<読んだ本 2019年5月>
東京のはずれの下町をぶらぶらしているうちに昼ごろになり、北海道料理を出す小体な店をみつけてふらりと入り、カウンター席に座り珍しいラムカルビ焼肉を肴に軽く呑んでいると、入口あたりが急に賑やかになった。
「とりあえずナマ四つ、それとラーメンサラダね!」
オマエ独り勝ちだったんだから、奢れよな! テーブル席に陣取ったのは、どうやら、徹夜マージャン明けの四人組らしく、徹夜特有の昂揚感に侵されているのだろう、飲む前からハイな気分になっていて妙に明るいし騒がしい。
ギャンブルのうち亡国の遊戯である麻雀には、わたしもプロ雀士になろうかと思うほどノメリこんだ。当時の雀士にとってバイブルだった阿佐田哲也の「麻雀放浪記」を何度読み返したことだろうか。
そんなヒリヒリした生活を抜けだすきっかけが、皮肉にも阿佐田哲也の別名義である色川武大の「うらおもて人生録」だった。人知れず人生に悩む方がいるなら一読をお薦めする。
人生を相撲の勝負に例えたとしたら、大相撲なら一場所ごとに区切るから十五戦全勝なんてことあるかもしれないが、人生のほうは区切りのない長丁場の勝負である。
『八勝七敗なら上々。九勝六敗なら理想。一生が終わってみると、五分五分というところが、多いんじゃないかな。
それで、これはどちらかというと成功者の部類に入るんだな。』
小説などの登場人物には、インテリ主人公以外の脇役は概念的で、運転手は運転手さんといった具合に専門職業家としての庶民しか出てこないが現実は違う。
『ジャズ狂で、職業よりも、ジャズ狂のところに生活の軸ができている運転手さんなんて、活字になかなか登場しないんだな。
ひょっとしたら、君も、なァんだ、変わった運転手だな、と思うだけかもしれないけどね。ところが、
人間というものはこれなんだよ。
人間というものは、水平にバランスがとれているものじゃなくて、皆、どこかにかたよっているんだよ。
ただ、そのかたよりかたが、仕事の関係のあるところでかたよっていると、変な人と思わない。仕事でないところに
かたよっている、変人だ、ということになるがね。本当は、変人タイプの方がゴツくて確かな肌ざわりがあるね。』
「なんだか楽しそうなんだ。天空海闊(てんくうかいかつ=のびのびして度量が広いこと)というのかな、楽々生きている感じなんだな」といった野良猫がでてきて人生のセオリーを教示されるのだが、猫の天空海闊、これはたしかに実感としてよくわかる。
下手の考え休むに似たり、ちゅうてな。「果報は寝て待て」ちゃ。
さて、5月に読んだ本ですが、6冊、年間累積で31冊です。
1. ◎うらおもて人生録 色川武大 新潮文庫
2. ○鴨川食堂 はんなり 5 柏井壽 小学館文庫
3. ○臨床真理 柚月裕子 宝島社
4. ○朽ちないサクラ 柚月裕子 徳間書店
5. ○影ぞ恋しき 葉室麟 文芸春秋
6. ◎あきない世傳 金と銀五 転流篇 高田郁 ハルキ文庫
「鴨川食堂はんなり」は「鴨川食堂」、「鴨川食堂おかわり」、「鴨川食堂いつもの」、「鴨川食堂おまかせ」に続く五巻目となる。
「『園田食堂』もそうですけど、京都ではたいていうどん屋さんて言うんですわ。麺類全般、うどんから蕎麦、中華そばまで、
丼もんを出す店は、食堂と名が付いとっても、京都の人はうどん屋て言います。うちもそうでっせ。
近所の人に言わせたらうどん屋ですわ」
第一話「親子丼」より
へぇー、そうなんだ。そういえば「おみやさん」というドラマで、「うどん屋へ行こう」というセリフが多かったが、やっとわかった。
鴨川食堂では依頼人に、いつものようにおまかせの料理を提供する。
「恥ずかしい話ですが、こういう料理に慣れとらんもんですから、何から食べればいいかも分からんのです」
大原が迷い箸をしたまま、流に顔を向けた。
「何を言うてはりますねん、好きなもんを好きなように食べてもろたらええんですわ。苦手なもんは残してもろたらええし、
食べたいと思わはるもんだけ食べてください。(略)」
第三話「きつねうどん」より
苦手なものは残していい、なんてセリフ、涙が出るくらいすばらしい。
残したら出禁にするというとんでもない店も世間にあるというのに、こんなこと言ってくれる食堂にいってみたい。
→「読んだ本 2019年4月」の記事はこちら
