ヌマンタの書斎

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消費税の特例の温存

2007-07-20 09:31:55 | 経済・金融・税制
どうやら、そろそろ消費税の増税が国会の場に持ち込まれたようだ。

ここで改めて先送りされている課題を取り上げたい。「消費税の課税売上割合の特例」問題が税務関係者の間に問題にされてから既に久しいが、分かりにくい問題なので一般には知られていない。

この問題は、消費税のような大型間接税を採用している国では、大問題として議論されてきている。イギリスでは約5年余りかけて、国会で激しい論戦の末廃止された。フランスでも何度か中断されたものの、最終的には廃止されたと聞いている。いずれにせよ、国会、マスコミ、世論、行政庁を巻き込んでの大論戦であった。

では、日本では?政府税調及び自民党税調では議論されたらしいが、国会の場で議論されたことはない。多分今後もないと思う。日本の国会議員の税に関する知識はあまりに乏しく、多分委員会レベルで多少議論されてお終いだと思う。委員会に持ち込まれる法案の原案は、既に財務省が調整済みなはずだ。有権者は何も知ることなく、消費税創設以来変わっていないことすら知らないはずだ。これでは困る。

なるべく分かり易く説明してみたいと思います。(法人税や所得税は省略します)

例1
消費税という税金は、売上にかかる消費税から、仕入れにかかる消費税を控除して計算されます。売上が2100万円(内消費税100万円)で、仕入れ1500万円、うち消費税がかかる仕入れ(課税仕入といいます)1050万円(内消費税50万円)の場合ですと、利益は2100万円マイナス1500万円で600万円です。一方、消費税は100万円マイナス50万円で50万円の納付となります。決算で未払消費税を計上するので、600万円マイナス50万円で550万円が正味の利益となります。

これは売上のすべてに消費税がかかる場合の計算です。ところが、全ての売上に消費税がかかるわけではありません。消費税がかからない売上(非課税売上)もあります。具体的には社会保険診療の対象となる医療とか、土地及び居住用建物の貸付、利子収入、教科書販売などが限定列挙されています。

さて、では上記の例で売上の約半分が消費税のかからない非課税売上だとしたら、どうなるでしょう。

例2≠P
売上が2100万円、ただし消費税のかかる売上が1260万円(内消費税60万円)非課税売上840万円となる。仕入れは1500万円で、うち課税仕入は1050万円(内消費税50万円)とします。さて、この場合の消費税の計算が問題になります。実は、売上にかかる消費税60万円マイナス仕入にかかる消費税50万円で、納付すべき税額は10万円は間違いです。

売上2100万円のうち、消費税のかかる売上が1260万円ですから、消費税のかかる売上は6割となります。この割合を課税売上割合といいます。

改めて考えると、売上に対応する仕入についても、課税売上のための仕入と非課税売上のための仕入があったはずです。仕入(1050万円)にも消費税(50万円)はかかっていますが、その消費税と売上にかかる消費税とは対応関係があるもの、ないものがあるはずです。つまり、課税仕入にかかった消費税50万円のうち、非課税売上分の消費税は除外して、納付すべき消費税は計算されるべきなのです。

例2≠Q
つまり、消費税の計算は、売上分消費税60万円から仕入分消費税50万円×課税売上割合(60%)=30万円をマイナスして、納付すべき消費税30万円が計算されるのです。ちなみに売上分消費税からマイナスされなかった仕入分消費税(20万円)は、控除対象外消費税といい、費用として落とされます。

実務の上では、けっこう煩雑な計算となるので、課税売上割合95%以上の場合は、この按分計算はしなくてよいとされています。これを「課税売上割合の特例」といいます。これが、大変な問題なのです。

要するに課税売上割合が95~100%の場合、例2≠Qのように厳密に計算すれば納付すべき消費税が出るはずなのに、それが免除されて例2≠Pのように計算されているのです。つまり結果的に合法的節税として活用されているのです。

たかが5%で何を騒ぐのかと思われるでしょうが、そうではありません。この5%の恩恵を受けているのは日本の場合、大企業であることが多いのです。しかも、売上が数千億から数兆円の大企業なはずです。上記の例において、円と表示している数字を億円と置き換えれば、分かりやすいと思います。

研究者の算定では、この5%の特例を廃止すれば、相当な税収アップ(一説には2000億円)があると予想されています。当然に国税局、財務省も知っています。出来たら課税したいと考えているようです。しかし、実際にはこの特例は温存されてます。

これは私の想像(根拠なし!)ですが、この5%の恩恵を受けているのは、ゼネコンや不動産業のように政府に関りの深い企業が多いようなのです。課税売上割合の特例の話が出ると、決まって自民党サイドから横槍が入ります。不思議なことに財務省も素直に、その横槍を受け入れているのです。背後には、どうも経団連の匂いがします。

イギリスでもフランスでも、やはりこの課税売上割合の特例は大企業に歓迎されていたようで、当然に特例廃止には抵抗したようです。それでも、長い議論の末廃止に至ったようです。さきほど、実務の上で煩雑な計算になると書きましたが、これは嘘です。コンピューターで集計するので、簡単に計算できるのです。

現在の消費税の割合5%の増税を考える前に、この「課税売上割合の特例」を廃止するほうが、税収確保になると思いますが、どうも大企業ほど負担の大きい、この是正措置は問題視されながらも、先送りされてきました。

私は、この特例は廃止されるべきだと思います。残す理由がありません。
コメント (2)
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