■社会経済の潤滑油とも言えるカネを巡っては、官民とも組織内で不正会計や横領などの事件が付きものです。最近、民間で話題となっている事件を列挙すると次のようなものがあります。
2012年11月19日
明治機械、子会社で不適切会計の疑い・第三者委員会を設置して調査へ
明治機械は11月19日、子会社のラップマスターエスエフティ株式会社(所在地:東京都千代田区神田多町2-2-22 千代田ビル、代表:高橋 豊三郎)で返品されてきた商品を経理に正しく反映することが行われていなかった疑いが生じたことを発表した。同社では、子会社での不適切会計の疑いがでたことを受けて、元最高検察庁公判部長の大鶴基成・弁護士を委員長とする弁護士2名、公認会計士1名から構成された第三者調査委員会を設置することで実態調査に着手する。尚、明治機械では子会社における不適切会計が今期の業績に与える影響は「ない」とした上で子会社で会計処理上の不祥事が発覚したことについては「株主、投資家の皆様をはじめとする関係者の皆様には、多大なるご迷惑とご心配をおかけいたしますことを、深くお詫び申し上げます」と謝罪の弁を述べている。ラップマスターエスエフティは、半導体製造装置などの製造・販売および保守を手掛けている。
2012年12月28日
マツヤ、不適切会計の発覚で調査委員会を設置へ
JASDAQに上場している長野県を地盤として食品スーパーのマツヤ は12月28日、2012年2月期において、過大な未収入金(仕入割戻)計上を行うといった不適切会計が行われていたことを明らかにした。同社では、今回発覚した不適切会計の実態解明のため、同社の社外監査役と外部の弁護士、公認会計士の3名から構成される調査委員会を組織して調査を進めるとしている。同社では、不適切会計の中身が、不正行為によるものなのか、会計処理上のミスによるものなのかといった具体的な中身については説明は行っていない。
2013年2月18日
OUGホールディングス子会社での不適切会計・大証は監理銘柄(確認中)指定へ
OUGホールディングス は2月14日、連結子会社の株式会社ショクリューで不適切な会計処理が行われていたことが判ったことを発表した。これにより四半期報告書は法定提出期限の2月14日までに提出できないこととなり、大証は同社を「監理銘柄(確認中)」に指定した。子会社での不適切会計の具体的な中身について同社では「当社の連結子会社である株式会社ショクリューにおいて不適切な会計処理が行われていたことが判明し、当社では、独立役員である社外監査役(公認会計士、弁護士の有資格者)を委員に含む社内調査委員会を平成25年2月5日に設置し、事実関係の調査、再発防止策の検討等に取り組んでおります。これまでの調査で、同社の管理体制の不備に起因する不適切な会計処理により在庫商品の計上額に差異が生じ、利益ベースで55百万円の損失影響額が見込まれることが判明しております」と説明している。
2013年3月18日
椿本興業、約10年前から従業員による不正取引
椿本興業は3月18日、従業員による不正行為があったことを発表した。現在、内容の詳細、時期及び影響金額を含め調査中であるものの現時点において、同社の当期及び過年度の連結及び個別業績に影響を与える可能性があると判断したもの。実際には3月13 日に、同社の中日本営業本部に所属する従業員本人により、約10 年前から架空売上と架空仕入を伴う不正行為を行っていた旨の自白があったとされている。
2013年4月1日
アイレックス、不適切会計の疑い・調査委員会を組織して調査へ
システム開発業者のアイレックス は4月1日、売上高の計上について計上基準を逸脱し、適切な会計処理が行われていなかった可能性があることが監査役監査によって指摘されたことを発表した。同社では、実態調査のため親会社グループの社員6名(公認会計士2名を含む)で構成する調査委員会を設置することで実態解明を行う予定としている。
2013年4月11日
大塚商会、子会社社員が架空取引・影響額は約11億円
大塚商会は4月11日、子会社のネットプランの従業員が架空取引を行っていたことを発表した。同社ではこの架空取引の具体的な中身については、 「見積書、見積明細書、工事完了届等の信憑を偽造して架空取引を捏造し、関係する事業者を欺き、更に注文書や契約書を偽造して、巧妙に取り計らって架空売上及び回収偽造を行ってきたことが調査を進めた結果判明し、本人も架空取引を認めました」と述べている」と説明している。尚、業績への影響額については、2013年第1四半期において、売掛金の回収等に約10億6600万円の影響が及ぶ可能性があるとしている。ただし、通期予想に対する影響はない模様。
