こんにちは「中川ひろじ」です。

みんなのお困りごとが私のしごと

再掲 田中均元外務審議官のお話し

2015-11-04 13:02:57 | 憲法・平和・沖縄
元外務審議官田中均氏 2015年5月27日 日本記者クラブ

1、情勢の変化
 1996年のガイドラインの改訂理由は、東西冷戦後の朝鮮半島有事への準備。安保条約6条を具体的に決める。集団的自衛権行使はできないという憲法解釈は維持した。日本の役割は「後方地域支援」。武力行使一体化論に注意した議論が行われた。
 それから20年たって環境が変わった。冷戦時の抑止対象はソ連だった、その時集団的自衛権を行使することはおよそ考えられなかった。
東アジアの変化にどう対応していくのかが今回の議論の出発点。国力のバランスが変わった。アメリカの力が絶対的に衰えたわけではない。相対的には衰えている。日本の力が相対的にはより激しくより強く落ちている。
2010年中国が日本のGDPを追い越していまや2倍以上である。その2.2%を国防費に使っている。日本の4倍の国防費。それでは日本は中国と安全保障関係を結ぶのか。安全保障の基本は「何から何を守るのか」だ。自由や民主主義を守ることが基本で、価値観が異なるところと安全保障体制を組むことは考えられない。中国が民主主義国家となるとは考えられないなかで国力がドンドン大きくなっていく。
この中で我々の価値観を守るためには日米安保体制しかない。アメリカがこれからも日本を守るのか。アメリカはもっと内向きになる可能性がある。そのとき日本としての日米安保体制における役割を見直す必要がある。日本の役割を強化するということ。日米安保体制の基盤を強化する。
今だけの話ではない。2050年日本の人口が1億人を下回る。国力を、国防力を高めなければならない。

