院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

わが国にもいた漂泊民

2008-03-06 08:57:23 | Weblog
 ついこの前の大戦まで、わが国には漂泊民がいたらしい。

 彼らは戸籍を持たず、山中や川辺でひっそりと暮らしていた。そして、常に移動していた。まったく政府の管理の外にいたのである。彼らをサンカという。

 川べりに竹の柱に粗末な布と油紙をかけて雨露をしのいだ。夏は川魚漁、冬は籠作りで生計を立てた。彼らは人里とまったく孤立していたわけではない。川魚や籠を「常民」に売りにいった。

 彼らの身分は「平民」でもなく「エタ」でもなかった。だって、そもそも戸籍がないのだから、分類のしようがない。現代流に言えばアナーキストである。

 彼らに興味を寄せた民俗学者は少なかった。明治大正には柳田國夫が彼らを調べた。でも、移動民なので直接的な調査はできなかったようである。

 サンカの発祥はいつごろからか?柳田は日本原住民が、外来人によって山に追いやられたものと考えた。つまり太古の昔からいたのだという説である。

 沖浦和光は、天命の大飢饉のときに村里から食を求めて避難した者たちが、サンカの源流だと考えた。

 柳田は明治大正の人である。沖浦は86歳であるが現代の人である。そのせいか、柳田民俗学よりも沖浦民俗学のほうが格段に面白い。ヘタなミステリーより、よっぽど面白い。

 サンカに関する話は沖浦の「幻の漂泊民サンカ」(文春文庫)で知った。一読をお勧めしたい。