ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「フォーチュン・クエスト」 深沢美潮

2007-07-16 12:39:41 | 
多分、気持ちが弱っていなかったら読まなかった本だと思う。

私は本を捨てられない人間だ。だから引っ越していった近所の家が捨てていったゴミのなかに、紐閉じされた文庫本の山があったもんだから、迷うことなく持ち帰った。かねて読みたかった本があったからでもある。

数十冊の文庫本のなかにあったのが、表題の本だった。漫画チックなイラストが豊富なライト・ノベルであり、もし本屋の店頭で見かけたなら無視したかもしれない。

当時は二度目の難病の再発で、6ヶ月ほどの再入院を終えて自宅療養に切り替えていた最中だった。もう二度と治らないのではないかと、本気で思い悩んでいた頃だった。

再起へのやる気も失せ、ただ漠然と息をして、食事を取り、薬を飲み、後は寝るだけの日々だった。投げやりな気分であったので、手にとって読む気になったのは事実だ。

驚いた。面白かった、懐かしかった。TVゲームのドラゴン・クエストが大流行した余波で、雨後の竹の子のように出てきたファンタジー小説なのだが、当時アニメ嫌いであった私は、その漫画チックなイラストが嫌で手を出さなかった分野でもあった。

寝転がり、漠然と読んでいたが、そのほのぼのとした内容に心が和んだ。戦うのが嫌いな戦士に、方向音痴のマッパー、手品みたいな魔法しか使えないエルフの子供や、健気なホワイト・ドラゴンの子供といった冒険者には程遠いメンバーが繰り広げる、冒険未満の冒険が楽しかった。

十代の頃は登山に夢中であったが、いつもパーティを組んで登っていた。常に仲間たちがいて、朝も夜も賑やかに過ごしていた。それが当たり前だと思っていた。

しかし、長引く療養生活は、独りで生きていくことを日常化していた。自覚はなかったが、多分寂しかったのだと思う。だから、初心者ばかりの冒険話にほのぼのとした安らぎを感じたのだと思う。荒んでいた気持ちに、柔らかな日差しを感じるような感慨が気持ちよかった。

作者の出産、育児休業などの中断があり、その間に私は体が回復して社会復帰してからは読んでいなかった。続編も何冊も刊行されているが、未読のままだ。今回の再読も一巻を流し読みしただけで満足してしまった。

原因は分かっている。やはり内容が青少年向けだからだと思う。今の私が読む必要を感じられない内容なのだ。そうだとしても、かつて病み衰えていた私を励ましてくれた本であることは間違いありません。もう読むことはないかもしれませんが、こんな本との出合いでも助けられた事実は、忘れずにいたいと思います。
コメント (2)
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