■このように、企業不祥事件の場合には、直ちに社内外のメンバーによる調査委員会を立ち上げて真相究明、責任の所在、再発防止策について調査検討するのが通例です。これらの事件のうち、椿本興業の場合を見てみましょう。
上記のように同社は3月18日に不祥事についてプレス発表しました。
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http://www.tsubaki.co.jp/ir/pdf/release/13/13031801.pdf
平成25年3月18日
各 位
会社名 椿本興業株式会社
代表者名 取締役社長 椿本哲也
(コード番号 8052 東証・大証第1 部)
問合せ先 取締役 執行役員 大河原 治
(TEL. 06-4795-8805 )
当社従業員による不正行為について
この度、誠に遺憾ではありますが、当社の中日本営業本部において従業員による不正行為が行われていたことが判明いたしました。投資家の皆様及び市場関係者の皆様には多大なるご迷惑とご心配をお掛けすることになりますことを、ここに深くお詫び申し上げます。
現在、内容の詳細、時期及び影響金額を含め、真相究明のため、鋭意調査中でありますが、現時点におきまして、当社の当期及び過年度の連結及び個別業績に影響を与える可能性があると判断したため、取り急ぎ下記の通りお知らせいたします。
記
1. 不正行為の判明した経緯と概要
平成25 年3月13 日に、当社の中日本営業本部に所属する従業員本人より、約10 年前から架空取引を行っていた旨の自白があり、当社内において直ちに調査を開始いたしました。
その結果、従業員本人により、架空売上と架空仕入を伴う不正行為が行われていたことが判明いたしました。
2. 今後の対応
この度判明した不正行為による当期及び過年度の連結及び個別業績への影響額につきましては、鋭意調査中であり、当該影響額につきましては把握出来次第、速やかに開示いたします。
また、当社が過去に提出いたしました有価証券報告書及び四半期報告書の訂正報告書につきましては、本件調査によりその数値が明らかになった段階で、速やかに近畿財務局に提出する予定であります。また、当期及び過年度の決算短信及び四半期決算短信の訂正につきましても、同様に、調査によりその数値が明らかになった段階で速やかに開示する予定であります。
なお、社内調査に関する公正中立な第三者による検証及び独自の調査を行うべく、社外調査委員会についても設置を検討しているところであります。
今回の当社従業員による不正行為につきましては、株主をはじめ投資家の皆様、お取引先の皆様及び市場関係者の皆様には多大なるご迷惑とご心配をお掛けする結果となり、重ねて深くお詫び申し上げます。
今後は、皆様からの信頼を取り戻すべく、事業活動の健全化に向けた社内業務全般の徹底的な見直しを最重要の施策と位置付け、取り組んでまいります。
以 上
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その1週間後の3月25日に椿本興業が次のプレス発表をしました。
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平成25 年3 月25 日
各 位
会社名 椿本興業株式会社
代表者名 取締役社長 椿本 哲也
(コード番号 8052 東証・大証第1 部)
問合せ先 取締役 執行役員 大河原 治
(TEL. 06-4795-8805 )
第三者委員会設置に関するお知らせ
平成25 年3 月18 日に「当社従業員による不正行為について」で公表いたしましたとおり、この度、当社の中日本営業本部において従業員による不正行為が行われていたことが判明したことから、当社では既に社内調査委員会を設置し、調査を開始しておりますが、さらに本日、平成25 年3 月25 日開催の取締役会において、下記の通り第三者委員会を設置することを決議いたしましたので、お知らせいたします。
記
1. 第三者委員会設置の趣旨
当社の従業員による不正行為(本件不正行為)が行われていたことの調査に当たり、社内調査委員会の調査に加え、本件不正行為に関する事実の認定、発生原因や責任の所在等の究明、再発防止策に関する提言が必要であると判断し、当社と利害関係を有しない外部の専門家から構成される第三者委員会を設置することといたしました。
2.第三者委員会の目的
(1) 本件不正行為に関する事実の認定、発生原因及び問題点の調査分析を行う。
(2) 本件不正行為の発生に関する内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点の有無の調査分析を行う。
(3) 上記(1)(2)を踏まえ、再発防止策の提言を行う。
3.第三者委員会の構成(敬称略)
委員長 三浦州夫 弁護士 河本・三浦法律事務所