2、安保法制の評価
 憲法解釈を見直して集団的自衛権の行使が容認される。96年のガイドライン、周辺事態法をつくった時のジレンマがあった。一定のことを超えて行動することができない。本当に緊迫した事態に線が引けるのか。ある所までは弾薬を運べるけど、あとはダメだとか、情報提供があるところまではいいが、あとはダメだとかで、日本が守れるのか。そのジレンマが今回は解消される。
 一つは憲法上の制約を緩めた。日米安保条約の制約も超えた。周辺事態法の世界は周辺という言葉があった。非戦闘地域、後方地域支援という概念があった。
 今回この二つの概念がとっぱわれた。周辺という概念を取り除いた。後方支援という概念も取り除いた。
 集団的自衛権の容認。基本的に日本国憲法9条を前提とした解釈の見直しである。新しい武力行使の三要件。存立危機事態、代替手段がない、必要最小限。これは日本国憲法9条と両立する考え方。個別的自衛権も集団的自衛権も日本の存立に明白な危険があるときは同じだ。
 もっとも明らかな例は朝鮮半島有事だ。北朝鮮が38度線を超えて進撃してきたときに、果たして何が起こるのか。米韓安全保障条約に基づいて、米国は韓国とともに、防衛するでしょう。そのとき日米安全保障条約に基づいて事前協議が行われる。日本の基地から戦闘作戦行動をとるときには事前協議を行うことに安保条約はなっている。日本はノーということは想定できない。なぜノーと言えないか、日本の安全に極めて大きな影響を持つからだ。イエスといえば、日本の基地から出ていく。当然、北朝鮮は日本を狙う。その瞬間に日本もきちんとした防備が出来ていないと、日本の存立に極めて大きな影響を与える。
 日本が攻撃されない限り個別的自衛権を発動できないんだ、で日本の安全が担保できるのか、そうではない。その段階で日本は集団的自衛権を行使する。日本は、直接攻撃を受けていないかもしれない、だけど必然だ。
 今までは、日本は集団的自衛権はダメだったので計画がつくれない。たとえばアメリカとの間で具体的な危機管理の計画ができない。これから集団的自衛権の一部容認で計画ができる。日米の共同作戦計画ができる。場合によっては韓国ともできるかもしれない。それが、それが抑止力なんだ。それが北朝鮮が愚かな行動を起こすことを抑止することができるという概念なんです。
 これは日本国憲法9条のうえでも祖語はない。
 中東の機雷除去はできるのか。新三要件に合致すれば論理的には、空爆だって、掃討作戦もできるが、憲法9条と常識的に合致するのかといえばそれはない。蓋然性は高くない。
 掃海活動では、撃たれたら撃ちかえし、戦争に巻き込まれる。憲法9条との整合性が問われれば苦しい。機雷の敷設が存立危機事態ということは難しい、あまり具体的な議論は難しい、やらない方がいい。
 「周辺」「後方地域」「非戦闘地域」という言葉がはずれた。96年の議論では「周辺事態」は、地域概念ではなく「事態の概念」である。地域概念にするとその中は良くて外はだめだということになるので、安全保障の常識論に反する。ちなみに安保条約6条に極東という言葉があるが、極東も地理的概念ではないという国会答弁をしている。しかし、つめられて「インド洋に行くのはね」と答弁した、その結果インド洋の給油、イラクへ人道支援のために自衛隊を送った、それは特措法でやった。周辺事態法はいかに地理的概念ではないと言っても、なかなか難しいということで特措法の世界になった。
 今回は、憲法上の制約ではなく法律の立て方の問題だ。だから今度は一般法の形で後方支援ができるということになった。
 これは日米安全保障条約とイコールではない。日本が日本の安全保障政策をつくって、日米安全保障体制はその一部なんだ。国連の決議に基づいて、立ち入りをするとか、日本人救出に自衛隊機を使えるようにするとかは、日米安全保障条約に規定されない。ところが日米ガイドラインの議論をしているんだから、安全保障条約に支配されるという議論になっていった。
 今回、それから離れている。すべてが日米安保体制が支配する世界ではないといえる。地球の裏側まで行くという議論があるが、それは主権を放棄したときだ。主権を持って、この地域で、ある場合にはするが、ある場合にはしないんだと判断する体制をつくっていかなければならない。何でもアメリカと一緒にするということではない。
 以前の「非戦闘地域」「後方地域支援」という概念。しかし、現場では線が引けないから、実際戦闘が行われれば退避するということになった、当然リスクは増える。リスクに対して十分な対処が必要。
 今回の新安保法制は極めて画期的。実際問題としてそういう事態になるかどうかは別だが、日本の能力として憲法に反しない範囲で、こういう役割を担うということが制度上認められるということは極めて大きいことだ。
 これから何が大事になっていくのか、日本は「場合によっては血が流れるぞ」「撃ちあいになるぞ」「日本全体が巻き込まれるぞ」という経験や判断を戦後してこなかった。
これから先、重要になるのは、制度はできました、制度を運用するのは政治家の知見であり官僚のプロフェッショナリズムです。そういうものなくして、制度にのっけてやればいいよと、それはあぶない。責任は重くなっていく。
メディアもレッテル貼りは良くない。今回の安保法制の議論は、極めて画期的なことだ。国会もメディアも真正面に向き合って議論してもらいたい。そういう議論が結果的に運用する人々の意識をつくっていく。だから逃げないでほしい、ごまかさないでほしい。
よく政府は積極的平和主義というが、安全保障で受け身ではなく積極的役割を果たすということだが、外務省のつらい思いの原点は湾岸戦争だ。1991年に自衛隊を派遣できず130億ドルを出した。だけどクウェートは日本のことを一切評価しなかった。アメリカは「遅すぎた、小さすぎた」といった。ものすごい反省の原点。あのときに一国平和主義という言葉ができた。一国で平和は守れないし、一国だけで平和をつくる作業に参画しないのは卑怯だよと、そういう議論なんです。平和をつくるために日本も積極的に参画していくよと。

