いのしし くん。

政治、経済から音楽全般の評論
ultimate one in the cos-mos

AIIBの影の中で。 in the shadow of AIIB

2015-10-02 20:07:55 | 日記
 (1)日本の新幹線は350キロの超高速運転で50年以上もこれといった事故もなく世界に誇る技術開発力を象徴するひとつだ。
 政府もインフラ輸出の柱として成長戦略を推進するものとして積極的に新幹線の海外受注に取り組んでいる。

 インド、タイに続いてインドネシア・ジャワ島の高速鉄道計画に早くから参入していた日本は、やはり高速鉄道の海外展開を目指す後発の中国と受注競争を繰り広げてきたが、インドネシア政府はいったん高速鉄道計画を中高速鉄道に変更して両国の受注計画を白紙に戻したあと、再び高速鉄道計画を復活させて中国案を採用すると発表した。

 (2)随分とインドネシア政府の曲がりくねったあげくの混み入った経緯による中国案決定だった。インドネシア政府の高速鉄道計画は、報道による計画を見ると狭いジャワ島で必要度が高いのかと思われるもので、当初の計画案では距離200キロに満たないような短距離鉄道路線で将来延長される見込みもあるようだがそれでも4都市を結ぶ計画だ。建設費用対効果があるものか疑問に思えるものだった。

 結果として日本が先行していた受注競争で後発の中国に敗れた日本政府は「常識では考えられない。政府の財政負担や債務保証を伴わない提案はまず我が国としては受けられない」(菅官房長官談)と驚きを隠さない。

 (3)しかしこれまでは高い技術力と安全性で海外のインフラ整備、新幹線の輸出を推進してきた日本ではあるが、これに対して中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)設立を主導して先進国、新興国、アジア各国がこれに参加している現状を見れば、これから各国は「中国の顔色」を伺ってインフラ整備を進めることは容易に考えられたことだ。

 日本と良好な関係にあるといわれるインドネシア政府にしても、この判断、決断だ。
中国の高速鉄道は「他国より3割安い」(報道)価格面での有利に加えて、AIIB設立主導の政治的背景が大きい。

 (4)AIIBの構想には参加を見合わせた日本、米国が言うように中国主導による運営面での透明性が保障されないという疑問はその通りだが、先進国の多く、新興国、アジア各国が参加を表明して日本の海外インフラの獲得競争に支障が及ぶことは明白になっていた。

 菅官房長官がインドネシア政府の中国案決定に「考えられない」と今更驚くのもおかしな話だ。中国主導のAIIBの影の中で(in the shadow of AIIB)、インフラ整備、高速鉄道計画は技術力、安全性も「ほどほど(moderately)」で財政的な経済効率、費用対効果があれば問題はないとの判断が支配していることが考えられる。

 (5)日本の高い技術力、安全性が海外インフラ受注競争で必ずしも切り札とならない、中国経済力、海外戦略の影響力の大きさだ。
 米国もそうだが中国の巨大マーケット参入を目指して中国との関係改善が各国の外交、経済の主要テーマであり、その影響をモロに受けるアジア各国にとってはやはり中国の「顔色」を伺った方向性を持つことは避けられないところだ。

 (6)日本にとっては対抗する手段はあるのか。日本政府が「常識では考えられない」と言うだけでは常識をくつがえすAIIBの影の中での海外(とりわけアジア)のインフラ受注競争に参加できない。

 同じく中国案を「現実的にうまくいくかは極めて厳しい」(菅官房長官談)と言ってみたってインドネシア政府の選んだ道だ。

 (7)日本の高い技術力、安全性が切り札とならないなら、魅力ある付加価値(an additional merit)をどう開発提案していくのか日本の思案のしどころだ。
 

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