ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「私物国家」 広瀬 隆

2007-04-19 09:38:31 | 
惜しいと思う。偏りすぎた思い入れが、かえって信憑性を損なっている。

表題の作品の著者は、反・原発で知られた人だ。反・自衛隊でも知られている。私からすると、強烈な平和原理主義者だと思う。よく調べ上げたこの本も、その偏った政治傾向ゆえに、全面的には受け入れられない。トンデモ本との非難も相応ではないかとも思える。

それでも惜しいと思うのは、日本の権力者たちが嫌がる部分をよく調べているからだ。

日本の権力構造を考えてみると、第一に霞ヶ関の高級官僚(いわゆるキャリア官僚ですね)たちがいる。第二に永田町の国会議員たちがいて、それを支える第三の存在として財界の存在がある。

しかし、この三者だけでは十分ではない。後二つあると思う。一つは退職したキャリア官僚たちを受け入れる公益法人等の存在だ。もっと言えば、天下り先を決める大物の退職キャリア官僚たちの存在である。この裏の存在抜きにして、日本の政治は語れない。広瀬のこの指摘は正しい。

そして、ここからが広瀬の独壇場。権力者たちが最も指摘されたくない部分である「閨閥」だ。要するに婚姻関係で結ばれた権力者たちの関係図。これが実によく調べられている。新聞やTVが、知っていながら、決して報じない部分でもある。

私がこの存在に気が付いたのは、長期信用銀行の破綻処理の不透明さを調べた時だった。あまりに不可解な外資への売却と、その後の新生銀行の存在に疑問を感じずにはいられなかった。この破綻処理に関わったとされる司法関係者の話と、一部のアングラ関係のマスコミの記事がなかったら気がつけなかったと思う。

長銀の天皇と謳われた故・杉浦会長と宮沢・元大蔵大臣との姻戚関係。財務省主導で行われた長銀の破綻処理と、その後の金融監督庁での不可解な自殺続発。以前、このブログでも書いたことなので、これ以上は省きますが、表に出なかった何らかの動きなくして、あのような不透明な破綻処理はありえないと断言できます。

姻戚関係は、無視するにはあまりに強すぎる要因なのです。公私の別は当然なのでしょうが、それでも誰が喜んで血縁関係にある親族に不利な処理をするでしょうか。霞ヶ関のキャリア官僚たちと政界、財界との姻戚関係の深まりを追及した著者・広瀬の執念はたいしたものだと思います。

残念ながら、広瀬氏の偏った政治的姿勢がこの本の信憑性を損なっていますが、彼が調べ上げた姻戚関係こそは、大手のマスコミは知ってても、決して書かない裏の関係だと思います。この部分を調べ上げ追及できるマスコミが、もし居るならば「ロッキード事件」や「リクルート事件」を遥かに上回るスキャンダルとなることは確実でしょう。それには内通者の存在が必要不可欠だと思います。

ただし、内通者の命の保証はしかねます。新聞の片隅にそっと記載される若手のキャリア官僚の自殺記事。なぜ彼らは自殺しなければならなかったのか?私が知る範囲では、若手ほど理想に燃え、正義感に燃え、日本の将来を真剣に憂う真面目な役人であることが多いのです。厳しい出世競争の成果が出て、行き先が見える頃には、これらのキャリア官僚は決して自殺などしません。退職後の人生を考えたら、なにをしていいか、してはいけないかが分ってくるのでしょう。

私とて、ほんの一部を知るに過ぎません。多分、私の知り得ない事情があるのでしょうが、それでも推測できる一部の真相だけでも、日本の将来を悲観したくなるのに十分です。「美しい日本」なんて、どこの国の話かと吐き捨てたくなるのです。

日本にはいいところだってあるのですから、なるべくそちらを見つけるようにしたいものです。
コメント (25)
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