3、外交努力
だけど安保法制だけに使われているが、安全保障を担保する能力、安全保障環境を良くする外交努力、この二つが両々相持たないと、日本の安全保障は担保できない。果たして安全保障環境をよくする外交努力が行われているか、という問題。これから外交努力を倍加していただきたい。外交努力も単に人と話をすればいいとか、首脳会談をすればいいとか、次官レベルの協議をすればいいだとか、そういう話ではない。安全保障環境を良くする外交努力というのは極めて緻密な戦略に基づかないといけない。どういう戦略が日本の安全保障環境を良くするのか。より小さくなっていく日本が、小さくても力を発揮する国、小さくても幸せな国、北欧諸国とかある。小さくなっても安全であるような工夫をする、それが戦略。
2050年、今から35年後、人口が1億人をきったとき、日本が安全でいられるかということを考えて外交戦略をうっていかなければならない。いくつかの戦略のコアの部分がある。
一つは日米。アメリカをこの地域に居住するような国であってほしい。軍事的には明らかにそうなっている。日米安全保障条約、米韓、米豪、それからシンガポールとかタイとか、条約上はフィリピンとか、いろんな安全保障の枠組みがある。
果たしてあれだけ沖縄に兵力を集中していることは是か非かの議論はやらなければいけない。ガムとかハワイとかフィリピンとかシンガポールとか、豪州とか、そういうものをどのように考えていくのか。アメリカの基地の前方展開の形をどうするかということを当然日本がより大きな意見を持っていいはずだ。
 経済的にはTPPの成立によってアメリカはレジデントパワーになると思う。TPPのいちばん大きな意味合いというのは、自由経済体制のより高いルールをこの地域に明示しておくということ。中国は国家資本主義である。国家の介入が強い。10年たったら中国は必ず入ってきます。TPAアメリカ上院は通過したが下院は難しい。もしTPAが成立しなかった時のダメージは大きい。一方で中国はAIIBという形でこの地域南沙諸島で埋め立てをしていることと逆の話で評価されている。もしTPPが成立しないときは、アメリカの地位はかなり厳しくなる。どうしてもこの夏にはTPPを成立させることは日本の国益にとって大事なことだ。
 経済的にもそうなる、政治的にもこの地域のレジデントパワーにアメリカになってほしい。この地域の秩序づくりをやりたいとアメリカによく言った。当時アメリカは、アメリカが当事者にならないことにはほとんど関心がない。東アジア地域経済連携協定をつくりたかった。それにはアメリカは含まれない。だから消極的であった。
 私はアメリカをこの地域の政治的な当事者にしたい。当時何を言ったか。アメリカを東アジアサミットに巻き込みたいと思った。アメリカ大統領が一年に二回アジアに来るのは無理だといわれた。
 違うと思う、2050年にはこの地域が世界の5割を超える。52%の経済的なGDPをもってる国になっている。アメリカのインタレストはこの地域が極めて重大なものになっている。2050年のことは今から考えておかないとだめだ。
 アメリカがこの地域のレジデントパワーになるということは、中国とどう向き合っていくのかということとあわせていくことだ。いま日本の政策とアメリカの政策はまったくあっていない。1996年に日米安保共同宣言をつくった。当時クリントンがきて、私はキャンベルと話をした。あのとき最大のイシューは何であったか。中国をめぐる記述だ。当時は台湾海峡の問題があったから中国へはものすごい厳しいアプローチをとった。あの時はまだ中国は大きくなかったが、中国を巻き込みたかった。結果的に「中国の建設的な役割を期待する」という文言が入った。
 その時に比べて中国は圧倒的に大きくなった。中国の海洋における活動は極めて攻撃的になった。今、中国は南シナ海の岩礁の埋め立て、そこに恒久建造物をつくっている。ひょっとしたらアメリカは12海里に船を航行させるかもしれない。緊張はきっと高まるでしょう。だけど同時にアメリカは6月に戦略経済対話を閣僚レベルでおこなうが、圧倒的な大きな数の対話、政策調整を中国との間で行っている。それは当然こと。1990年代日本はアメリカのプレゼンスは圧倒的に大きかった。今は、もうまったく違う。今は中国が圧倒的に大きい。今のアメリカのポジションは協力できる分野を拡大し、利益が違う分野をマネージするということ。日本も、中国との間で同じことをしなければならない。協力できる分野を拡大し、利益が違う分野をマネージすることが日本の政策であってほしい。中国に対して突っ張るだけ、抵抗していく、対抗していくことが日本の政策だとは思えません。
 何をやって行くかといえば、アメリカをこの地域に、政治的経済的観点からレジデントパワーにするため日本は、橋渡しをするということ。安全保障面において日米韓の協力とか、日米壕の協力とか、日印米の協力とか、三角関係をプロモートしていく、促進していくことが正しい選択だと思う。
 だけど、それだけじゃ十分じゃない。今何が一番心配されているかといえば、偶発的な事故だ。偶発的な衝突。どうしてもこの地域に信頼醸成の枠組みをつくらなければならない。これは冷戦時代でもできていた。日本は、その音頭をとって地域の枠組み、日本・米国・中国・韓国の四者で信頼醸成の枠組み、要するに事故通報の仕組みとか、災害時の救難体制とか、防衛予算の透明性とか、まさにこの集団的自衛権を含む新安保体制とか中国にきちんと説明してもらいたい。1997年に中国へ行った。あの時はガイドラインの中間報告をつくった。そしてその中間報告を持って中国へ説明に行った。当時、今の外務大臣のオオキがアジア局長で「田中さん、日本が国際法に違反しないことを希望する」といった。私は「これはデイフェンシブな考えであり、中国台湾関係がこれに入るかどうかはあなた方の行動しだいなんだ」と、中国が国際的に批判される行動をとったとき、「それは対象になる、でもそれは中国しだいだ」と申し上げた。
 中国の新聞を見ていると「アメリカは一生懸命説明している」という記述があった。当然のことだが日本はこれができた時きちんと説明しなければいけない、韓国もそうだ。
日米ガイドラインの作業に来た人は必ず帰りにソウルによって説明していった。安全保障体制を強化することは正しい、同時に信頼醸成をしていかなくてはいけない。

