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ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

会社法その7 訴訟社会への対応

2006-08-25 09:45:50 | 経済・金融・税制

今回の会社法改正により、会社の運営機関の設計に様々なパターンが増えたことは前回書きましたが、もう少し補足したいと思います。

前回、監査役を置かない場合のリスクについて書きました。では、取締役会を置かない、つまり取締役一人の場合のリスクはどうか。まず、不慮の事故等のリスクは、誰にでも分かりやすいと思います。特に株主一人=取締役の場合、株主と役員の双方を失うことになり、次の株主が決まらない限り、会社は機能を大幅に喪失することになります。

しかし、取締役が一人の場合の最大のリスクは、取締役会議事録が存在しなくなることだと思います。現在、会社が訴えられるケースが急増していますが、その際大切な証拠となるのが、取締役会議事録です。取締役一人では、まず作りませんから、訴訟になった場合「言った」「言わない」の水かけ論になることが多くなり、重要な証拠となる書面による証拠がない事態に陥ってしまうのです。

もし、取締役が一人で株主が複数の場合、取締役会がないため、株主総会での決議が必要な場合が多くなり、柔軟で迅速な経営が難しくなるケースも考えられます。

以上の点からして、現在新会社を設立する相談があった場合、私どもの事務所では基本的に、取締役は複数で取締役会を設け、監査役を一人置く機関設計を勧めております。

何度も繰り返しますが、今回の新・会社法では司法の場(つまり裁判)を前提にした規定が数多く置かれています。これは現在の株主代表訴訟の増加と、今後の更なる増加を見込んだものだと思われます。

その代表的規定が「不提訴理由の通知制度」でしょう。これは会社を訴える株主が、会社にあるはずの重要資料を容易に入手することが出来る制度です。これは怖い。なぜ怖いかというと、実は中小企業ほど、その重要資料が十分整備されていないからです。

税務訴訟に詳しい弁護士さん曰く「日本の中小企業は犯罪の宝庫」だそうです。たしかにそう言われても仕方ないと思います。なにせ、取締役会議事録や株主総会議事録すら満足に作られていない企業は山ほどあります。つまり、あるはずの重要な証拠資料がない。

今後、日本の企業は訴訟を始めとして、様々な法律問題に直面することが増えると思われます。既にその傾向は出てますが、今回の新・会社法はそれを十分に後押ししているのです。これまで長年にわたって企業を運営してこられた経営者は、頭を切り替えて、訴訟社会にも十分対応できる会社運営をしていかねばならないと思います。

正直、頭が痛いです。皆、口では当然ですねと言いつつ、なかなか行動してくれないからなあ・・・

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会社法その6 自由と責任

2006-08-24 18:04:08 | 経済・金融・税制

前回、高度成長を終え成熟した社会を迎えたと書きましたが、それは衰退の兆候をみせつつあることでもあります。事実、この20年間企業の廃業は拡大する一方であり、新たな創業、起業よりも倒産、解散の方が多いのが現実です。

そこで一回から四回までに書いたように法人設立を容易にしたのが新・会社法です。更に会社をどのように運営していくか、すなわち会社の機関設計も大幅に自由度が拡大しています。なお、以下の文章は、原則として非公開会社、つまり上場企業以外の中小企業を前提とさせていただきます。

従来の株式会社が取締役会と監査役を基本としていたのに対し、新・会社法では実に39通りの機関設計のパターンを認めています。ですが、自由度が広まった一方で、責任も深まったことを忘れてはなりません。

沢山パターンはありますが、基本は取締役会と監査役です。このパターンが一番安心です。このケースならば、過去の様々な判例等により、なにかトラブルがあった場合の扱いも確定しており、弁護士さんたちも素早く対応出来るからです。

一方、リスクが多いと思えるのが、取締役しかおかず、監査役を置かない場合でしょう。この場合、株主の権限が強まるため、株主が経営に直接関わってくる可能性が高いと予想されます。株をお持ちの方は分かると思いますが、通常株主は株主総会で質問や投票をするだけで、経営には口を出せない。しかし監査役がいない会社では、少数株主が取締役に異論がある場合、株主からの干渉が強く認められてしまい、トラブルの元になると予想できます。

逆に言えば、株主1人=取締役1人ならば、取締役一人で十分でしょう。ただし不慮の事故等があった場合は、面倒なことになります。いずれにせよ、複数の株主がいる場合なら、監査役は置いた方が無難だと思います。