委 員 渡辺 徹 弁護士 北浜法律事務所・外国法共同事業
委 員 安原 徹 公認会計士 ペガサス監査法人・安原公認会計士事務所
なお、第三者委員会の委員選定に際しましては、日本弁護士連合会による「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン(平成22 年7 月15 日公表)」に沿って委員の選定を行っております。
4.調査のスケジュール
平成25 年3 月25 日(本日)第三者委員会設置第三者委員会においては、厳正かつ徹底した調査の終了後、当社に対して報告書を提出する予定です。今後の予定については、判明次第、速やかに開示いたします。
5.今後の対応について
当該事象が当社の業績に及ぼす影響につきましては、現在のところ明らかになっておりませんが、把握出来次第速やかに開示いたします。
当社は、第三者委員会による調査に対して全面的に協力し、早急に調査を進めてまいります。
また、第三者委員会の調査の結果、明らかとなった事実関係等につきましては、速やかな適時開示を行ってまいります。
株主をはじめ投資家の皆様、お取引先の皆様及び市場関係者の皆様には多大なるご迷惑とご心配をお掛けいたしますことを、深くお詫び申し上げます。
以 上
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■株主をはじめ、投資家に対して速やかに対応措置をとっていることを示さないと、企業に対する投資家の不信はもとより、会社の社会的イメージダウンを少しでも深刻にならないように企業の場合、迅速に対応措置をとっていることが分かります。
この椿本興業の企業不祥事は、その後、取引先にも影響を与えつつあるようです。
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2013年3月26日
日本コンベヤ、 椿本興業の従業員による不正取引に関与
日本コンベヤは3月26日、3月18日付けで椿本興業が公表した椿本興業 従業員による不正取引の中に、同社との取引が含まれていることを明らかにした。
椿本興業の従業員による不正取引とは、椿本興業の中日本営業本部の従業員が、約10年前から架空取引を繰り返していたというもので、当該従業員による自己申告によりこの事実が明らかになったというものとなる。椿本興業では現在、第三者調査委員会を組織してその実態の調査を進めている。
日本コンベヤ では、3月26日付けで 、3 月18 日付で開示された椿本興業株式会社の「当社従業員による不正行為について」に関して、「不正行為が疑われる取引の一部に、当社との取引が含まれていることが判明いたしました。当該取引が不正取引であるか否か、当該取引が当期及び過年度の業績へ及ぼす影響などにつきまして、現在、鋭意、調査中であります。調査結果が判明次第、開示いたします」と述べている。
http://www.conveyor.co.jp/nc20130326.pdf
平成25 年3 月26 日
各 位
会社名:日本コンベヤ株式会社
代表者名:代表取締役社長 西 尾 佳 純
(コード番号 6375)
問合せ先:取締役管理本部長 石 田 稔 夫
(TEL:072-872-2151)
椿本興業株式会社との取引について
この度、平成25 年3 月18 日付で開示された椿本興業株式会社の「当社従業員による不正行為について」に関して、不正行為が疑われる取引の一部に、当社との取引が含まれていることが判明いたしました。
当該取引が不正取引であるか否か、当該取引が当期及び過年度の業績へ及ぼす影響などにつきまして、現在、鋭意、調査中であります。調査結果が判明次第、開示いたします。
以 上
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■こうして取引先を撒き込んで、大変な波紋を業界に投げかけていますが、椿本興業では第3者委員会を組織したという発表の後は、その後の調査の進捗は発表していません。いつごろ第3者委員会の調査結果が報告書として提出されるのかが注目されますが、明治機械の場合には、第3者委員会の設置から約3カ月後に調査報告書が出されています。これと同様な場合、椿本興業の不祥事に関する報告書は5月中旬頃出されることになります。
明治機械の不祥事では、調査報告は次のようにプレス発表されました。
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平成 25 年2月15 日
会社名 明治機械株式会社
代表者名 代表取締役社長 高橋 豊三郎
第三者委員会の調査報告書受領に関するお知らせ
