Photo by Ume氏(再録)
ここ二日ばかり、入笠牧場の宿泊施設を含め、観光について揺れる思いを書いてみた。そしたら、どういうキャンプ場や山小屋を理想とし、目指したいのかをもっと明確に述べてみろと、電話でだが言ってきた読者がいた。しかしそれを始めたら、とても1千字前後でまとめたり、詳述することなどできないと分かった。
現在のことは知らないが、夏になると奥多摩には驚くばかりの数のテント村が流域の河川敷に出現した。一方、四国よりも広い面積を持つアラスカのデナリ国立公園は、人の入れる区域を地図上で40くらいに分割し、それぞれの区域において入場者を一定数以上は入れず、区域内の森や川には道も橋も含めて、人工物というものは何もなかった。
どちらも極端な例だ。一方を受け入れる人は、もう一方に抵抗を覚えるかも知れない。混雑はあっても安全安心であればよしとする人は、人気の全くない森の中で、ヒグマに怯えながら夜を明かす方を選ぼうとするだろうか。逆に、森の中でひとしきら他人を避け、できるだけ文明から離れて過ごしてみたい人には、ヒグマよりも、街の雑踏がソックリ移ってきたようなキャンプ場の方に、尻込みをするだろう。
そこで入笠牧場の場合だが、できたらちょっぴりだけアラスカ寄りでいきたい。ツキノワグマだがクマもいるし、行動範囲を広げればアラスカで見たような森や川が、まだ残っている。
現代のような、利便性がまず最優先する社会では、人々は山の中でも、その暮らし方をあまり変えようとしない。結果、一言でいうなら、便利で手軽になった。快適になった。この傾向は今後も変わらないだろう。と言うことは、自然を愛好する人が増え、観光事業はさらに膨らむ。ますます人は自然の中にはびこり、跋扈し、逆にクマや鹿、その他の野生動物は追い詰められていく。
しかし、それに対する妙案などない。どこへ向かって進んでいくのか分からないわれわれの文明と変わらない。ただそれでも、今だけでなく、何代か先の未来の人々のことも配慮したような、そういう自然を考え、残していきたいという気持ちは、及ばずながらでも、まだ少しある。