なぜに株主のことを警戒するかというと、実を言うと現在多く発生している会社法務上のトラブルは、株主と経営者との間で発生したものが少なくないからです。特に株主代表訴訟は、上場企業よりも非上場の中小企業でこそ、多く発生しているのです。

私の見聞した範囲では、相続後に多く発生しています。つまり会社設立当初の株主たちよりも、その当初の株主の死去により株を取得した相続人と経営者との間でトラブルが出やすいのです。

多くの場合、少数派の株主と現・経営陣との間のトラブルですが、旧・商法よりも少数株主に権限を与えかねない新・会社法ですから、会社の機関設計には注意を要します。

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会社法その5 改正の背景

2006-08-23 09:42:55 | 経済・金融・税制

6月に四回連続で書いて以来、久々の会社法です。次は会社の定款自治について書くつもりだったのですが、今日まで延ばし延ばしとなっていました。

実を言うと、あまり書きたくなかった。あまりに変わりすぎて、あまりに自由度が高すぎて、何を勧めたら良いか、私自身が迷ってしまったからです。

改正点をダラダラと書き連ねるのなら、馬鹿でも出来る。私は実務家ですから、改正点をどのように考え、どのように活用するかでなければ意味がないと思い、1ヶ月以上延ばしてきました。いろいろな本を読み、弁護士、公認会計士、税理士の諸先生方の講演を聴き、自分なりにまとめることが出来たので、僭越ながら書かさせて頂きます。私の私見、偏見、独断が若干入り混じっていることは、予めご了承して頂きたいと思います。

従来の商法会社編は基本的に大企業を対象とした法律でした。しかし、日本の企業の九割以上は中小企業ですから、社会の実態に即していない法律でした。そこで今回の会社法は、中小企業向けに作られています。

もう一つの特徴は、旧・商法が事前規制型で、行政の裁量を大きく認めていたのに対して、今度の会社法は、事後監督型であり、法律重視で司法的解決に方向性を出していることが大きな違いです。

つまり従来の行政指導重視から、ルール(定款)による自治と司法による統治重視に変わっているのです。もっといえば、自由度が飛躍的に拡大したがゆえに、その結果責任が重みを増した形になっています。要するに「自由と責任」に重点をおいたのが、新会社法だと思います。

では、何故このような形に改正されたのでしょう。やはり社会の変化と無縁ではありません。高度成長を終え、熟成した社会となった今日の日本では、従来の会社・経営者重視から消費者重視へと変わりつつあります。また小選挙区制の影響だと思いますが、特定業界に偏った態度では有権者の多数を握ることが難しくなった政治家事情も影響しています。そして司法の世界の拡大といった事情もあります。

実際問題として、公害訴訟でも最近は原告(消費者等)が被告(企業)に勝つケースが増加しています。またPSE法に見られるように、消費者の権利を社会が擁護する傾向は今後も増加するでしょう。

政界では一部の業界の代弁者と見られることは、政治家にとってマイナスとなっている現実もあります。小選挙区制度は、比較多数を握らなくては勝てませんから、多数派である声なき有権者たちの反感を買う行為は、きわめて高いリスクとなっています。

数年前の商法改正により、総会屋が株主総会から締め出された一方、会社法務を得意とする弁護士たちが株主総会になくてはならぬ存在になっています。株主代表訴訟は増える一方ですから、企業社会における司法の存在感は高まるばかりです。その一方天下り官僚の民間への転出は敬遠される現象がおきており、行政の存在感は以前より縮小したのはたしかです。

このような社会の変化を受けての、今回の会社法改正がなされた訳です。そこで次回は自由な経営システムの構築と、それに伴う責任について書こうと思います。

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プロレスってさ アメリカン・プロレスの隆盛

2006-08-22 09:10:40 | スポーツ

プロレスの人気凋落が著しい。かつてのファンとしては寂しい限りである。猪木と馬場という二人の大スターがいなくなったことが大きいが、それ以上に大きいのがファンの醒めた目線であろう。プロレスに筋書きがあること等の裏舞台の構造が明らかにされてしまった事が大きく影響している。

新日本プロレスから分離したUWFに端を発した、格闘技路線が今にして思うと、プロレス人気凋落の始まりだった。格闘演戯であり、格闘芝居であったはずのプロレスに真剣勝負の装いを着せたことに無理があった。いくら格闘技路線を追求しようが、本物には敵わない。

毎日、仕事のあるプロレスで、真剣な格闘技路線は現実的に無理。大相撲ですら2週間限定とすることで、なんとか真剣勝負を維持しようとしているが、それでも八百長相撲の噂は絶えない。まして年間100日以上の興業をうつプロレスでは、毎日真剣勝負なぞできるわけない。