4、日中関係の改善
 四点目は協力できる分野を拡大することだ。金融・貿易・投資・エネルギー・環境については、日本はビジョンを語らなければいけない。例えば金融についてAIIB、日本は何が大切かといえば合理的に透明性を持って、この地域のインフラを向上させていくためにお金を使い、技術を使い、行動していくことだ。当然AIIBをそういう目的にするために日本は中に入って、AIIBの仕組みをつくっていくことに協力するべきだ。それは甘いという議論も結構ある。中国の今の国内を見れば、中国の経済が、GDPの伸び率が低下していくから日中関係を良くしないといけないという動機は中国にあるんだ、特に地方、リーマンショックのあと中国は4兆元という膨大な財政出費をした。多くの部分は地方、地方はどうしてもファンディングの・・・がある。日本から投資が来ないということは重大なこと。そういう意味で日本との経済関係が大事だという雰囲気が出てきたことはとても大事なこと。
 しかし、もう少し長い目で見てほしい。日中間系をどうしていくことが日本の利益なのか考えたら協力できる分野を拡大していくことを基本方針になればいけない。AIIBが、中国がより大きな出資比率25%をもったところで、それがどうだという話だ。AIIBで見れば日米で30%もっている。それは相互に切磋琢磨していけばいい。だがこの問題はなかなか易しくないようだ。
 それから貿易投資。TPPと相前後して、アールセップという地域の貿易、経済連携していくべきだ。 エネルギーはクルーシャルですよね。まさにこれからエネルギーの不足ということが、今後5年10年たつうちに非常に深刻な問題になってくる。原子力発電の問題もある。環境の問題もある。 こういうことは東アジアサミット、アメリカもロシアも入っている、そういう枠組みの中でやっていくべきである。
 残念だけどこの地域にはEUのように価値観が同じで、統治体制が同じで、経済の発展段階がほぼ同じで、したがって連合を組もうと、主権を中央にプールしようと、こういうことには(東アジアは)ならない。それを議論すると、中国が中核となる枠組みかと、そんな価値観も違い、発展段階も違い、宗教も歴史も違う国々において、そういう統合ができますかといわれれば、それはできない。できないからといって、ほうっておいたのではこの地域の平和と安定を図れない。だから安全保障の機能、信頼醸成の機能、貿易投資、環境エネルギー、この機能に着目してその機能に応じたグルーピング、応じた枠組みを活用していく。全体としてみればこの地域の発展に資する。重層的機能主義。いろんな層からなる機能に着目し、その機能を上げていく。それによってこの地域の平和と安定をつくらなければいけない。
 たぶん世の中は近場で動いていく。これから5年10年の世界で、こういうビジョンを持っていかないと「遅すぎる」ことになる。日本はいつまでも強い国であるということではない。だから今のうちからいろんなことをやっていかないといけない。もっと早くそういうタイミングがくる。今度の8月15日といわれている、総理談話ということになると思う。これは世界から非常に注目されている。全体的には極めてネガティブなことになりうる。同時に大きな機会になりうる。日本国総理大臣はこの機会を利用して、これから10年、20年にも耐えうる未来に向けてのビジョンを語るべきだ。とりわけ世界の中心になる東アジアにどういう世界をつくりたいかを中国を疎外するのではなく、一定の準備、十分な抑止力をもったうえで、巻き込んでいくという基本的思想、違いをマネージし、協力できる分野を拡大するということでビジョンを語るべきだ。
 過去の歴史の総括はきちんとされるべき。違う意見がある、そんなの何度も謝るべきじゃないとか、しかし総理大臣自身が村山談話や小泉談話や河野談話といったものを、全体としては支持するといわれている、だけどあの談話の中核は、国策を誤り植民地支配と新略によってアジアの国々に多大な被害を与えた、それに対して心からお詫びをすると、それが肝なんだから、それを言いたくないとはいかない。
 個人の信条や政治家の信念とは別。日本国の方針として内閣が95年以降、明確に支持してきたものですから、みんなそういう目で見ている。明確にされることを心から期待する。でないと、言いたくないのかと、違う認識をもっているのかといつまでも尾をひいていく。これだけ大きいなオポチュニティーがあって、安倍政権は極めてうまくやってきた。先日の訪米は成功です。これだけ大きな機会だから、これまでうまくいってきたんだから、この機会を活用すべき。日本という国が見識を見せられる機会だ。国際条理で評価される。

