ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

プロレスってさ 大木金太郎

2015-10-19 12:08:00 | スポーツ

物騒な世の中である。ニュースなどを見ていると、たいしたことない理由で争いが起きたり、僅かなお金で強盗事件が起きたりしている。

そんな世の中で、吾が身を守る最大の術は観察力だと考えている。要するに「君子、危うきに近寄らず」を実践するのが一番の安全策だ。まず危ないとされる場所には近づかない。次に危ない状況になりかけているのを察知し、素早く回避する、もしくは逃げる。

全て、早め、早めの判断と決断が重要で、一番良くないのはパニックになり、慌てることだ。中途半端な決断も良くない。逃げることを恥じず、さっそうと逃げ出す。これに勝る防御法はない。

だが、逃げられない時もある。避けられない時もある。謝って済まない時もあれば、戦わざるを得ない時だってある。脳内瞬間湯沸かし器を装備した私でも、この年になると、避けられる争いは可能な限り避ける。逃げられるならば、臆面もなく堂々と逃げる。

しかし、どうしようもないこともある。戦わねばならぬ時は、絶対にないとは言えない。いつあるかも分からない。そんな時は、可能な限りダメージを負わない戦い方をする。いや、はっきりと云えば、無様な守り方をする。

胸の上部や、肩、背中など打たれ強いところを打たせ、頭や咽喉、急所などは可能な限り隠す。亀のように丸くなるのが理想的だ。勝ち目のない相手ならば、そのほうが、いかに無様でもいい。生き延びること、それを第一に考えるべきだ。

ただ、稀にだが勝てそうな相手の時もある。主に素人が怒りだけで攻撃してくる場合だ。そのような時は、反撃しておいてから逃げる。いわば勝ち逃げだ。その際に使うのは、決まって頭突きである。

格闘技の素人が、いくらポーズを決めてストレートパンチやフック(一番、KO率高し)を使っても、せいぜい拳を痛めるだけで、たいして役に立たない。また間違っても蹴り技はダメだ。素人の蹴り技なんて自滅の道。

だが、頭突きは誰にでも出来るし、意外なほど当たる。至近距離で、これほど威力のある攻撃はない。一番効果があるのは、顔の中心、つまり鼻なのだが、これは案外と難しい。何故って相手の怒っている顔を直視することになるからだ。

私が狙うのは、いつもお腹の真ん中。いわゆる横隔膜がある部分を狙う。謝る振り、または倒れるふりをして、身体を低くかがめ、相手の蹴りに注意しつつ、その腹めがけて両足をたわめて、おでこからぶつかっていく。素人相手なら、まず外すことはない。

また当たれば必ず相手は、うずくまる。その間に逃げる。うずくまる相手をボコるのは止めた方がいい。後で警察沙汰になった時に不利になる。このへんがこ狡いオジサンの厭らしさだろう。

息を切らせて交番に駆け込むもよし、交通機関に飛び乗るも良し。とにかく逃げろ。素人が喧嘩で勝つことを目的にしちゃいけない。あくまで無事に生き残ることを考えるべきだ。

このことを私に教えてくれたのは、20代の頃に長期入院していた病院で知り合った某右翼団体の幹部だと称する人だった。小柄だが怖い感じが漂う人で、それだけにニコッと笑った時は魅力的な男性だった。

彼の額には、いくつもの傷が刻まれていて、なかには刀傷ではないかと思われる痕もあった。普通の入院患者が敬遠するなか、私はわりと無邪気に彼に話しかけていたので、けっこう可愛がられた。

だから、その額の瑕について聞いてみたら、返ってきたのが頭突きの話であった。私もけっこう使う技であったが、素人は無事逃げるために使えとの話には、大いに肯けるものがあった。やはり修羅場を潜った人の言は重い。

ところでプロレスで頭突きといえば、一番はボボ・ブラジルが印象深いが、今回取り上げる大木金太郎も外せない名手だ。片足を大きく振り上げて、降ろす反動で頭突きをぶち込む、一本足頭突きが有名だ。

しかし、私が見たところ、一番効果があったのは、至近距離からゴツン、ゴツンと地味に打ちつける頭突きであった。あの頭突きには見覚えがある。多分、コリアの人だと思っていた。

私の通った中学校の隣には、朝鮮学校があり、また韓国人居留区も近所にあったので、あの頭突きの痛みは身体が覚えている。あれは本当に効いた。十代前半のガキどもの、じゃれ合うようなケンカでも、あの頭突きは必殺技に近い威力があったと思う。

その記憶があったので、正直あまり好きなプロレスラーではなかったが、強さは認めていた。馬場も猪木も、あの頭突きの連打を受けると、一様に膝を屈して痛がっていたものだ。

ただ一本気過ぎたのか、敵も多かった。柔道日本一の経験もある坂口征二とは、日本プロレス解散時の諍いから、まともなプロレスの試合にならず、いつも壮絶な喧嘩マッチとなっていた。

坂口は本気でやれば外人レスラーも恐れる実力者であるが、遺恨がある相手だとまともにプロレスをやらない悪癖があった。その坂口の猛攻をしのいで、逆襲に転じて坂口を血だるまにするあたり、大木も実力者であることは間違いない。いや、むしろプロレスラーとしてのプロ意識は大木のほうが強かったと思う。私のみたところ、大木には試合を作ろうとする意識が見受けられたからだ。

大木の試合は、頭から出血するものが多かった。相手レスラーが大木の頭突きを嫌って、場外乱闘などで大木の頭を鉄製のャXトに叩きつけたり、アルミのパイプ椅子で、頭を滅多打ちにするからだ。

だから、大木というと、頭から出血しながら試合をしているイメージが強い。プロ意識の極めて強いプロレスラーであったと思う。ただ不遇の人でもあった。力道山の後継者は自分だとの思いはあったようだが、人気で馬場に及ばず、試合では巧者の猪木に丸め込まれ、どうしてもエースには成り切れなかった。

それでも母国である韓国にプロレスを根付かした功労者であり、英雄視されてもいた。ただ、郷里は日本との意識も強く、結局母国には居つかず、日本の地で生涯を終えている。

頑固で一本気な昔気質のプロレスラー、それが大木金太郎であったと思う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする