桜の開花予想によれば、今年の高遠の桜は開花が4月の10日、満開は16日だとか。まだまだ残寒を感ずる昨今、あと1か月もするとそんな季節がやって来るのかと、その備えもないから戸惑いを感じてしまう。
桜と同じように、入笠のコナシやクリン草の開花もいろいろな人からよく訊かれる。ところが、それにちゃんとした返事をすることができなかったりするから、相手は呆れてしまう。
確かに、牧場がコナシの白い花でおおわれるのは見事であるし、その規模は「天下一」と呼ばれる高遠城の桜をも凌ぐ。クリン草にしても、森の中にあれほどの群落が薄桃色の衣を広げたように咲き誇り、あるいは川の流れのように見えれば、誰でも感動しないはずはない。
しかし、そういう特定の自然の姿が、同じころにその絶頂を迎える落葉松や白樺、その他の目の覚めるような新緑とくらべて、なんら優越するわけではないとも思っている。移ろい、流れていく自然のひとコマ一コマであるというよりも、区切りのつかない自然界全体の流れの中のことで、その季節の変化も、いつであっても少しづつ、密かに季節の衣装を変えていく。それを日々目にしている者にしたら、改めて暦と結び付けてみたり、確認することもせずにただ眺め、感じてきた。もっとも尋ねる側にしたら、そう聞かざるをえまいから、それも分かる。
きょうの写真は、昨年の5月26日に使った写真の再録で、風の当たらない側に花が咲きだしたのが分かる。ただしこれはコナシではなくて、ヤマナシの花だと思う。こちらの方が開花は早いが、早ければ5月の中旬には咲き出すこともある。ヤマナシの最盛期が過ぎるころに、コナシの花が咲き出す。山桜は里よりも約1か月遅れて5月中旬、クリン草は6月を迎えてからが見ごろとなるだろう。
だから、5月の中旬から6月の中旬あたりの1か月間くらいに来れば、お目当ての花の一種ぐらいは目にすることができる。そしてやがて、花の咲く舞台は主に、地上へと移っていく。