久ぶりにNHK FMの「クラシック カフェ」を聞いてる。曲はモーツアルトの「弦楽五重奏曲」K515。仕事が始まれば牧場までの1時間少々の間、よく聞くともなく聞く番組である。今、朝の8時を少し回ったところだから、オオダオ(芝平峠)を過ぎた辺りを走行しているはずで、美ヶ原からの電波が入るようになり雑音が消えてほっとしているころだろう。この安堵感は、それだけでなく、悪路をようやく過ぎたという気持ちからも来る。
荊口を過ぎて赤坂狭あたりから電波の調子が悪くなり、ここで840ヘルツを850に切り替える。それでも芝平を過ぎてもまだ谷の中だから感度はよくない。芝平の集落を過ぎ県道が終わると舗装路ではなくなり、ここから峠までは、今時こんな悪路があってもよいのかというような山道になる。特に聞きたいと思うような曲が放送されているときは、だから雑音と難路のせいでやり場のない怒りを覚えることになる。稀には、曲名も知りたいと思うこともあるから、それが聞き取れなかったりするとさらに怒りは増幅する。そういう点では危険な山道であり、危険な番組でもある。
短気を起こすということで言えば、朝からこってりとしたオペラや、鋭い金管楽器などを聞かされるのもかなり気分の乱れる原因にはなる。ただ、この番組は午後にも放送されているそうだから、そういう曲が流れても文句は言えまい。山の中のガタガタ道を走る一介の牛守の気持ちなぞ知る由もなかろうから、そういうときは音楽なしで行くしかない。やはり、森の中で聞くにはピアノや、弦楽器の音がいい。豊満な体躯の女性の、森中が震えるような声は別の機会にしてもらえたら有難い。
今流れている曲はモーツアルトの「フルート協奏曲第1番」だが、こういう曲を聴きながら、木々の芽が萌え始めたばかりの森の中を行く朝などは、音楽と自然、そして人の心とが、深い平安の中でこれほどまでに親和するものかとしみじみと感じてしまう。
そういう日が、遠からずまたやってくる。