Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

中庸な議会制民主主義

2007-05-13 | マスメディア批評
政治には疎く、それも日本のそれを殆ど知らない。否、すべては想定内で、その経済をも含めて、過去三十年ほど推移している。それでも欧州の政治文化との関連でトラックバックを頂くと、重い腰を上げてトニー・ブレアー辞任関連で目についていた記事などを読む事になる。そして読めば読むほど、政治学に関心を持つほど、外交や政治の実態や内情を知れば知るほど、それはつまらなくなるのである。

個人的には、1997年当時、普段は政治についてなど話さない比較的無口な英国女性が、ブレアーが人気ある事を力を込めて話してくれた記憶が、この新鮮な印象のギターを抱えた青年政治家の思い出である。

今回の記事で最も優れていた見出しは、「温かなサッチャリズム」ではなかったろうかと思う。労働党の政治家が党内の反発をも押し切って、片腕ブラウン財務相と共に、思い掛けない経済的成長を齎したその「第三の道」を指す。

鉄の宰相サッチャーによって潰された支持母体労働組合を再生させることもなく、また女史によって疎かにされた教育と保険システムを構築して、機会均等を目指した政治を指す。

その結果、ユーロ通貨統一に加盟することなく高いスターリングをものともせずに手頃なインフレと経済成長を英国に齎して、嘗ての重産業の失墜とは裏腹にロンドンバンクを中心とするサーヴィス産業を盛り上げ、今や金融部門でニューヨークを凌ぐとされる発祥の地に、往年の繁栄を取り戻したとされる。

それは、東欧からの出稼ぎ労働者を集め、最近それにブレーキをかけたとされる。それでも先日、近所の若いポーランドペアーが遅れ馳せながら英国へ旅立ったと聞くと、金利を上げたと言っても今でも泡銭が転がっているのだろう。その彼らが、実際の労働力を捨て置いて、端から東ドイツ並みの時間給を求めていたことを知ると、そうしたグローバル化が、労働賃金とその労働内容においての労働と報酬の不均衡を進め、何れはそれを破綻させる事を予想させる。

ブレアーの政策に戻れば、英国銀行の金融政策の独立化にその経済政策は表れていて、民営化を推し進める事で効率化を推し進めた。その一方、最低賃金の設置と失業保険と教育費の援助額は、英国の税を他国並みに高めたとされる。

こうした傾向は、政治的にはドイツのシュレーダー前首相の政策と共通していて、富の配分を目的とした市場原理政策で、サッチャリズムのライト・ヴァージョンと呼ばれる。シュレーダーを例に見れば、そのボナパリティズム的な政治手法と新たな都市層 ― つまり浮動票層であり、戦後の教育を受けた新市民中間層 ― の選択を容易にする、ポピュリスト的な政治家像を形作る。彼らは、経済政策のダイナミズムと安定した国予算と運営責任の明確化を織り交ぜて、選挙民にアピ-ルすると、「ザ・サード・ウェィ」の著者で社会学者のアンソニー・ギデンズは纏めているようだ。

これは、先頃のフランス大統領選の結果でも気がつく事象で、明快な責任をポリシーとして出せる候補が、こうした大多数の中間層の支持を集め、従来の組織化された階級からの集票力を圧倒することが出来る。

同時にこうした、現行の市場原理を利用した政治運営には限界もあり、― たとえそれが原理主義的なネオリベラリズムの台頭を法規制で押さえる事が出来たとしても ― 、英国では嘗て無いほどの子供の貧困を生み、社会の貧富の格差は開く一方で、また年金生活者の生活水準を下げている。英国の生活水準は、ドイツのそれを上回っているとされながらも、こうした弱者が多く存在して、尚且つ精神文化的に十分な成長が得られないとすれば問題は先送りとなるだろう。

現に、こうした政治風土は、英国の選挙制度の賜物と言うことであり、直接民主制とは一線を画する議会制民主主義は、少数のエリートと そ こ そ こ の大衆が存在して旨く行くシステムなのである。

米国のカリフォルニアなどから、公的保険制度の成立と強化が政治課題となっていると知ると、現行の経済と政治のシステムを採用し続ける限り、この「権利と秩序」を重んじる「第三の道」へと、政権交代を繰り返しながら限りなく近づいて収斂して行くのが、今後の西洋型民主主義の政治地図であるようだ。

トニー・ブレアーを寄宿舎学校の教師として、教師ブラウンとそのウエストミンスター然とした学校の教室を分ける、勿論、校長先生はブッシュ博士と言う風刺小説「アンソニー・ブレアー」がジョン・マリソン著で好評発売中である。



参照:
Warmer Thatcherismus von Klaus-Dieter Frankenberger,
Von Sozialismus keine Spur von Bettina Schulz,
Tony wie Maggie von Gina Thomas, FAZ vom 11.5.07
サルコジ批判票の行方 [ 女 ] / 2007-04-23
神をも恐れぬ決断の数々 [ マスメディア批評 ] / 2006-11-22
批判的民主主義行動 [ マスメディア批評 ] / 2007-04-19
コメント (2)
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