを撃て!』であり遅咲きの新鋭作家。最近は『越境捜査』、『素行調査官』
など警察小説で人気を博している。

 本書は素行調査官シリーズ第3作。主人公は警視庁警務部人事第一課監察係首席監察官入江透。
部下は高校時代の同級生本郷岳志と定年に近いロートルの北本一弘の二人。入江はキャリア組の警
視正ながら警察組織内の不正をただしたいという正義感に燃える異色の警察官僚。

 今回の事件はインサイダー情報による不正取引。企業がらみの事件捜査情報が警視庁内のどこかか
ら漏れている。いくつかの事件と株の乱高下の相関を観ると明らかにインサイダー情報の漏えいが疑わ
れる。一番に疑われるのは知能犯・企業犯罪担当の捜査第二課だ。生活安全部も疑惑の対象。しかも
警視庁はもとより警察庁や政治家にまでからんでいる恐れがある。

 大手ソフトウェア会社の役員による巨額の横領が発覚、事件の報道で株価は暴落した。報道に先だっ
て某仕手グループが大量の空売りをしており、買い戻しで数十億の利ザヤを稼いだ。胴元は株式の投
資ファンド。一口1千万円以上で投資を募り、インサイダー企業情報を操作して空売りと買い戻しで巨
額の差益を得る。売り買いは外国ファンド名義でバハマやケイマンといったタックヘブンを経由しマネー
ロンダリングした金は外国銀行を迂回して還流する。

 捜査二課の戸田係長はインサイダー取引捜査の過程で警察幹部のからむ不正取引を嗅ぎつけた。
部下の沢井刑事と狡猾に隠蔽された利権構造に挑むが病に倒れる。そして沢井には謎の男たちが立
ちはだかる。沢井は紆余曲折のすえ入江、本郷たちと一緒に悪に立ち向かう。

 本来警察官の不祥事や素行不良を取り締まるのは監察官の役目。しかし不祥事の芽を事前に摘み
取ろうとするため、ややもすれば監察官は警察の体面を維持するために警察官の不祥事のもみ消しが
役目のように見える。正義の味方の警察官が悪事に手を染めているのをうやむやにしていては一般市
民の支持は得られない。入江首席監察官の3人組は警察組織の隠蔽構造に挑む数少ない良識派の
警察官だ。

 終盤でちょっとスリリングな場面もあるが、最後は正義の味方が勝ってめでたしめでたしめでたし。
 それにしても「ざっと60坪の土地に、乗用車3台の駐車場、延べ床120坪くらいの3階建ての白亜の
豪邸・・・」(p67)はちょっとおかしくないかい。敷地が狭すぎる。

(以上この項終わり)

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