5、質問と回答
(質問)日本独自の外交が広がったのか。
(田中)日本という国が独自に判断して何かをするという余地がより大きくなった。96年、97年のとき日米安保条約とりわけ集団的自衛権の行使ができないという前提の中での日米安全保障条約というのは極めて重いものであり、その中で「周辺事態」という概念も生まれていったし、結果的にほぼ「極東」という概念と同じことになった、この問題を扱った人々の中に日米安全保障条約を先に考えるということがあった。
 それが、日本がグローバルパワーであるためには独自の判断で一定の事態が来たときに後方支援については日本が決めていくとう余地が増えたことは間違いがない。
 しかし、集団的自衛権行使という事態となると、これは米国と共に行動しないと危ない。ほとんど限られたケースだ。そうしなければ憲法9条との整合性がとれなくなる。だから朝鮮半島のケースは明らかなケースです。その蓋然性が一番高い。それについては米国とともにあらかじめ作戦計画をつくり、それを抑止力にすることによって平和を担保していく。それ以外のことは日米安全保障条約ということを考えないと日本だけの行動というわけにはいかない。日本と密接な国が攻撃された時となっているが、アメリカの力を借りないと日本は安全ではない。ある意味日米の距離は縮まったし、ある意味日本の独自性も強まった。

(質問)ホルムズ海峡の機雷掃海になぜ政府がこだわっているのか。
(田中)集団的自衛権行使容認というのは、そもそも限定的なものだ。それは武力行使の新三要件で書いてある。限定の場合に、機雷はやるけど弾を撃つということはしないような制約はない。集団的自衛権行使をするか否かは、武力行使をするか否かとうこと。
 なぜ機雷掃海ということだけが例外になるのか意味がわからない。機雷掃海に限るということはかえって物事の本質を変えてしまう。機雷掃海が集団的自衛権の行使だといって相手が撃ってくれば場合によっては撃ち返さなければならないというのは、実はそれなら何でもできるという話で、制約なき集団的自衛権行使ととらえられる危惧をもつ。仮に現実の問題として油が切れちゃったと、それは国際社会の大きな力が働いている場合で、その時に日本も一定の役割を果たすべきだという限定的なケースについて、機雷掃海ということがまったくないとは言わない、他のこともあるでしょう、しかし機雷掃海を突出して一つの例として議論する意味が分からない。アメリカが(機雷の掃海活動を)要求するということも考えにくい。