ブラジルで生まれたヴァリートード、何でもありの格闘技は、真剣勝負そのものであったが、真剣勝負ゆえに残虐さが目立ち、興業には向かない。当然にルールで選手の身体を守り、残虐性を薄めた格闘技が生まれたが大衆人気は得られなかった。正直専門的過ぎて、素人に判り易いものではなかった。

そこでルールをシンプルにして、判り易くしたのがK1だった。しかし、そのK1ですら面白い試合を連続して提供するのは難しい。真剣な格闘技路線を追求すると、どうしても選手の肉体的故障が生じやすく、スター選手を常に試合に出すことが出来なくなっていた。

止む無く人気取りの意味で相撲やアメフトの引退選手を引っ張り出して、素人観客の関心を惹きつけ、TVの視聴率を上げることで人気回復を目指した。ところが、その路線を追求すると、いつの間にやらプロレス的試合になっている。推測だが、かつてのプロレス並みに、つくりのある試合が少なからずあると予想できる。

翻ってプロレスの本家アメリカでは、現在プロレスが大人気である。ケーブルTVの活用など、メディアをふるに使った経営戦略もさることながら、一番の原因は開き直ったことだ。格闘技路線とは全く逆に、ショーマンシップに徹し、観客をいかにエンジョイさせるかに重点を置いた試合造り。これが受けた。プロレスはエンターテイメントであることを前面に出すことで、八百長批判を封じてしまった。

かつてのプロレス先進国日本は、いつのまにやら大きく遅れてしまったようだ。

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公益法人等への課税

2006-08-21 09:50:40 | 経済・金融・税制

あまり知られていないが、公益法人等にも申告納税の義務はある。原則非課税の扱いだが、収益事業に関しては、当然に法人税課税となる。消費税の申告が必要な場合もある。

ここ2~3年、時折新聞紙上にこれらの公益法人等が脱税との報を見かけることが増えた。記事はあまり詳しく書かれていないが、おそらくその多くは消費税の脱税であろうと推測できる。実は消費税の申告実務は、けっこう面倒で、なかでも公益法人は非常に煩雑な計算が必要となる。

脱税との報道は、すべて間違いとは思えないが、消費税については、おそらく計算間違い、解釈見解の相違が原因だろうと推測できる。これを脱税と評するのは、少し辛い気がする。間違いが出るのが当然と言えるほど、消費税の条文が難しすぎるからだ。

消費税には、課税と非課税があることは分かると思う。でも非課税には、消費税法上の非課税と、消費税法の対象外となる不課税があることは、経理の専門でないと判らないと思う。更に公益法人等には、特定収入と特定収入以外の収入という特殊な概念がある。

このあたりのことは、消費税法60条第四項、消費税法基本通達16-2-1あたりに記載があるが、非常に読みにくい条文であり、これを間違えるのはいたし方ない気がする。また計算実務も非常に煩雑で、実に厭らしい。

とはいっても、悪法であっても法は法。あまりに間違いが多いせいか、国税庁・国税局はここ数年、公益法人等を重点調査対象と定めて税務調査を奨励し、間違いを正す方向でいるようだ。それゆえ、自体地の厳しい管理下にある公益法人等での脱税報道が増えているわけだ。

でもね、多分これは伏線だと思う。現在、財務省が狙っているのは、公益法人等に対する課税強化のはず。原則非課税の扱いを止め、原則課税、非課税対象を限定列挙する方向に持っていきたいらしい。おそらくは平成19年の税制改正大綱に盛り込みたいと考えているらしい。

ただ、これは非常に難しい。なにせ公益法人等の範囲には民法34条法人が含まれている。つまり、宗教法人や学校法人だ。これらの法人は当然に課税強化に反発している。しかも政治力が相当に強く、これまでもその実力をみせつけてきた経緯がある。

それ以外にも、この課税強化の範囲には「人格なき社団」が含まれる。PTAや市民団体などに代表されるこれらの存在は、やはり相当な政治的発言力を持つ。

相当な反対があるとの予想を覚悟のうえで、それでも財務省は課税強化を推し進めてくるのだろう。来年は参院選があるし、連立与党も難しいことになりそうな気はする。私見だが、おそらく先送りの可能性は高いと思う。それでも、なんらかの形で課税強化をしてくると思う。それほどまでに、日本の財政状態は悪化しているようだ。

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