梅の花が咲いた。「日の当たる枝」でなく、目の前の小さなコップの中の枝に一輪だけ。先日した梅の木の剪定で、ひと枝だけ捨てないでおいたものだ。折角咲いてくれたのに、しかし見るからに貧弱で、白い花の色もあまり鮮やかとは言えない。遠目には白く見える梅の花びらも、少し濁ったような白さが、この花の本来の色なのかも分からない。
同じことを桜の枝で試してみたことがあったが、その時には花は咲かなかった。玉川上水の紫橋の近くで、酔いにそそのかされでもしたか、夜陰に紛れて手折ったソメイヨシノだった。上水の流れはすでに往事を偲ぶよすがとてなかったが、そこが、あの人と愛人が入水した土手の近くだという意識はあった。
その後誰かに桜の花はそうしても駄目だと教えられたような気がする。梅と桜の花にどういう違いがあるのかは知らない。しかし確かに花は咲かなかったから、そうなのだろう。桜の方が枝ぶりも大きかったし、コップもビールのジョッキを使い、日当たりの良い窓辺に置いておいてやったから条件は悪くなかったはずだ。
東京では桜の開花があったと、昨夜のニュースで聞いた。毎年桜の咲くころ上京していたが、今年はもう行かないことにした。ここ伊那谷と、月遅れで入笠と、それで充分だろう。あっ、4月の中旬にもう一度常念岳の麓に行くから、そこでも花見となる。それでも、本命は入笠の山桜で、「天下一」とか言われる高遠城址の花ではない。
梅の花から桜の花に話がそれてしまったが、ともかく梅の花の方は咲き、炬燵の上でささやかな春を告げてくれている。きょうあたり、また花を開きそうな蕾が幾つかある。