(質問)リスクの評価と国民の構え
(田中)基本的には、これまでと違って自衛隊の活動範囲とか活動の対応について制約をよりなくしていくという、それが後方支援なのか集団的自衛権の行使・武力の行使なのかは別ですが、それだけ自衛隊の活動範囲が広がっていく。その結果自衛隊の後方支援をやる人も、人道支援をやる人もみんな武装していく、危険があるから武装する、撃ったら撃ち返す。自衛隊の活動が広がれば当然のリスクが生じる。それが自衛隊員のリスクにとどまるか、そうではない、日本が立場を鮮明にする旗色鮮明にすること、これまではアメリカの戦争について日本はほとんどの場合中立の立場をとってきた。それが徐々に変わってきて安倍政権は旗色鮮明にすると、旗色鮮明にすればリスクが増えることはあたりまえ。その覚悟がなくて旗色鮮明にするのであれば、それはない。
 世論調査の結果法整備に反対する人が5割を超えている。この国会中に成立させるべきだと思っている人は非常に少ない。できればうまく通したいという意識は当然働く。歴史的転換だといわれている。歴史的転換の意味は、国民にもっと覚悟を持たなくてはいけないということ。リスクを補填するために、キチンとした認識とか現場のルールとか指揮命令系統とか、これからは政策判断していかなければならないから官僚のプロフェッショナリズムと政治家の見識というものが、こういう問題についてワークするようにメディアがキチンと建設的な批判をするように、そういう体制をつくることのほうが、リスクありなしの議論をするよりはよっぽど大事じゃないか。

(質問)議論から逃げるなという意味はリスクの問題だけですか。
(田中)二つあって、集団的自衛権はあくまで限定的なんだと、ウソも何もない憲法9条の下での集団的自衛権だから、相当慎重に、よっぽど明らかなケースでなければ集団的自衛権行使には至らないということをキチンと国民に説明する必要がある。機雷の除去ということが国民におちるかといえばそうではない、それができるなら他のことも何でもできるという、むしろ逆方向に議論を進めてしまう。
 もう一つは後方支援その他で自衛隊の活動範囲は広がっていく、必ずしも抑止力をつくるということだけではなくて、一国平和主義とか積極的平和主義とか国際社会に貢献するためには日本としては、当然の役割を果たしていくことで初めて日本という国の価値がより高まるという思想がある。これも、きちんとした体制を組んで判断していかなければならない。リスクはある、リスクを補填する体制と運用がされれば問題がないと言い切ってほしい。

(質問)沖縄問題についてはどうか。
(田中)たぶん沖縄の人には歓迎されないが、2050年という将来を見通した場合でも、相当キチンとした安全保障体制がなければ、日本国が安寧に暮らしていけるわけではない。そうすると政治的に成り立つこと、沖縄に一定の基地が集中していることが政治的に成り立つことが、ものすごく大事なこと。次から次へと基地の体制が崩れていくということ、あるいは普天間で事故が起こるとか、そうなったら政治的持続性は壊れていく。
 だからSACOという問題をやったときは、基本的には「日本としての役割を拡大する、だから沖縄の基地は減らしてくれ」ということ。そのために、できることはやろうとしてきた。あの普天間基地の返還は1996年の4月13日に発表した。ガイドラインとか日米安保共同宣言とかは、その後です。アメリカに対して「日本は役割を増やすから、基地を減らしていく」と。これからの日本は、安全保障上の役割を増やしていく、だから沖縄をより持続できるようにしようと、アメリカに対して日本は当然言わなければならない。
 そのときに普天間の辺野古への移設までも変えるかと言うと、それはそうではない。これまでのいろんな経緯をたどってみれば、共用飛行場とか、海上付帯設備とか、ようやくあそこに落ち着いた。それはそれで走らせる。だけど、その基地がオペレーショナルになるときに、基地の機能は軽減していく道はあるかもしれない。
 なぜかというと、①日本の役割が増えた、①アメリカの東アジア太平洋全体の役割を考えなければならない、その時に沖縄に基地を集中させることが、本当に戦略上正しいか否かという議論は、すでにアメリカの中にもある。ですから日本は当事者として、これまではアメリカの前方展開だからアメリカにという意識が強かったが、日本自身のこととしてアメリカと相談していく態度が必要。

