ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「モンスター」 ジョナサン・ケラーマン

2007-04-26 09:40:36 | 
心理科の医者が、日常的にいる社会ってどんなものなのだろう?

平安時代の日本では、陰陽師がテクノクラート(技術官僚)として政府の役職に就くことは当たり前であったようだ。他にも卜占をする占い師や、方位を診断する風水士が、当然のように社会に受け入れられていることは、日本に限らずよくあることのようだ。

いつの時代にも、人々は確かならざる未来を、少しでも確実にするために占いなどにすがることは珍しくない。近代以降は、科学が占いの座を奪ったようだが、それでも星占いや、霊媒師などが絶えたことはない。

科学と占いの違いは、何かと問われれば、それは第三者客観性にあると思う。Aという現象からBという結論が導かれるという理論は、誰がいつやっても同じ結果になることにより証明される。しかし、占いは違う。Aという現象からは、占い師次第でBという結論もあれば、Cという結論もあり得る。

これゆえに占いは科学足りえない。だから信じるに値しないと、結論付けるわけにはいかないから、人間は面白い。占い師は、答を求める客により、その占いを微妙に変える。客が欲する答を与えることが出来れば、それは占い師として優秀であると評しても、そう間違いではないと思う。

いくら科学が論理的に正しい回答を用意しても、それが必ずしも満足のいく回答となるとは限らない。論理的な正しさだけでは人は満足できないのだろう。人々が叡智を絞り、理想的な社会を作ろうと努力しても、どこかに無理があるのだろう。その無理が人の心を傷つける。

表題の本は臨床小児心理医アレックス・シリーズの新作です。アメリカという人造国家は、理想を求めた人たちが築き上げた国ですが、世界でも稀に見る心理医大国でもあります。国民の多くに、かかりつけの心理医がいる国なんて、アメリカくらいなものでしょう。

本作に限らず、アレックス・シリーズでは心の病んだ人間が多数登場します。これほどまでに人の心を傷つける国、アメリカ。だからこそ宗教や、セラピストが栄える国でもあるのでしょう。主人公のアレックスは、心理医として社会的には成功したけれど、若くして疲れ果てて引退し、静かな生活のなかで自分を取り戻し、持ち前の社会正義心から探偵役を引き受ける人生を歩んでいます。

直視するのも嫌になる陰惨な事件と、知りたくもないような心の腐った人々が多数登場するアレックス・シリーズですが、それを救っているのが主人公の健全な常識であり、前向きな精神であると思います。だからこそ、読むのを止められない魅力があるのですが、なかなか新作が発表されないのが、唯一不満かな。まあ、今回も十二分に楽しませてもらいました。
コメント (8)
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