病気が人を変えたのだろう。
表題の作品の著者は、大人向けの娯楽雑誌などに、ちょっとHで下品なゴメディ漫画を描いていた。当時のヒット作である「ころがし良太」などがその典型で、ヤンキー上がりのバス運転手の、はちゃめちゃな生き方が笑えた。
その後、ヤングマガジン誌に「工業哀歌バレーボーイズ」を連載して人気があった。その続編を同誌に連載中、癌に罹患していたことが分かり、連載は一時期中断されていた。その後、作者自身の闘病記などを描いたりしていた。
その村田ひろゆきが自らの癌との闘病生活から得た経験を元に描き始めたのが、表題の作品であった。正直言うと、作風がまるで変ってしまった。それも良い方向に。
私はこの作者は、きっとヤンキー育ちだろうと思っていた。そうでなければ描けない漫画ばかりであったからだ。そして私は知っている。ヤンキーなどと揶揄されることもある、この不良青年たちは案外情に厚い好漢が少なくないことを。
もちろん碌でもない輩は相当にいる。なにしろ根っこは不良であるから、法律を破ることへの障壁は低く、警察はもとより既存の社会制度への反感も相当に根強い。
だが、仲間内に限れば、友誼を大切にし、信義を重んじ、正しいと信じたことのためなら吾が身が傷つくのを恐れぬ人たちであることも知っている。髪を染めた、如何にも悪ガキ風の青年たちが、堂々と高齢者を助け、見て見ぬふりをする良識ある社会人たちがやらない善行をすることがあるのも珍しくない。
漫画家である村田氏が、その入院中に見聞したとみらえる高齢の入院患者、苦しむ癌患者とその家族を、優しくも厳しい目線で描いたのが表題の漫画だ。その絵柄だけで敬遠することなく、素直な気持ちで読んでみれば、凡百の医療漫画とは一味違うその魅力に気が付くはずだ。
私はこれほど病魔に苦しむ患者の表情を、見事に描き出す漫画は久々に読んだ。機会があったら、是非とも手に取って欲しい作品です。