当社は、平成24 年11 月19 日付「第三者委員会の設置に関するお知らせ」にて公表しましたとおり、当社の連結子会社であるラップマスターエスエフティ株式会社の不適切な会計処理の疑義に係る調査に当たり、不正の事実関係の有無の把握、又、再発防止や適切な会計処理及び責任所在の究明に関する提言等が必要であると判断し、当社と利害関係を有しない外部の専門家から構成される第三者委員会を設置して調査を進めてまいりました。
2月14日付で、第三者委員会より調査報告書を受領いたしましたので、その結果につき、当該調査報告書(全文)を別添にてご報告いたします。
当社は、第三者委員会の評価及び提言を真摯に受け止め、過年度決算の訂正を行う予定であり、過年度分の訂正有価証券報告書等の提出時期につきましては、本日受領した第三者委員会の調査結果を踏まえ、会計監査人による監査を経て、速やかに提出することといたします。
当社及び当社グループといたしましては、今回の調査結果を真摯に受け止め、事実解明に基づいた適正な会計処理への是正や再発防止に取り組むと共に、株主様、投資家様をはじめ関係者の皆様からの信頼回復に努めてまいる所存であります。また、それらの是正や再発防止等の内容が確定次第、速やかに開示させていただきます。
株主および取引先の皆様をはじめ関係者の皆様には多大なるご心配とご迷惑をおかけいたしましたことを、改めて深くお詫び申し上げます。
別添資料:「調査報告書」
本報告書では、社外の取引先および社内外の個人名に関しては、個人情報等を考慮し匿名としております。
平成25 年2 月14 日 明治機械株式会社 第三者調査委員会
http://post.tokyoipo.com/visitor/search_by_brand/infofile.php?brand=1787&info=842524
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■これに対して安中市の不祥事であるタゴ51億円事件の場合には、安中市は庁内の職員で調査委員会を構成したため、その作業にはベラボーに時間が費やされ、成果品である報告書の内容たるや、全く酷いものでした。最初から真相解明、責任明確化、再発防止策の構築に向けた意欲が失せていたからです。タゴ事件の関係者が安中市役所にあまりにも沢山いたため、関係者が調査委員会に事件の全容解明をさせるはずがない為でした。中途半端に事件の幕引きをしたため、今や事件関係者が市のトップになってしまっており、もうすぐタゴ事件発覚から18周年を迎えようとしていますが、現在の市役所は、事件当時の状態にあと戻りしてしまっていると言えそうです。
椿本興業の企業不祥事については、今後とも動きを見守りたいと思います。
【ひらく会情報部】
※参考資料
【企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン】
2010年7月15日 改訂2010年12月17日 日本弁護士連合会
企業や官公庁、地方自治体、独立行政法人あるいは大学、病院等の法人組織(以下、「企業等」という)において、犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等(以下、「不祥事」という)が発生した場合、最近では、外部者を交えた委員会を設けて調査を依頼するケースが増えています。
日弁連では、そのような委員会のうち、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会(以下、「第三者委員会」という)を対象として、本ガイドラインを策定しました。
これは、第三者委員会が設置される場合、弁護士がその主要なメンバーとなるのが通例であることから、第三者委員会の活動がより一層社会の期待に応え得るものとなるように、当連合会が自主的なガイドラインとして定めたものです。
本ガイドラインは第三者委員会があまねく遵守すべき規範を定めたものではなく、現時点でのベスト・プラクティスを取りまとめたものですが、ここに1つのモデルが示されることで第三者委員会に対する社会の理解が一層深まることを願うものです。
また、今後第三者委員会の実務に携わる弁護士には、各種のステークホルダーの期待に応えつつ、さらなるベスト・プラクティスの構築に尽力されることを期待します
「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」の策定にあたって
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/100715_2.pdf
2010年 7月15日 改訂 2010年12月17日 日本弁護士連合会
