温泉クンの旅日記

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きらきらうえつ

2006-12-10 | 旅エッセイ
  < きらきらうえつ >

 新潟駅にはすでに特急電車の「きらきらうえつ」号が入線していた。
 越後から出羽までの羽越本線を、新潟から日本海沿いに酒田まで走る特急だ。
週末と祝日に一往復のみ走る。

 ぴかぴかの新型車両だった。光沢のある純白を多く残したボディには、鮮やかな
赤や青や黄色など数色の、大小さまざまな折り紙を貼り付けたようである。その
カラフルな部分のあちこちに、少女漫画の眼にありがちな星型に純白がキラキラと
抜かれていた。オジサンにはどこかしら気恥ずかしくなる電車である。



 デジカメを取り出すと電車の正面から一枚写す。べつに鉄道ファンでもないのだ
が、いつからか自分が乗る特急電車だけは取るようにしているのだ。ふだん車ばか
りの旅のせいもある。

 暖かな車内に乗り込む席をみつけると、背中のザックを網棚に載せ、手荷物を
座席にとりあえず置いてホームの売店に向かった。
 強烈な寒波がもたらすキリキリと刺すような冷たい風が、ホームに待つ人たちを
容赦なく凍えさせている。東京から来る途中、上毛高原駅を通過するころから雪が
チラチラ落ち始め、関越の国境の長いトンネルを出ると一面の銀世界に変わり、
いかにも重そうな雪が窓外を何重にも横に流れていた。越後湯沢の駅からすこし
行った浦佐駅で、雪のために線路のポイントがはいらず、突然の臨時停車をして
しまった。それほどの強い寒波である。

 煙草を買いにいったのだが、あまりの寒さについ熱燗のワンカップを一本購入し
てしまう。まだ朝の十時である。すこし、うしろめたい。
 わたしの乗った先頭車両の席は9割ほど埋まっているようだ。すぐ前の席は通路
を挟んで、十名ほどの若い女性たちで占められている。どうみても全員二十代前半
だ。訛りはすくない。
 風に雪が混じりはじめた。

「それでは・・・と、ではカンパーイ!」

 電車が動き出したとみるや幹事役のチャパツが、メンバーにそれぞれ缶ビールを
配り、プシュプシュ全員の開け終わるのを確認すると、高らかに音頭をとった。
 ウッメー、おいしーい、まいうー。プハアーあはは、などと急に賑やかになっ
た。打ち合わせている缶ビールはすべてロング缶だ。ジュースとかウーロン茶は
いない。

 ええー、嘘だろー。繰り返すようだが、まだ朝の十時すぎである。他の乗客も
振り返ってあきれている。旅の恥は掻き捨て、てやつか。
 ふうむ、世の中変わったものだ。けどね、わたしは酒呑みだから気持ちがわかる
ぞ、キミタチ。朝酒も旅の楽しみのひとつだよね。こちらのうしろめたさもお陰で
すっかり消えた。カップ酒の蓋で手を切らぬように開けると、自分もクチの中で
乾杯を呟いて呑み始めた。



 それとなく聞いていると、新潟あたりで働いているOLたちみたいである。働き始
めて二、三年といったところ。なんか、女子寮の宴を覗いてるような雰囲気だっ
た。副幹事みたいなロングヘアーが、ばりばりと袋を破いてイカやらスナックなど
のつまみを回している。

「来年はさあ、韓国になんか行ってみたいね」
「行きたい、行きたーい。本場の焼肉と買い物!」
「行けるかなあ。だって月三千円だから、三万六千円の予算だし・・・」
 この旅行から帰ったらワタシ調べとくわ、とチャパツ幹事がその話題に見事に
ケリをつけた。

 どうやら、毎月三千円ずつコツコツ地道に積み立てて、年に一度のグループ旅行
らしい。
 なにがカンパーイだ。朝っぱらからビールなんか飲みやがって、なんという太え
アマ達だ・・・そう、チョットだけ思ったのだが、どうやら真面目ないい奴たち
らしい。あいスマン、申し訳ない。

 しかし、こちらはうしろめたいので一本しか買わないで失敗だった。チビチビ
チビグビグビガブリ、で終わってしまった。こんなことなら三本ぐらい調達する
べきであった。一本だからつまみも買わなかったし、ザックから焼酎瓶をとりだし
て、カップ酒の容器でストレートを呑む勇気もない。煙草も吸いたいが、たしか
全面禁煙だったはずだ。

 二両目がラウンジカーになっており、日本海をソファでゆっくり鑑賞できる。
そうだたしか、一角に売店があって地酒を売っていたな。
 車掌からの型どおりの車内アナウンスが始まった。

「本日はきらきらうえつに・・・この特急は全面禁煙ですので、くれぐれもお煙草
は決められた場所のみでお願いします・・・」

 え、いまなんて仰いましたか。決められた場所? そんなのあるのかよ。 
 あわてて備え付けの案内を引っこ抜いてよくみると、ラウンジカーの次の車両に
小さな喫煙スペースがあった。

 女子寮の覗きをすっぱり中断すると、喫煙アーンド売店でのブツ補給、という
新たな緊急ミッションの遂行にとりかかるべく、わたしは勢いよく立ちあがった。

 (この続きは「温海温泉<風の町>」を読んでください)

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