今回の会社法改正により、会社の運営機関の設計に様々なパターンが増えたことは前回書きましたが、もう少し補足したいと思います。
前回、監査役を置かない場合のリスクについて書きました。では、取締役会を置かない、つまり取締役一人の場合のリスクはどうか。まず、不慮の事故等のリスクは、誰にでも分かりやすいと思います。特に株主一人=取締役の場合、株主と役員の双方を失うことになり、次の株主が決まらない限り、会社は機能を大幅に喪失することになります。
しかし、取締役が一人の場合の最大のリスクは、取締役会議事録が存在しなくなることだと思います。現在、会社が訴えられるケースが急増していますが、その際大切な証拠となるのが、取締役会議事録です。取締役一人では、まず作りませんから、訴訟になった場合「言った」「言わない」の水かけ論になることが多くなり、重要な証拠となる書面による証拠がない事態に陥ってしまうのです。
もし、取締役が一人で株主が複数の場合、取締役会がないため、株主総会での決議が必要な場合が多くなり、柔軟で迅速な経営が難しくなるケースも考えられます。
以上の点からして、現在新会社を設立する相談があった場合、私どもの事務所では基本的に、取締役は複数で取締役会を設け、監査役を一人置く機関設計を勧めております。
何度も繰り返しますが、今回の新・会社法では司法の場(つまり裁判)を前提にした規定が数多く置かれています。これは現在の株主代表訴訟の増加と、今後の更なる増加を見込んだものだと思われます。
その代表的規定が「不提訴理由の通知制度」でしょう。これは会社を訴える株主が、会社にあるはずの重要資料を容易に入手することが出来る制度です。これは怖い。なぜ怖いかというと、実は中小企業ほど、その重要資料が十分整備されていないからです。
税務訴訟に詳しい弁護士さん曰く「日本の中小企業は犯罪の宝庫」だそうです。たしかにそう言われても仕方ないと思います。なにせ、取締役会議事録や株主総会議事録すら満足に作られていない企業は山ほどあります。つまり、あるはずの重要な証拠資料がない。
今後、日本の企業は訴訟を始めとして、様々な法律問題に直面することが増えると思われます。既にその傾向は出てますが、今回の新・会社法はそれを十分に後押ししているのです。これまで長年にわたって企業を運営してこられた経営者は、頭を切り替えて、訴訟社会にも十分対応できる会社運営をしていかねばならないと思います。
正直、頭が痛いです。皆、口では当然ですねと言いつつ、なかなか行動してくれないからなあ・・・