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2月26日、天候快晴。
午前8時過ぎ、みろく山の会は全員が、入笠山々頂― ヒルデエラ(大阿原)-テイ沢- 高座岩- 本家・御所平峠の予定で出発していくのをHALと見送った。
取水場の雪を掘り起こし、いつでも水を確保できるようにした。雪の下の、ドラム缶を半分に切っただけの貯水槽には、水量は心もとないながらも、水は凍らずに流れてきていた。管の埋設深度から考えても、その距離からしても、単なる水とは思えなかった。雪の谷を、懸命にここまで流れ続けて、ようやくにしてたどり着いた、そういう健気な水だった。
小屋にいたら林道を、腹の太った男がこっちへと歩いて来る姿が見えた。手ぶらだ。その人は、踏み跡を歩けば楽だろうにそういうことをしない。足を取られ、潜り、もたつきながらも、誰も歩いてない雪の上を来ようとする姿が氏らしかった。百姓山奥いつもいる氏だ。たまに連絡を取り合う仲で、〝同類″が牧場に上っていることを知って氏は来たのだろう。
聞けば、無謀にも軽トラックで来たという。無謀と言うのは車のことではなくて、氏の運転技術のことだが、それを口にすると目をむいて怒る。確かに北海道育ち、運転免許は牽引以外は大型特殊にいたるまで乗れない車はない。そういう人だが、古い轍をわずか2メートルばかり余計に延ばしただけで愛車は、弁天さま近くの雪の中でエンコしているという。
とりあえず部屋に落着き、まずはどちらの方が運転技術が上かという高尚な議論から入り、よもや話に花を咲かせた。普段は山の中の隠れ家で一人暮らしの身、そのせいかひとたび話し始めると、氏はその快感に酔ってしまうらしかった。いや、似ている、人のことは言えない。クク。
しばらくすると、車のことが気になるようだったので、様子を見に行った。これまでに、氏には何度も助けられている。当然喜んで、手をお貸しした。乗り手が交代したら、車はほどなく脱出した。
再び部屋にいると昼少しして、みろく隊が帰ってきた。北原新道から高座岩へは、雪の状態が良くなくて断念したという。それでまだ歩き足りない人がいるようで、一休みした後、どこかへまた案内することを約束した。(つづく)
3月、明るい光、そして残雪、早春の入笠・・・、 忘れられない思い出に。
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