2月27日。山を去る日が、時が来た。好天、前夜はかなり冷え込んだらしく、眩いまでに霧氷の輝く朝になった。軽くなったザックに2泊と3日の思い出を詰め、立ち去っていく人たちの後ろ姿を見送った。
がらんとした小屋の中に立つと、また一人取り残されたような気持に襲われ、同時に、4日間がしぼむように過去へと移っていく気がした。
前日2月26日の夕暮れ、6人を案内して帰ってくる途中、雪道にチェーン付きの轍を見付けて驚いた。轍は登山口のある峠に向かっていた。ところが間もなく、その坂道を車が向きも変えずに徐々に後退してきた。1台だと思ったらなんと5台、どれもジムニーの改良車。しかしいくらそういう車でもこの積雪、峠まで行くのは到底不可能に違いなかった。
公道だから、来るなとは言えない。しかしこれで、雪道はズタズタに荒らされてしまった。猟期が終わって、もうしばらくは山に上ってくる車はないだろうと安心していたら、今度はこういう手合いだ。正に招かざる客、というしかない。これで、雪が降らなくても車で上に行くことは、当面できなくなってしまった。
それにつけても、百姓山奥いつもいる氏は実に親切な人物だ。氏も帰路、この招かざる客に遭遇し、難儀の末に帰ったと家に着くとすぐ電話をしてきてくれた。それだけでなく、翌日山を下る際に電話をしてこいと、それで1時間以上連絡がない場合には不測の事が起きたと判断して救援に上ってくるつもりでいるからと、そうまで言ってくれたのだ。牧場を出ると、道中では電話が不通になってしまうからだ。
しかし、そういう有難い申し出を受ければなおさら氏に迷惑をかけてはならないと肝に銘じ、氏が指摘してくれた幾つかの注意箇所を慎重の上にも慎重に下り、そして無事下山した。もちろん氏には帰着してすぐ、その旨の報告をし、安心してもらった。
都会に帰っていったあの人たちも、日常の生活の中でたまには、入笠を思い出すこともあるだろう。
驚いた!京都のK氏が、なんと仲間3人と種平小屋に来ていた。昨夜、3月4日のこと。古民家の小屋が大変に気に入ったようで、「今度は女房を連れてくる」だと。まあ、気を持たせてくれたけど〝ジンギ″を切ってくれたし、種平小屋ならようござんす。