変らない国、それがシナ。
秦の始皇帝が全国統一を果たしてから2千年が過ぎた。幾つもの王朝が立ち、滅び、また新たな支配者が王朝を打ち立てる。支配者は漢民族に限らない。ツングース系もいれば、チベット系もいた。
世界に冠たる中華料理の原型が完成したのは、モンゴルがシナを支配していた時であった。これだけ複数の異民族に支配を許した以上、その社会も大きく変質しているべきであった。
でも変らなかった。
始皇帝は、その広大なシナの大地を支配するために2元統治策を採用した。すなわち皇帝を頂点とした中央行政組織という巨大な三角形。その三角形のしたには、各地方の県知事や郷長や村長を頂点に抱く小さな三角形(行政単位)が多数配置される。
シナの大地には言葉も風習も異なるシナ人たちが、大きな県から小さな村まで多様な社会を築いている。そこを支配するためには、その地域の行政単位を活かして統治する以外に、適切な方法がなかった。
この統治方法は、極めて有用であったため、その後の支配者たちにも引き継がれた。なにせ漢民族以外の支配者でさえ、あまりに便利な支配方法であったので、引き継がざる得なかった。
だが、反面デメリットも大きかった。統治する側の巨大な三角形と、支配される多数の小さな三角形には、ともに合い通じ合う感覚はなく、同じシナといった共有感、一体感はありえない。
それどころか、一方的に簒奪するだけの巨大三角形と、奪われる無力感から気持ちの荒廃した多数の小さな三角形を育んだ。この小さな三角形の構成員(村長や村人たち)は、口では国家への忠誠心を言明するが、内心はまったく裏腹のねじれた気持ちを抱き続けてきた。
このため、シナは統一国家でありながら、一体感を持たない国民を持つ奇妙な国となった。国として一体感を持ちうるのは、外敵に対抗する時だけだ。つまり平時の時は、この両者は限りなく別の社会原理で動いている。
はっきり言えば、国家の政策に、国民が従うとは限らない国である。砂漠化に悩むシナの政府にとって、森林資源は貴重な財産であり、それを守ることは国策である。
にもかかわらず、その貴重な森林を伐採して恥じることのない庶民たち。それを平然と見過ごし、あまつさえ賄賂さえ受け取る地方の役人。
そこに現われた一人の退役軍人の森林保護官。賄賂を受け取らず、国家の森林保護政策を頑なに遵守しようとする誇り高き退役軍人に苛立った村の顔役たちは、不当な手段に訴えた。きわめて非道な手口であり、陰湿であり、暴虐でさえある。
そして、それを見て見ぬふりするだけでなく、積極的に応援する善良なる村人たち。騒ぎが大きくなり、上級官庁が乗り出すが、そこで行われた高度に政治的な判断がいかなるものか。
フィクションのかたちをとっているが、実際に起きた事件をベースにしていることが明白なこの本は、本があまり売れないシナにあって異例の売上を誇る。
ジャーナリズムが未熟なシナにおける、最良のジャーナリストの作品として注目に値するこの本は、是非とも目を通して欲しいと思います。
秦の始皇帝が全国統一を果たしてから2千年が過ぎた。幾つもの王朝が立ち、滅び、また新たな支配者が王朝を打ち立てる。支配者は漢民族に限らない。ツングース系もいれば、チベット系もいた。
世界に冠たる中華料理の原型が完成したのは、モンゴルがシナを支配していた時であった。これだけ複数の異民族に支配を許した以上、その社会も大きく変質しているべきであった。
でも変らなかった。
始皇帝は、その広大なシナの大地を支配するために2元統治策を採用した。すなわち皇帝を頂点とした中央行政組織という巨大な三角形。その三角形のしたには、各地方の県知事や郷長や村長を頂点に抱く小さな三角形(行政単位)が多数配置される。
シナの大地には言葉も風習も異なるシナ人たちが、大きな県から小さな村まで多様な社会を築いている。そこを支配するためには、その地域の行政単位を活かして統治する以外に、適切な方法がなかった。
この統治方法は、極めて有用であったため、その後の支配者たちにも引き継がれた。なにせ漢民族以外の支配者でさえ、あまりに便利な支配方法であったので、引き継がざる得なかった。
だが、反面デメリットも大きかった。統治する側の巨大な三角形と、支配される多数の小さな三角形には、ともに合い通じ合う感覚はなく、同じシナといった共有感、一体感はありえない。
それどころか、一方的に簒奪するだけの巨大三角形と、奪われる無力感から気持ちの荒廃した多数の小さな三角形を育んだ。この小さな三角形の構成員(村長や村人たち)は、口では国家への忠誠心を言明するが、内心はまったく裏腹のねじれた気持ちを抱き続けてきた。
このため、シナは統一国家でありながら、一体感を持たない国民を持つ奇妙な国となった。国として一体感を持ちうるのは、外敵に対抗する時だけだ。つまり平時の時は、この両者は限りなく別の社会原理で動いている。
はっきり言えば、国家の政策に、国民が従うとは限らない国である。砂漠化に悩むシナの政府にとって、森林資源は貴重な財産であり、それを守ることは国策である。
にもかかわらず、その貴重な森林を伐採して恥じることのない庶民たち。それを平然と見過ごし、あまつさえ賄賂さえ受け取る地方の役人。
そこに現われた一人の退役軍人の森林保護官。賄賂を受け取らず、国家の森林保護政策を頑なに遵守しようとする誇り高き退役軍人に苛立った村の顔役たちは、不当な手段に訴えた。きわめて非道な手口であり、陰湿であり、暴虐でさえある。
そして、それを見て見ぬふりするだけでなく、積極的に応援する善良なる村人たち。騒ぎが大きくなり、上級官庁が乗り出すが、そこで行われた高度に政治的な判断がいかなるものか。
フィクションのかたちをとっているが、実際に起きた事件をベースにしていることが明白なこの本は、本があまり売れないシナにあって異例の売上を誇る。
ジャーナリズムが未熟なシナにおける、最良のジャーナリストの作品として注目に値するこの本は、是非とも目を通して欲しいと思います。