温泉クンの旅日記

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別府・鉄輪温泉連泊②

2007-07-15 | 温泉エッセイ
  < 別府・鉄輪温泉連泊② >

 ②おはぎの店

 さて、スムーズに眠るためにはすこし呑みたい。
 眠気に耐えに耐えて、横浜から別府まで長時間運転してきたわけであるから、
シラフでは眠りにくい。

 宿の周辺をぶらぶら歩いてみたがこれといった店もなく、これはといった店は
時間が中途半端で開いていなかった。
 宿の目の前にある、ど派手な看板の小さな店「食堂 勝太郎」に決めた。
 よく見れば道に面して小さなショーウィンドウがあり、おはぎとか弁当がならん
でいた。



 はいっていくと、奥にいくと厨房のほうのスペースが広くなる斜めになったカウ
ンター席と、小上がりの座敷にテーブルが大小ふたつで、十名足らずでいっぱいの
店である。カウンター席の後ろが厨房になっている。女性がふたりいるようだ。
 カウンターの上にはアルミらしいバットが十段ほど重ねられていた。どうやら、
おはぎ関係のものらしい。
 この店は大衆演劇の劇場兼温泉ホテルに隣接しているから、その関係の客も多そ
うだ。


 
 わたしは小上がりのテレビの前の小さい座敷に座った。カウンター席にいた、
浅野ゆう子似のお姐さんが、なんにするの、という眼つきでわたしをみつめた。
「焼酎、あるの?」
 わたしも眼で答えようと思ったがまだまだ修行が足らないようだ。

「麦? 芋?」
「芋、がいいな」
「黒霧島でいい? 呑み方はお湯? そのまま?」
 テレビの下のガラスケースの冷蔵庫からペットボトルのカップ焼酎を取り出し
て、わたしの前においた。
「氷と水で」
 大きめのグラスに氷と水をいれて卓のうえにのせてくれる。あとは自分でやって
ね、と眼が言った。

 カウンターに戻ると、厨房のおばさんに話しかけている。
「・・・ちゃん、埼玉のナガシズにいて一ヶ月ぐらいの公演らしいよ」
「そうなんだ、ナガシズねえ・・・どんなところかねえ」
 え、埼玉のナガシズ・・・? 聞きなれた埼玉と、聞いたことのないナガシズの
地名。・・・そうか、あれだ。閃いた。



「あのう」恐る恐る声をかけた。「それって、サンズイが横にあるのでは・・・
たぶん長瀞(ナガトロ)だと思うのですが」
「へえー、これでナガトロって読むんだ。 お兄さん、あっちの方からなの」
 これ、店のサービス、と大根の酢漬けを小皿で持ってきて、浅野ゆう子が突っ込
んでくる。

「横浜です」
「へぇー横浜からなにしに来たんだい」
「えーと、温泉が好きなもんですから」
 いいご身分だねえ、彼女の眼がそういっていた。すこし伏し目になるわたし。
「どこ泊まってるの、ああ陽光荘。目の前の」

「・・・そこは、ナガトロはどんなとこなんだい?」
「観光地です。川くだりなんかで有名なんですけど」
「そーなんだ。ありがとね」
 あ、いらっしゃい。店に客がはいってきて会話がバチッと中断する。おはぎを
予約した客らしく用意した袋を受け取り、お金を支払っている。
 すると、弁当の客とかおはぎの客が立て続けに入ってきだした。会話を聞いて
いると、弁当の客は別府港から出港する関西への船で食べるようである。



 カップの焼酎をグラスにたしながら、なにか注文しないと、と悩む。壁に貼って
あるメニューにはつまみになるものがみつからない。
「だご汁、ってできるの」
「ごめん、終わっちゃった」
「ふーん、じゃあ、お稲荷さんなんてある」
「ちょっと待って、あるある。はい、これね」
 パックに小さめな稲荷が五個ぐらいはいっていた。二個ぐらいつまんで宿にもっ
て帰ろう。冷蔵庫からお代わりの黒霧島のペットカップを自分でとりだすと「悪
い、氷と水、このグラスに入れて」と頼んだ。

 あとは自分でやるからさ。この店は、なにかしらアットホームな店であるし、
実家に帰ったように居心地がいいのだ。
 この日の勘定は千円でお釣りがきた。安い。

 そうして、毎夕ここに五時過ぎに現れては黒霧島を二本呑んで、おにぎりを持ち
帰ったり、幕の内弁当を宿に持ち帰ったりするのである。

  - ③へ続く -

  →別府・鉄輪温泉連泊①はこちら

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