院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

昔の朝鮮人観

2013-06-13 06:50:39 | 社会
 私がまだ駆け出しの精神科医だったころ、反応性に抑うつ状態になった若い女性が入院してきた。院長はその患者さんを私に任せた。

 私は薬物療法を行うのを躊躇した。なぜなら、その女性は妊娠していたからだ。そして未婚だった。

 その女性は、父親が自分の恋愛と妊娠にいかに無理解であるかを私に訴えた。このたびの恋愛の大切さを延々と力説した。有名大学を卒業したばかりの知的な女性だった。

 父親は結婚にも妊娠にも猛烈に反対していた。父親は地元の名士で、態度は慇懃だが凄みがあった。父親は「だって朝鮮人ですよ。なにも朝鮮人なんかと付き合うことはないでしょう?先生もそう思いませんか?」と言った。これほどあからさまに言う人も珍しかった。

 その後、すったもんだがあったが、詳細は省こう。患者さんは混迷状態(意識がないのではないが、ないかのように何もできなくなる状態)に陥ったりして、私も父親もさんざん振り回された。これまで患者さんを支配的に扱ってきた父親も、さすがに弱気になってきた。

 ある日、患者さんは混迷状態から突然に覚めて、晴れ晴れとした表情になった。そして、堕胎すると私に告げた。あとは、とんとん拍子に改善し、退院後、私の前に現れることはなかった。

 今回の病気は、これまで絶対的な権威として患者さんに圧政を行ってきた父親に対する、患者さんの一大レジスタンスだったのではないか?だから、父親がもっとも忌避する外国人を利用して、わざと身ごもったのではないか?レジスタンスが成功したから患者さんは、今度は平気な顔で私に堕胎を申し出たのではないか?あんなに産むと主張していたのに。

 だとすると、実は患者さん自身が、すでにある程度朝鮮人を差別していたのだと思い至った。考えれば考えるほど複雑な気持ちになる症例だった。