Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

「ミサソレムニス」な気持ち

2019-02-15 | 
「ミサソレムニス」の総譜を見た。独唱四つに四声の合唱にオルガンが当然の如く入っていて、絶望的な気持ちになる。一週間もない。オペラに慣れたものだから、それに比べればと思っていたら、どうもそうはいかない。そもそもオペラで合唱が出てくる場所は限られ、四重唱以上もそんなに出てこない。精々二つのフィナーレぐらいを押さえておけばよい。器楽のシステムは古典だからそこそこだけれど、例えば「マイスタージンガー」と比較しても、必ずしも容易にはいかない。楽曲が三幕ものに比べると短いのだけが救いである。訓練を積んだ者ならば、一つのシステムを見れば後は対位法的に補えるのかもしれないが、また合唱で自身のパートだけを通すならば楽かもしれないが、いちいち全ての四声部も目を通すとなると一苦労だ。

救いは、所詮ミサの典礼と歌詞の構造なので、そこにどのように音を付けているかさえ把握すれば良いことだろう。そして音資材を探してみた。手元にはバーンスタイン指揮のコンセルトヘボーでのライヴ録音があるが、あまり参考にならないのは分かっている ― ブロムシュテットはそれを称して、それでも故人の自然で天性のアプローチだと評価していた。YouTubeで調べてみると、嘗ての名録音クレムペラー指揮とかカラヤン指揮とかベーム指揮は並んでいるのだが、どうもこれもあまり参考にならないと思って、ドイツの歌手のものをとサヴァリッシュ指揮などを見ると全曲は無い。ディヴス指揮とかガーディナー指揮とか、どれも一度聴いてみようと思わせない。

更に探してみると素晴らしいロ短調ミサを指揮するヘルヴェッヘ指揮のものがあったので、流してみた。この指揮者独特のスイングなどはあるが概ねいい演奏で、これは使えると思った。古楽出身の指揮者だけに綺麗に各声部が浮かび上がり、合唱や独唱は当然のこと、管弦楽でも比較的成功している。和声的にも欠けるものが無いのはそのバッハの演奏で御馴染である。それはいいのだが、実はもっと面倒なのは、勿論和声的な繋がりとしても先日の「フィデリオ」と同じ書き方をしているところに気が付いてしまった。これは面倒だ。行ったり来たりしないといけないからである。
Ludwig van Beethoven - Missa Solemnis


なぜこの時期にキリル・ペトレンコが「フィデリオ」に続いて「ミサソレムニス」そして「第九」を指揮することにしたかは本人にとっては明白なことなのかもしれないが、こちらはとても大変なことになる。そもそも「フィデリオ」上演でこれはというところが幾つかあって、その答えが既にここで出されることになる。それも我々のような凡人が、行ったり来たりしながらここここというだけでとても面倒な作業である。しかしとどのつまり楽聖の意思を間違いなく取れればいいわけなのだが、ペトレンコは言葉でヒントを与えてくれないので、こちら側が自ら学ぶしかない。

そのほか、上の録音で改めて気が付いたのは、独唱、合唱と管弦楽のフーガなど、とてもではないが簡単に演奏できないということで、演奏実践上とても可能性があると気が付いた。楽聖の交響曲に関しては今更なにか改めてという気がしないが、こうした複雑な音楽ではまだまだなされていないものを感じた。要するにペトレンコ指揮に大変な期待が高まるのだが、恐らく今回は中継放送が無いように先ずはここで劇場の合唱団と一緒にとなり、最終的な形はベルリンで改めてとなるのだろう。

実際に調べて見ると、この二つの作品番号の123と72ほどには、創作年月が開いていないことが分かる。最終版のフィデリオ序曲が作曲されてから数年のうちに構想に入っているようだ。その年月日よりも途中で作曲された交響曲の数がとてもその距離を大きく感じさせるが、あまりにも完成した交響曲とこうした声楽の入った曲との関係は強くないかもしれない。なるほど中期の弦楽四重奏曲などには親近性も見られるが、寧ろ今回第九まで進むと見えてくるのは後期の四重奏曲ではないかと想像する。

余談だが、ブロムシュテットのインタヴュ―に晩年のトスカニーニの練習風景に裏口から忍び込んでロージェの中に隠れてとの話しもあったが、ボストンで有名なクーセヴィツッキーが譜面から音楽を読み取れない指揮者だったとあった。ピアノで弾かしてそれで理解するという話しだった。まるでバイロイト音楽祭の初代音楽監督みたいではないか。それは学究的な仕事が伴うので、大体頭の悪そうな音楽家は皆それに近いのではなかろうか。



参照:
ブロムシュテットの天命 2019-02-14 | 文化一般
MeToo指揮者に捧げる歌 2019-02-03 | 文化一般
コメント
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