<天草フェリー(2)>
未明に、いつものようにすっきりと目が覚めた。
旅先では温泉効果と飲酒の相乗効果ですなわち早寝、そして朝風呂を一番で入りたいのもあって早起きなのである。
静かに一階の浴場にいき、できるだけ音をたてぬように掛け湯すると浴槽に身を沈めていく。沸かさず、薄めず、循環せずの天然温泉である下田温泉は、火山性でも非火山性でもない、天草陶石を含む白亜紀の地層の摩擦熱から生まれている特殊な温泉である。開湯八百年の歴史を持つ。
部屋に戻り、珍しく着替えると気晴らしに外を散歩することにした。
下田温泉だが、昔は下津深江川の川原に湧出しており川畔で傷を癒している白鷺が温泉の場所を教えてくれたそうで、別名「白鷺の湯」ともいわれている。
天草の宿の入口にはしめ飾りがある。
天草では正月のしめ飾りを松の内を過ぎても外さず一年を通して飾る。この風習は昔キリスト教弾圧が厳しかったからで、キリシタンであることを隠すためとか、キリシタンではなく神道だと示すために飾っていたと宿の主人が説明してくれた。
朝食の時間になり食堂にいったが、もしかしてこれからフェリーに乗るかもしれないと思うとあまり食欲が出ない。昨日宿に着くまでは陸路で長崎へ向かおうと固く決めていたのだが、宿のご主人に当たり前のように長崎いくならフェリーを使うのだろうと決めつけられての会話に、急に迷いが生じたのだ。つまりリセットされちゃったのだ。
(よし、悩むのはヤメだ。港までいき波の状態で乗るかどうか決めるとしよう)
そう心が決まると、少し食欲が出てきた。遅れてやってきた釣りグループの幹事らしいひとが、今日はこれから熊本に向かうらしくメモを片手に、上天草あたりの昼食のお勧めの店をしきりと宿の女性陣に尋ねていた。
鬼池港までは三十分くらい、九時発のフェリーが出た直後に着いた。次は四十五分後のフェリーになる。車を事務所前に入れて、港へ波を確かめにいった。
天草の鬼池から島原の口之津まで、フェリーでたったの三十分。三千円でお釣りがくる。たしかに陸路を選ぶより、時間も費用も大幅な節約になるのである。
乗船待ちの子どもが喜びそうな、イルカとサンタをみつけてちょっと驚く。
天草はサンタクロースの聖地だそうで、日本にキリスト教が伝来して以来、天草はクリスマスを「霜月祭」と称して祝い続けてきたそうだ。
人生は選択の連続である、との名言はたしかシェークスピアだったか。大きな選択もあれば小さな選択もある。凪の海をみて、フェリー乗船を選択し、事務所で乗船手続きをする。
あまり待ち時間を感じないうちに、次のフェリーが入港し車の乗船が始まった。ほぼ船倉が車で埋まったかと思ったらすぐに出港となった。
出発した後方の天草側の鬼池港に向けて、フェリーが生みだす航跡波が長く続く。
まるで湖のように滑らかな水面で、気にしていたうねりはまったくなく快適そのものである。
途中で、口之津方向からやってきたフェリーとすれ違う。手を振っているのをみて反射的にこちらも振り返してしまう。
よしよし、島原半島がみるみる大きくなってきたぞ。
間はあけたが煙草二本吸ったくらいの、あっという間に口之津港へ入港だった。
天草灘の向こうにみえる長崎市街に向けて快調に走らせる。いまは片割れしかいなくなった両子岩(ふたごいわ)を眺めながら車を走らせていると、船を降りて安心したのかゲンキンなもので、強烈な空腹に襲われた。
→「天草フェリー(1)」の記事はこちら
→「島原のセレブ猫」の記事はこちら
未明に、いつものようにすっきりと目が覚めた。
旅先では温泉効果と飲酒の相乗効果ですなわち早寝、そして朝風呂を一番で入りたいのもあって早起きなのである。
静かに一階の浴場にいき、できるだけ音をたてぬように掛け湯すると浴槽に身を沈めていく。沸かさず、薄めず、循環せずの天然温泉である下田温泉は、火山性でも非火山性でもない、天草陶石を含む白亜紀の地層の摩擦熱から生まれている特殊な温泉である。開湯八百年の歴史を持つ。
部屋に戻り、珍しく着替えると気晴らしに外を散歩することにした。
下田温泉だが、昔は下津深江川の川原に湧出しており川畔で傷を癒している白鷺が温泉の場所を教えてくれたそうで、別名「白鷺の湯」ともいわれている。
天草の宿の入口にはしめ飾りがある。
天草では正月のしめ飾りを松の内を過ぎても外さず一年を通して飾る。この風習は昔キリスト教弾圧が厳しかったからで、キリシタンであることを隠すためとか、キリシタンではなく神道だと示すために飾っていたと宿の主人が説明してくれた。
朝食の時間になり食堂にいったが、もしかしてこれからフェリーに乗るかもしれないと思うとあまり食欲が出ない。昨日宿に着くまでは陸路で長崎へ向かおうと固く決めていたのだが、宿のご主人に当たり前のように長崎いくならフェリーを使うのだろうと決めつけられての会話に、急に迷いが生じたのだ。つまりリセットされちゃったのだ。
(よし、悩むのはヤメだ。港までいき波の状態で乗るかどうか決めるとしよう)
そう心が決まると、少し食欲が出てきた。遅れてやってきた釣りグループの幹事らしいひとが、今日はこれから熊本に向かうらしくメモを片手に、上天草あたりの昼食のお勧めの店をしきりと宿の女性陣に尋ねていた。
鬼池港までは三十分くらい、九時発のフェリーが出た直後に着いた。次は四十五分後のフェリーになる。車を事務所前に入れて、港へ波を確かめにいった。
天草の鬼池から島原の口之津まで、フェリーでたったの三十分。三千円でお釣りがくる。たしかに陸路を選ぶより、時間も費用も大幅な節約になるのである。
乗船待ちの子どもが喜びそうな、イルカとサンタをみつけてちょっと驚く。
天草はサンタクロースの聖地だそうで、日本にキリスト教が伝来して以来、天草はクリスマスを「霜月祭」と称して祝い続けてきたそうだ。
人生は選択の連続である、との名言はたしかシェークスピアだったか。大きな選択もあれば小さな選択もある。凪の海をみて、フェリー乗船を選択し、事務所で乗船手続きをする。
あまり待ち時間を感じないうちに、次のフェリーが入港し車の乗船が始まった。ほぼ船倉が車で埋まったかと思ったらすぐに出港となった。
出発した後方の天草側の鬼池港に向けて、フェリーが生みだす航跡波が長く続く。
まるで湖のように滑らかな水面で、気にしていたうねりはまったくなく快適そのものである。
途中で、口之津方向からやってきたフェリーとすれ違う。手を振っているのをみて反射的にこちらも振り返してしまう。
よしよし、島原半島がみるみる大きくなってきたぞ。
間はあけたが煙草二本吸ったくらいの、あっという間に口之津港へ入港だった。
天草灘の向こうにみえる長崎市街に向けて快調に走らせる。いまは片割れしかいなくなった両子岩(ふたごいわ)を眺めながら車を走らせていると、船を降りて安心したのかゲンキンなもので、強烈な空腹に襲われた。
→「天草フェリー(1)」の記事はこちら
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