
■ 期待インフレ率の指標としてのBEI ■
上のグラフが財務省が発表しているブレーク・イーブン・インフレ率(BEI・5年)のグラフです。BEIは期待インフレ率の指標として利用されます。
こちらにBEI(10年)のグラフが出ています。
http://www.bb.jbts.co.jp/marketdata/marketdata05.html

BEIの説明と算出方法も拝借します。
http://www.ifinance.ne.jp/glossary/economy/eco101.html
BEIは、"Break-even inflation rate"の略で、普通国債(利付国債)と物価連動国債(物価に連動して元本が増減する国債)の流通利回りの差(利付国債の利回り-物価連動国債の利回り)をいう。これは、物価が将来どれくらい変動するとマーケットが見ているかを示すもの(将来の予想物価上昇率)で、この値がプラスなら「インフレ」、マイナスなら「デフレ」を市場が予想(推測)していることを意味する。
一般に予想インフレ率は、実際のインフレ率と連動すると共に、先行して動く傾向があるため、各国の中央銀行は、BEI(予想インフレ率)の動向を調査・把握し、また予想インフレ率の目標値を定め、その目標値に収まるような金融政策を行うことが多い。通常、予想インフレ率が上昇傾向にある時は、インフレを抑えるような金融政策を行い、逆に予想インフレ率が下落傾向にある時は、インフレになる(デフレにならない)ような金融政策を行う。
■ 10年もの物価連動国債が10月に5年ぶりに発行された ■
実は10年ものの物価連動国債は5年間発行されていませんでした。何故なら、デフレが続いていたので、10年物の利回りがマイナスになっていたからです。
5年ぶりに10年ものの物価連動国債が発行された事で、日本がデフレを脱却してインフレ基調に入った事が確実になったとも言えます。
■ 消費税増税分を除くと、期待インフレ率は0.7% ■
10年ものBEIの発行によって、市場は長期的なインフレ予測を立てやすくなりました。
一方で、消費税の影響を除いた期待インフレ率は0.7%程度である事も分かります。
日銀は「2年で2%のインフレ率(消費税の効果を抜いて)」を目標に異次元緩和を続けていますが、期待インフレ率は10年後に0.7%です。
さらに5年より10年のBEIの数値が低い事から、将来的なインフレ率が低下するであろうと市場が見ている事が分かります。
■ BEIが期待インフレ率を正確に反映しているのか? ■
BEIは期待インフレ率を知るのには便利な指標ですが、その一方で、「正確にインフレ率を予測しているのか?」という疑問も存在します。
BEIの算出基準は国債利回りですが、国債利回りは国債以外の債権や株価の影響を受けます。「リスクオフ」で国債が選好され利回りが低下し、「リスクオン」で国債利回りは上昇します。
国債価格と株価は相反して動く傾向があり、株価上昇局面では国債価格が下落(利回りは上昇)する傾向にあります。
BEI = 普通国債の利回り 物価連動国債の利回り -
問題は物価連動国債の発行がコンスタントで無い事。上で紹介した10年のグラフは5年前に発行された物価連動国債の利回りを基準に13年の10月までは計算されています。
ですから5年ぶりに財務省が10月に物価連動国債を発行した時点で、基準となる物価連動国債の利回りが変化したので、グラフが不連続になっています。
一方で普通の利付国債の発行はコンスタントに行われていますし、この金利は国債市場で日々刻々と変わって行く数値が用いられます。
結果的にBEIの変化は、普通国債の金利変化を見ているに過ぎないとも言えます。そして、上述した様に、国債金利は株式市場やその他の金融市場の影響を強く受けています。
■ 株価との連動性が高いBEI ■
市場がリスクオンで株価が値上がりする時は、資金は国債市場から株式市場に動く傾向があります。
株価上昇
国債金利上昇(国債価格低下)
この二つはセットとして動く事が多いので、BEIは株価との連動性が高くなります。
中古国債市場の決定する普通国債の金利が、将来的なインフレ率を反映するのか、それとも、その時々の金融市場の資金の動きを反映しているのかという根本的問題を無視して、BEIが期待インフレ率の指標とされる事が問題なのでは無いでしょうか?
■ 米国債金利との連動性がある日本国債金利 ■
日本の国債金利は諸外国に比べて極端に低く、金利も独自の動きをしています。
一方で、米国債金利と日本国債金利はゆるやかに連動していおり、異次元緩和以降は一時期、この連動性が希薄になりましたが、最近は連動性が回復してきています。
日本国債の金利に米国債金利が影響を与えるならば、日本のBEIの観測は、実は間接的に米国債金利の変異を観測している事になるのかも知れません。
米国債金利はリスク市場との連動が明確(最近は崩れてきていますが・・)なので、日本のBEIは米国の金融市場の動向と無関係では無いのでは?そう考えると、BEIが有効なのは、物価連動国債が発行された直近のデータだけの様な気がしてなりません。