東京のはずれの下町をぶらぶらしているうちに昼ごろになり、北海道料理を出す小体な店をみつけてふらりと入り、カウンター席に座り珍しいラムカルビ焼肉を肴に軽く呑んでいると、入口あたりが急に賑やかになった。
「とりあえずナマ四つ、それとラーメンサラダね!」
オマエ独り勝ちだったんだから、奢れよな! テーブル席に陣取ったのは、どうやら、徹夜マージャン明けの四人組らしく、徹夜特有の昂揚感に侵されているのだろう、飲む前からハイな気分になっていて妙に明るいし騒がしい。
ギャンブルのうち亡国の遊戯である麻雀には、わたしもプロ雀士になろうかと思うほどノメリこんだ。当時の雀士にとってバイブルだった阿佐田哲也の「麻雀放浪記」を何度読み返したことだろうか。
そんなヒリヒリした生活を抜けだすきっかけが、皮肉にも阿佐田哲也の別名義である色川武大の「うらおもて人生録」だった。人知れず人生に悩む方がいるなら一読をお薦めする。
人生を相撲の勝負に例えたとしたら、大相撲なら一場所ごとに区切るから十五戦全勝なんてことあるかもしれないが、人生のほうは区切りのない長丁場の勝負である。
『八勝七敗なら上々。九勝六敗なら理想。一生が終わってみると、五分五分というところが、多いんじゃないかな。
それで、これはどちらかというと成功者の部類に入るんだな。』
小説などの登場人物には、インテリ主人公以外の脇役は概念的で、運転手は運転手さんといった具合に専門職業家としての庶民しか出てこないが現実は違う。
『ジャズ狂で、職業よりも、ジャズ狂のところに生活の軸ができている運転手さんなんて、活字になかなか登場しないんだな。
ひょっとしたら、君も、なァんだ、変わった運転手だな、と思うだけかもしれないけどね。ところが、
人間というものはこれなんだよ。
人間というものは、水平にバランスがとれているものじゃなくて、皆、どこかにかたよっているんだよ。
ただ、そのかたよりかたが、仕事の関係のあるところでかたよっていると、変な人と思わない。仕事でないところに
かたよっている、変人だ、ということになるがね。本当は、変人タイプの方がゴツくて確かな肌ざわりがあるね。』
「なんだか楽しそうなんだ。天空海闊(てんくうかいかつ=のびのびして度量が広いこと)というのかな、楽々生きている感じなんだな」といった野良猫がでてきて人生のセオリーを教示されるのだが、猫の天空海闊、これはたしかに実感としてよくわかる。
下手の考え休むに似たり、ちゅうてな。「果報は寝て待て」ちゃ。
さて、5月に読んだ本ですが、6冊、年間累積で31冊です。
1. ◎うらおもて人生録 色川武大 新潮文庫
2. ○鴨川食堂 はんなり 5 柏井壽 小学館文庫
3. ○臨床真理 柚月裕子 宝島社
4. ○朽ちないサクラ 柚月裕子 徳間書店
5. ○影ぞ恋しき 葉室麟 文芸春秋
6. ◎あきない世傳 金と銀五 転流篇 高田郁 ハルキ文庫
「鴨川食堂はんなり」は「鴨川食堂」、「鴨川食堂おかわり」、「鴨川食堂いつもの」、「鴨川食堂おまかせ」に続く五巻目となる。
「『園田食堂』もそうですけど、京都ではたいていうどん屋さんて言うんですわ。麺類全般、うどんから蕎麦、中華そばまで、
丼もんを出す店は、食堂と名が付いとっても、京都の人はうどん屋て言います。うちもそうでっせ。
近所の人に言わせたらうどん屋ですわ」
第一話「親子丼」より
へぇー、そうなんだ。そういえば「おみやさん」というドラマで、「うどん屋へ行こう」というセリフが多かったが、やっとわかった。
鴨川食堂では依頼人に、いつものようにおまかせの料理を提供する。
「恥ずかしい話ですが、こういう料理に慣れとらんもんですから、何から食べればいいかも分からんのです」
大原が迷い箸をしたまま、流に顔を向けた。
「何を言うてはりますねん、好きなもんを好きなように食べてもろたらええんですわ。苦手なもんは残してもろたらええし、
食べたいと思わはるもんだけ食べてください。(略)」
第三話「きつねうどん」より
苦手なものは残していい、なんてセリフ、涙が出るくらいすばらしい。
残したら出禁にするというとんでもない店も世間にあるというのに、こんなこと言ってくれる食堂にいってみたい。
→「読んだ本 2019年4月」の記事はこちら
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