企業や官公庁、地方自治体、独立行政法人あるいは大学、病院等の法人組織(以下、「企業等」という)において、犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等(以下、「不祥事」という)が発生した場合、当該企業等の経営者ないし代表者(以下、「経営者等」という)は、担当役員や従業員等に対し内々の調査を命ずるのが、かつては一般的だった。しかし、こうした経営者等自身による、経営者等のための内部調査では、調査の客観性への疑念を払拭できないため、不祥事によって失墜してしまった社会的信頼を回復することは到底できない。そのため、最近では、外部者を交えた委員会を設けて調査を依頼するケースが増え始めている。
この種の委員会には、大きく分けて2つのタイプがある。ひとつは、企業等が弁護士に対し内部調査への参加を依頼することによって、調査の精度や信憑性を高めようとするものである(以下、「内部調査委員会」という)。確かに、適法・不適法の判断能力や事実関係の調査能力に長けた弁護士が参加することは、内部調査の信頼性を飛躍的に向上させることになり、企業等の信頼回復につながる。その意味で、こうした活動に従事する弁護士の社会的使命は、何ら否定されるべきものではない。
しかし、企業等の活動の適正化に対する社会的要請が高まるにつれて、この種の調査では、株主、投資家、消費者、取引先、従業員、債権者、地域住民などといったすべてのステーク・ホルダーや、これらを代弁するメディア等に対する説明責任を果たすことは困難となりつつある。また、そうしたステーク・ホルダーに代わって企業等を監督・監視する立場にある行政官庁や自主規制機関もまた、独立性の高いより説得力のある調査を求め始めている。そこで、注目されるようになったのが、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会(以下、「第三者委員会」という)である。すなわち、経営者等自身のためではなく、すべてのステーク・ホルダーのために調査を実施し、それを対外公表することで、最終的には企業等の信頼と持続可能性を回復することを目的とするのが、この第三者委員会の使命である。
どちらのタイプの委員会を設けるかは、基本的には経営者等の判断に委ねられる。不祥事の 規模や、社会的影響の度合いによっては、内部調査委員会だけで目的を達成できる場合もある。しかし、例えば、マスコミ等を通じて不祥事が大々的に報じられたり、上場廃止の危機に瀕したり、株価に悪影響が出たり、あるいは、ブランド・イメージが低下し良い人材を採用できなくなったり、消費者による買い控えが起こったりするなど、具体的な2ダメージが生じてしまった企業等では、第三者委員会を設けることが不可避となりつつある。また、最近では、公務員が不祥事を起こした場合に、国民に対する説明責任を果たす手段として、官公庁が第三者委員会を設置するケースも増えている。
第三者委員会が設置される場合、弁護士がその主要なメンバーとなるのが通例である。
しかし、第三者委員会の仕事は、真の依頼者が名目上の依頼者の背後にあるステーク・ホルダーであることや、標準的な監査手法であるリスク・アプローチに基づいて不祥事の背後にあるリスクを分析する必要があることなどから、従来の弁護士業務と異質な面も多く、担当する弁護士が不慣れなことと相まって、調査の手法がまちまちになっているのが現状である。そのため、企業等の側から、言われ無き反発を受けたり、逆に、信憑性の高い報告書を期待していた外部のステーク・ホルダーや監督官庁などから、失望と叱責を受ける場合も見受けられるようになっている。
そこで、日本弁護士連合会では、今後、第三者委員会の活動がより一層社会の期待に応え得るものとなるように、自主的なガイドラインとして、「第三者委員会ガイドライン」を策定することにした。依頼企業等からの独立性を貫き断固たる姿勢をもって厳正な調査を実施するための「盾」として、本ガイドラインが活用されることが望まれる。
もちろん、本ガイドラインは第三者委員会があまねく遵守すべき規範を定めたものではなく、あくまでも現時点のベスト・プラクティスを取りまとめたものである。しかし、ここに1つのモデルが示されることで第三者委員会に対する社会の理解が深まれば、今後は、企業等の側からも、ステーク・ホルダー全体の意向を汲んで、本ガイドラインに準拠した調査が求められるようになることが期待される。また、監督官庁をはじめ自主規制機関等が、不祥事を起こした企業等に対し第三者委員会による調査を要求する場合、公的機関等の側からも、本ガイドラインに依拠することが推奨されるようになるものと予想される。
これまでも、監督官庁による業務改善命令の一環として第三者委員会の設置が命じられる場合も見受けられたが、将来的には、単に第三者委員会の設置を命ずるにとどまらず、本ガイドラインに依拠した第三者委員会の調査を求めるようお願いしたい。