(質問)沖縄問題、妥協点があるのか。
(田中)今まで話し合いを拒否するような姿勢が示されてきたが、これから話をするということだからどういう展開になるのか見ていく必要がある。沖縄に思いやりは必要。韓国のこともやってきたが、相手の立場に立って考えるという発想が必要。日本は大きい国だ、本土は大きいという気持ちが必要だ。それで片付くわけではないが、そういう気持ちをもつことがいろんな意味で発展しうると思う。いま辺野古をあきらめるということではなくて、辺野古につくられる基地の対応についてはまだまだ考えられる余地がある。そういうことも話し合いの中であるいは一つの一致点が見出せるかもしれない。そういう努力を費やさないわけにはいかない。

(質問)アメリカのプレゼンスをどうやってこちらに振り向けるのか。
(田中)たとえば、米軍がフィリピンのクラークスから、ある日突然引いていった。米国の基本的姿勢は、受入国が望まないのであれば去るぞということ。韓国のノムヒョン政権の時に、韓国と米国との関係が極めて悪くなって、そのとき米国は何をしたか、大きな兵力を抜いて、イラクに送った。それに対して韓国の政権は、極めて痛手をこうむった。だからアメリカは、いざとなったら抜くぞと、アメリカのこれからの態度として、そういうことではなくて、もう少し地域に入って、これから中国とどういうふうに取り組んでいくのか、自分の問題として、考えてもらいたい。
 アメリカに住んでいると、アメリカという国はグローバルな国ですよ、一方でヨーロッパがあり、いまやロシアの問題はきわめて重大な問題になっている。なぜかといえば、ロシアはグローバルなエンティティーだと思っている。ロシアに対する関心は高い。だから日本に牽制をするということになる。
 これからは違う。「中国は順調に成長しないよ、国内経済のボトルネックが大きすぎる」という意見はありますが、先進国の成長格差は維持される。ここがアメリカの主戦場になる。それなら早くここに来て、お互いにどういう戦略で米軍の前方展開を考え、他の諸国との安保体制を考え、そして中国を巻き込んでいく地域、アメリカという国は地域という概念はうんといわない。バイなんです。それは違うということでアメリカをこの地域に巻き込んでいく必要がある。
 だから、一つ一つのこと、沖縄の問題、日本の安保法制の問題、日本の外交の問題、日本の8.15の問題ということであってはならない。まさに日本という国ある意味正念場にきている。正念場に来ているときにはものごとを包括的に考えなければならない。その一部として沖縄問題がある。

(質問)中国とアメリカとの関係について
(田中)今、中国が抱えているジレンマは、「中国は、一つの世界を追求するのか、二つの世界を追及するのか」、要するに一つの世界というのは、これまで中国の経済発展は先進国がつくったルール、とりわけWTOのルールとかにしたがってグローバリゼーションに大きくなってきった。これからも国際社会と一緒でないと、中国は生きていけないのではないか、だから中国は一つの世界を追求しよう、一つの世界の中で中国の発言権をあげればいいではないか、というスクールがある。もう一つのスクールは、利益はアメリカとバッティングするからそれではダメだ。したがって中国は独自の世界をつくっていくべきだという考え方がある。
 そういう二つの流れがあって、われわれにとってどちらがいいかといえば、前者のほう。中国が一つの世界を追求していく、すなわち中国自身があるていどビヘイビアしていく。そのために、回りから圧力をかけていく。こういう世界が一番いい。
 ところが圧力をかけすぎると、中国は中華思想の国ですから、「いや、俺たちの世界を追及していく」となる、今、彼らは両又かけている。そしてアメリカの意図をテストしている。南シナ海とか、東シナ海でテストしている。今回の南シナ海で岩礁を埋め立てて、施設をつくる、果たしてアメリカはどうしてくるか、ペンタゴンは12海里内に、艦船をおくると、しかしホワイトハウスはちょっと待てよと、やったときに衝突ということになったら、これはアメリカとして避けるべきことだと、われわれのリアクションとかアメリカのリアクションとかで、これから先の中国は変わってくる。
 そのもう一つの大きな例がAIIBです。AIIBは、当初は自分たちの世界をつくろうとしていた。リーマンショックのあと、中国は4兆円の内需拡大策をうった。圧倒的な大きな過剰生産施設ができた。AIIBは、そのはけ口。ところが、中国は予期に反して、57カ国もバーっと入ってきた。今は、中国にしてみれば、できるだけ波風をたてないで、銀行をローンにしようという意識です。自分たちの銀行をつくっていくという最初のケースなのか、国際社会の中で融合していって、中国の発言権を強化していくということなのかわからない。一つだけ明らかなのは、今のブレトンウッズ体制の中で、中国がより発言権を担保することは無理だなと思いだしている。
 アメリカの議会でIMFの蔵相案がブロックされている。これから共和党の議会でやる。たぶん、次の大統領は中国に、ある意味より厳しくなる。だからといって中国とのエンゲージメントを止めるということはありえない。
 回りの国のいろいろな反応によって中国自身の政策とか雰囲気が変わってくる。日本がAIIBについてどうするか考える時に、どういうふうに中国と向き合うかという視点で考えてもらわないと、単純にアメリカが言ってるとか、アメリカが入る見通しがないとか、あるいは中国はうまくいかないという意識で考えるとかではなく、中長期的な観点で中国と向き合うことを考えてほしい。

