温泉クンの旅日記

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志摩の国温泉(3)

2023-03-19 | 温泉エッセイ
  <志摩の国温泉(3)>

「えっ!」

 

 巻き寿司と厚い出汁巻き玉子の皿も運ばれて、すっと卓に載せられ驚いた。
 お凌ぎ”なのだろうか、まったく献立にはなかったものである。
 まいったな。右端の器を開けてみると、香の物だったので少しホッとした。

 

 揚物のフライは、ひとつは鮟鱇だと覚えているがもうひとつは忘れてしまった。

 

 隣の個室はどうやらゴルフ旅のビジネスマン二人組で、壁の上が抜けているので筒抜けでお喋りが聞こえてくる。ゴルフの話、仕事の失敗談、成功談、美食の話と続き、苦労話と最近の家族の話に着地している。
 なんか湿っぽくなってきたので、猫のように耳をパタッと伏せることにした。

 

 昼を軽くしておいたおかげだろう。ようやく辿りついた食事は、海鮮しらす茶漬け、茶漬け出汁、香の物。“しらす”は公言していないが大好物、なんとか美味しく食べきった。

 

 本日の締めのデザートの盛り合わせ。爽やかな果物とよく冷えたアイスが、なんとも口なおしにぴったりだった。

 よし、夕食のミッション無事に完了。
 勇んで個室を出ようとするわたしに、
「こちらはお夜食になりますので、お部屋にお持ち帰りください」

 

「ええーっ!」。(うそっ。もう、喰えないって!)
「残されてもかまいませんので」

 夜食をもったまま温泉にいくわけにもいかないので、とりあえず部屋に置きにいった。身軽になったところで、まずは貸切風呂だ。
 フロント横にいくと、幸い入っていない「陶器風呂 陶海の湯」の札があった。

 

 

 少し小さめの陶器の丸い風呂で、仲のいい、しかも太ってない二人で入るにはぴったりぐらいだろう。
 少しでも夜食に手をつけようと思い、内風呂にもいくことにした。

 志摩はわりと自家源泉の宿は数少ない土地だ。
 平成16年(2004年)開湯の「志摩の国温泉 朝寝坊の湯」は、宿の敷地内より毎日100tも湧き出るという。
 ほのかな硫黄の匂いと薄茶色のお湯が特徴だというが、匂いはわたしの鼻ではあるかなきかに薄い。泉温は18.7度、泉質は「ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉」。冷鉱泉なので加温はいたしかたない。

 

 いつもより食べたとはいえ、けっこう呑んでいる。汗ばんできたところで、風呂をあがる。

 二階の廊下に飾られた絵をひと渡り観賞してから、部屋に戻る。宿の主か女将の趣味だろうか、悪くない。

 

 夜食の弁当箱を開けてみると、小さい俵型のおむすびが綺麗に四つ入っていた。

 

 せっかくの心づくしである。
 温泉で汗かいたのでもうすこし経てば、二つ三つくらいはなんとか食べられそうだ。


  ― 続く ―

   →「志摩の国温泉(1)」の記事はこちら
   →「志摩の国温泉(2)」の記事はこちら


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