いずれにせよ、今後第三者委員会の実務に携わる弁護士には、裁判を中心に据えた伝統的な弁護、代理業務とは異なり、各種のステーク・ホルダーの期待に応えるという新しいタイプの仕事であることを十分理解し、さらなるベスト・プラクティスの構築に尽力されることを期待したい。
<企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン>
2010年 7月15日 改訂 2010年12月17日 本弁護士連合会
第1部 基本原則
本ガイドラインが対象とする第三者委員会(以下、「第三者委員会」という)とは、企業や組織(以下、「企業等」という)において、犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等(以下、「不祥事」という)が発生した場合及び発生が疑われる場合において、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会である。
第三者委員会は、すべてのステークホルダーのために調査を実施し、その結果をステークホルダーに公表することで、最終的には企業等の信頼と持続可能性を回復することを目的とする。
第1.第三者委員会の活動
1.不祥事に関連する事実の調査、認定、評価
第三者委員会は、企業等において、不祥事が発生した場合において、調査を実施し、事
実認定を行い、これを評価して原因を分析する。
(1)調査対象とする事実(調査スコープ)
第三者委員会の調査対象は、第一次的には不祥事を構成する事実関係であるが、それに
止まらず、不祥事の経緯、動機、背景及び類似案件の存否、さらに当該不祥事を生じさせ
た内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点、企業風土等にも及ぶ。
(2)事実認定
調査に基づく事実認定の権限は第三者委員会のみに属する。
第三者委員会は、証拠に基づいた客観的な事実認定を行う。
(3)事実の評価、原因分析
第三者委員会は、認定された事実の評価を行い、不祥事の原因を分析する。
事実の評価と原因分析は、法的責任の観点に限定されず、自主規制機関の規則やガイドライン、企業の社会的責任(CSR)、企業倫理等の観点から行われる1。
2.説明責任
第三者委員会は、不祥事を起こした企業等が、企業の社会的責任(CSR)の観点から、ステークホルダーに対する説明責任を果たす目的で設置する委員会である。
3.提言
第三者委員会は、調査結果に基づいて、再発防止策等の提言を行う。
第2.第三者委員会の独立性、中立性
第三者委員会は、依頼の形式にかかわらず、企業等から独立した立場で、企業等のステークホルダーのために、中立・公正で客観的な調査を行う。
第3.企業等の協力
第三者委員会は、その任務を果たすため、企業等に対して、調査に対する全面的な協力のための具体的対応を求めるものとし、企業等は、第三者委員会の調査に全面的に協力する2。
第2部 指針
第1.第三者委員会の活動についての指針
1.不祥事に関連する事実の調査、認定、評価についての指針
(1)調査スコープ等に関する指針
①第三者委員会は、企業等と協議の上、調査対象とする事実の範囲(調査スコープ)を決定する3。調査スコープは、第三者委員会設置の目的を達成するために必要十分なものでなければならない。
②第三者委員会は、企業等と協議の上、調査手法を決定する。調査手法は、第三者委員会設置の目的を達成するために必要十分なものでなければならない。
(2)事実認定に関する指針
①第三者委員会は、各種証拠を十分に吟味して、自由心証により事実認定を行う。
②第三者委員会は、不祥事の実態を明らかにするために、法律上の証明による厳格な事実認定に止まらず、疑いの程度を明示した灰色認定や疫学的認定を行うことができる4。
(3)評価、原因分析に関する指針
①第三者委員会は、法的評価のみにとらわれることなく5、自主規制機関の規則やガイドライン等も参考にしつつ、ステークホルダーの視点に立った事実評価、原因分析を行う。
②第三者委員会は、不祥事に関する事実の認定、評価と、企業等の内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題点、企業風土にかかわる状況の認定、評価を総合的に考慮して、不祥事の原因分析を行う。
2.説明責任についての指針(調査報告書の開示に関する指針)
第三者委員会は、受任に際して、企業等と、調査結果(調査報告書)のステークホルダーへの開示に関連して、下記の事項につき定めるものとする。
①企業等は、第三者委員会から提出された調査報告書を、原則として、遅滞なく、不祥事に関係するステークホルダーに対して開示すること6。