(質問)アメリカはイラク戦争のように間違えることはないのか。アメリカに日本は本当に拒否権を発動できるのか。
(田中)伝統的な外務省は、アメリカといさかいを起こし、アメリカにNOと言っても、それを外には言わない。外に言うと日本のナショナリズムを刺激することになる。たとえば、小泉さんが北朝鮮に言ったとき、実はアメリカの反対はものすごく強かった。チェイニー副大統領やラムズフェルト国防長官などネオコン勢力は、ありとあらゆる行動をとり阻止をしようとした。
 しかし、私たちがやらなければならないのは、NOといおうことが結論ではない。アメリカを説得しなければならない。多くのことはアメリカを説得してきた。もちろん説得できなかったこともある。例えば経済協議においても、多くのことでも日本はNOと言って来た。しかし、半導体について、あたかもシェアをつくるかのような合意をつくったとか、イラクの時には小泉さんがやったのは、「安保理の決議をとりなさい」ということだった。結果的に、パウウェルとかがんばったけど、とれなかった。イランのことについても、油田開発とかその時にはアメリカとは意見が合わないということで、それはそうしようということでやりました。
 少なくとも日本がすべてアメリカの言いなりになってきたということは事実に反する。一つだけいえる事は、わたし達は、それを外に出して日米が亀裂だとか、メディアに書かれ、国民の意識が高揚していくことは避けたいと考えた。
最近は自分の考えをストレートに出す傾向が強い。いいかなと思うほど、日本の新聞とか週刊誌とかが、日本はスーパーだという前提で言うという意識がものすごく高くなっている。それはちょっとちがうかなと思う。包み隠してアメリカと亀裂がないと言いすぎたことかもしれない。もう少しオープンにしていかなければならないのが、今の社会かもしれない。アメリカとの関係で、この国にはいろんな異論があっていいよ、異論を受け止めるだけの懐の深さがないといけない。

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11月3日 アベ政治を許さない全国一斉スタンディング

2015-11-04 09:43:37 | 憲法・平和・沖縄

作家の澤地久枝さんが呼びかけて「アベ政治を許さない」の全国一斉スタンディングが行われました。私は同じ時間にある

松本駅前での様子全体の様子

小出裕章先生のスピーチ
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11月2日 第418回月曜の声

2015-11-04 09:38:55 | 活動日誌
 
11月2日社民党松本総支部定例の街頭宣伝第418回月曜の声。久しぶりの雨となりました。一息ついた感はありますが、社民党の多摩市議が月間社民に連載をはじめた漫画を配布しようと思って準備をしましたが、さすがに・・・。来週また配ります。
お話は、おもに沖縄のこと。先週あいついで松本を訪れてくれた照屋寛徳さんや仲里利信さんのお話を交えながら、信州から沖縄のたたかいに連帯していく思いを訴えさせていただきました。
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