子供の頃、私はあまりお茶を好まなかった。
自他ともに認めるお祖母ちゃん子ではあったが、不思議なことに味噌汁や煎餅はあまり好きではなかった。和菓子は良いのだが、どうも甘くないものは好きになれなかった甘党である。
荷物持ちというか、車輪が二つついたカートをひっぱりながら、お祖母ちゃんの買い物に同行することは良くあった。元々は、早朝の青物市場というか近隣の農家さんたちが開催している朝市への買い物のお手伝いであった。
そのうち、私が学校から帰宅してから、お祖母ちゃんの買い物に付き合われた。今だから分るが、当時家では大人しかった私だが、外ではいろいろと悪さをしでかしていたので、お祖母ちゃんが監視するために私を連れ出したのだと思う。
駅前の繁華街までは、二人で歩くと30分はかかる。いろいろとお話ししたはずなのだが、ほとんど覚えていない。でも、私はお祖母ちゃんの前ではいつも、良い子であらんと努力していたことだけは覚えている。
優しいお祖母ちゃんだったけど、なぜか少し緊張をさせられるのが不思議だった。買い物途中の買い食い等は、いっさいなかったが、偶に立ち寄るお茶屋さんで、お茶と一緒に出されるお菓子は一緒に食べた。
そのお茶屋さんは、いつも香ばしいお茶の匂いが漂っていた。その店では、ほうじ茶を店頭で焙煎していたので、この独特の香りが目印だった。お祖母ちゃんは、ここでお茶葉を買い、サービスのお茶を飲んでから帰宅した。
私はほうじ茶の香りを嗅ぐと、お祖母ちゃんとの買い物を思い出す。
実はこの秋口くらいから、妙にほうじ茶がお気に入りとなっている。以前は紅茶と珈琲だけだったのだが、50代に足を踏み入れてからは、嗜好品として緑茶、ルイボスハーブティ、コーン茶と飲むものが増えていった。
そして遂にほうじ茶にまで手を出してしまった。
きっかけは、都内の某有名商店街を歩いていた時だ。実に香ばしい匂いが漂っていることに気が付いた。匂いの元をたどっていくと、そこにはお茶屋さんがあり、そこの焙煎機からほうじ茶の匂いがふりまかれていた。
懐かしい匂いであり、私はすぐにお祖母ちゃんのことを思い出した。なんとなく、背筋を伸ばしたくなり、ちょっと気合を入れて仕事先に向かう気持ちは心地よいものであった。その帰り、このお茶屋さんで出来たてのほうじ茶を買ったことは言うまでもない。
楽しみが増えるって、楽しいものですよ。