②企業等は、第三者委員会の設置にあたり、調査スコープ、開示先となるステークホルダーの範囲、調査結果を開示する時期7を開示すること。③企業等が調査報告書の全部又は一部を開示しない場合には、企業等はその理由を開示すること。また、全部又は一部を非公表とする理由は、公的機関による捜査・調査に支障を与える可能性、関係者のプライバシー、営業秘密の保護等、具体的なものでなければならないこと8。
3.提言についての指針
第三者委員会は、提言を行うに際しては、企業等が実行する具体的な施策の骨格となるべき「基本的な考え方」を示す9。
第2.第三者委員会の独立性、中立性についての指針
1.起案権の専属
調査報告書の起案権は第三者委員会に専属する。
2.調査報告書の記載内容
第三者委員会は、調査により判明した事実とその評価を、企業等の現在の経営陣に不利となる場合であっても、調査報告書に記載する。
3.調査報告書の事前非開示
第三者委員会は、調査報告書提出前に、その全部又は一部を企業等に開示しない。
4.資料等の処分権
第三者委員会が調査の過程で収集した資料等については、原則として、第三者委員会が処分権を専有する。
5.利害関係
企業等と利害関係を有する者10は、委員に就任することができない。
第3.企業等の協力についての指針
1.企業等に対する要求事項
第三者委員会は、受任に際して、企業等に下記の事項を求めるものとする。
①企業等が、第三者委員会に対して、企業等が所有するあらゆる資料、情報、社員へのアクセスを保障すること。
②企業等が、従業員等に対して、第三者委員会による調査に対する優先的な協力を業務として命令すること。
③企業等は、第三者委員会の求めがある場合には、第三者委員会の調査を補助するために適切な人数の従業員等による事務局を設置すること。当該事務局は第三者委員会に直属するものとし、事務局担当者と企業等の間で、厳格な情報隔壁を設けること。
2.協力が得られない場合の対応
企業等による十分な協力を得られない場合や調査に対する妨害行為があった場合には、第三者委員会は、その状況を調査報告書に記載することができる。
第4.公的機関とのコミュニケーションに関する指針
第三者委員会は、調査の過程において必要と考えられる場合には、捜査機関、監督官庁、
自主規制機関などの公的機関と、適切なコミュニケーションを行うことができる11。
第5.委員等についての指針
1.委員及び調査担当弁護士
(1)委員の数
第三者委員会の委員数は3名以上を原則とする。
(2)委員の適格性
第三者委員会の委員となる弁護士は、当該事案に関連する法令の素養があり、内部統制、コンプライアンス、ガバナンス等、企業組織論に精通した者でなければならない
第三者委員会の委員には、事案の性質により、学識経験者、ジャーナリスト、公認会計士などの有識者が委員として加わることが望ましい場合も多い。この場合、委員である弁護士は、これらの有識者と協力して、多様な視点で調査を行う。
(3)調査担当弁護士
第三者委員会は、調査担当弁護士を選任できる。調査担当弁護士は、第三者委員会に直属して調査活動を行う。
調査担当弁護士は、法曹の基本的能力である事情聴取能力、証拠評価能力、事実認定能力等を十分に備えた者でなければならない。
2.調査を担当する専門家
第三者委員会は、事案の性質により、公認会計士、税理士、デジタル調査の専門家等の各種専門家を選任できる。これらの専門家は、第三者委員会に直属して調査活動を行う12。
第6.その他
1.調査の手法など
第三者委員会は、次に例示する各種の手法等を用いて、事実をより正確、多角的にとらえるための努力を尽くさなければならない。
(例示)
①関係者に対するヒアリング
委員及び調査担当弁護士は、関係者に対するヒアリングが基本的かつ必要不可欠な調査手法であることを認識し、十分なヒアリングを実施すべきである。
②書証の検証
関係する文書を検証することは必要不可欠な調査手法であり、あるべき文書が存在するか否か、存在しない場合はその理由について検証する必要がある。なお、検証すべき書類は電子データで保存された文書も対象となる。その際には下記⑦(デジタル調査)に留意する必要がある。
③証拠保全
第三者委員会は、調査開始に当たって、調査対象となる証拠を保全し、証拠の散逸、隠滅を防ぐ手立てを講じるべきである。企業等は、証拠の破棄、隠匿等に対する懲戒処分等を明示すべきである。
④統制環境等の調査
統制環境、コンプライアンスに対する意識、ガバナンスの状況などを知るためには社員を対象としたアンケート調査が有益なことが多いので、第三者委員会はこの有用性を認識する必要がある。
⑤自主申告者に対する処置
企業等は、第三者委員会に対する事案に関する従業員等の自主的な申告を促進する対応13をとることが望ましい。
⑥第三者委員会専用のホットライン
第三者委員会は、必要に応じて、第三者委員会へのホットラインを設置することが望ましい。
⑦デジタル調査
第三者委員会は、デジタル調査の必要性を認識し、必要に応じてデジタル調査の専門家に調査への参加を求めるべきである。
2.報酬
弁護士である第三者委員会の委員及び調査担当弁護士に対する報酬は、時間制を原則とする14。
第三者委員会は、企業等に対して、その任務を全うするためには相応の人数の専門家が相当程度の時間を費やす調査が必要であり、それに応じた費用が発生することを、事前に説明しなければならない。
3.辞任
委員は、第三者委員会に求められる任務を全うできない状況に至った場合、辞任することができる。
4.文書化
第三者委員会は、第三者委員会の設置にあたって、企業等との間で、本ガイドラインに沿った事項を確認する文書を取り交わすものとする。
5.本ガイドラインの性質
本ガイドラインは、第三者委員会の目的を達成するために必要と考えられる事項について、現時点におけるベスト・プラクティスを示したものであり、日本弁護士連合会の会員を拘束するものではない。
なお、本ガイドラインの全部又は一部が、適宜、内部調査委員会に準用されることも期待される。
以 上
〔注〕
1 第三者委員会は関係者の法的責任追及を直接の目的にする委員会ではない。関係者の法的責任追及を目的とする委員会とは別組織とすべき場合が多いであろう。
2 第三者委員会の調査は、法的な強制力をもたない任意調査であるため、企業等の全面的な協力が不可欠である。
3 第三者委員会は、その判断により、必要に応じて、調査スコープを拡大、変更等を行うことができる。この場合には、調査報告書でその経緯を説明すべきである。
4 この場合には、その影響にも十分配慮する。
5 なお、有価証券報告書の虚偽記載が問題になっている事案など、法令違反の存否自体が最も重要な調査対象事実である場合もある。
6 開示先となるステークホルダーの範囲は、ケース・バイ・ケースで判断される。たとえば、上場企業による資本市場の信頼を害する不祥事(有価証券報告書虚偽記載、業務に関連するインサイダー取引等)については、資本市場がステークホルダーといえるので、記者発表、ホームページなどによる全面開示が原則となろう。不特定又は多数の消費者に関わる不祥事(商品の安全性や表示に関する事案)も同様であろう。他方、不祥事の性質によっては、開示先の範囲や開示方法は異なりうる。
7 第三者委員会の調査期間中は、不祥事を起こした企業等が、説明責任を果たす時間的猶予を得ることができる。したがって、企業等は、第三者委員会が予め設定した調査期間をステークホルダーに開示し、説明責任を果たすべき期限を明示することが必要となる。ただし、調査の過程では、設定した調査期間内に調査を終了し、調査結果を開示することが困難になることもある。そのような場合に、設定した調査期間内に調査を終了することに固執し、不十分な調査のまま調査を終了すべきではなく、合理的な調査期間を再設定し、それをステークホルダーに開示して理解を求めつつ、なすべき調査を遂げるべきである。
8 第三者委員会は、必要に応じて、調査報告書(原文)とは別に開示版の調査報告書を作成できる。非開示部分の決定は、企業等の意見を聴取して、第三者委員会が決定する。
9 具体的施策を提言することが可能な場合は、これを示すことができる。
10 顧問弁護士は、「利害関係を有する者」に該当する。企業等の業務を受任したことがある弁護士や社外役員については、直ちに「利害関係を有する者」に該当するものではなく、ケース・バイ・ケースで判断されることになろう。なお、調査報告書には、委員の企業等との関係性を記載して、ステークホルダーによる評価の対象とすべきであろう。
11 たとえば、捜査、調査、審査などの対象者、関係者等を第三者委員会がヒアリングしようとする場合、第三者委員会が捜査機関、調査機関、自主規制機関などと適切なコミュニケーションをとることで、第三者委員会による調査の趣旨の理解を得て必要なヒアリングを可能にすると同時に、第三者委員会のヒアリングが捜査、調査、審査などに支障を及ぼさないように配慮することなどが考えられる。
12 第三者委員会は、これらの専門家が企業等と直接の契約関係に立つ場合においても、当該契約において、調査結果の報告等を第三者委員会のみに対して行うことの明記を求めるべきである。
13 たとえば、行為者が積極的に自主申告して第三者委員会の調査に協力した場合の懲戒処分の減免など。
14 委員の著名性を利用する「ハンコ代」的な報酬は不適切な場合が多い。成功報酬型の報酬体系も、企業等が期待する調査結果を導こうとする動機につながりうるので、不適切な場合が多い。