■ 日本のエンゲル係数は所得による差が小さい ■
驚いた事に官邸は自民党内や財務省を押し切って、軽減税率の範囲を外食まで拡大する様です。理由は消費税の逆進性の低減による低所得者への配慮。低所得者では所得における食費の割合(エンゲル係数)が高いので、増税の影響を高額所得者よりも大きく受けると言われているからです。
年間所得436万円以下 24.5%
年間所得906万円以上 20.4%
上の数字は日本における所得別のエンゲル係数です。実は日本は所得によるエンゲル係数の差が少ない社会です。貧乏人も金持ちも所得に占める食費の割合はそれ程変わらないのです。
■ 貧乏人も金持ちも等しく得をする食品と外食への軽減税率 ■
政府は全ての生鮮食品と加工食品、そして外食への軽減税率の適用を決めた様です。これは公明党が求めていた案よりも外食まで範囲を拡大した驚くべき内容です。
一見、低所得層に配慮した政策に思われますが、スーパーの安い輸入豚肉も、百貨店の松坂牛も等しく軽減され、牛丼一杯も、高級レストランのディナーも等しく軽減されます。
■ 軽減税率導入の財源として低所得層への補助が打ち切られる ■
驚くべき事に、軽減税率導入で不足する税収を補てんする為に、低所得層への補助が削減されるそうです。これでは、逆進性が拡大して本末転倒です!!
本来は税率を一律に10%に引き上げる一方で、低所得者への税額還付を拡大するとか、或いは累進性の見直しで低所得層の所得税率を引き下げる方が、確実に逆進性を緩和出来、かつ事務的にも全く手間が掛りません。
しかし、税率の変更などは国民に分かり難く、日々の買い物で減税効果を実感できる軽減税率の方がアピール度が高い。選挙での人気取を意識した公明党の戦略に安倍政権は便乗したと言えます。
ポイント制の還付に上限を設けた財務省案の方が無節操な軽減税率よりも逆進性の緩和には理に適っていました。(これはこれで手続きの煩雑性や、ITゼネコンの問題が大きかったmのですが・・・)
■ 公明党無くしては選挙に勝てない自民党 ■
政府が財務省や谷垣氏らの抵抗を強引にねじ伏せて軽減税率を導入する理由は、公明党の選挙協力無くして自民党は選挙に勝てないからです。
国政選挙の投票率が低下する中で、組織票の割合は上昇し続けています。労働組合の組織率が低下する中で、創価学会の会員は学会員の地道が勧誘活動(生活保護などをエサに)によって成人会員の数は500万人程度を維持していると言われています。
労働組合員の数は1000万人程度ですが、組合員の多くは選挙に行きません。これに対して創価学会会員は選挙に熱心なので、その票の行方は選挙結果を大きく左右します。
■ 長期政権化しそうな安倍政権 ■
安倍政権は「ポピュリズム(人民主義・大衆迎合主義)」に訴える事が実に上手い政権です。政権発足当時は大型補正予算や異次元緩和、そして先の解散総選挙では消費税増税延期を争点にするなど、国民が喜ぶ政策を掲げます。
その一方で、TPP合意や安保法案など、国民が反対している政策や法案などを、国家での数の理論によって強硬に採決しています。
今回の軽減税率の導入も、来年の参議院選挙を睨んだ国民サービスです。実際には税率が下がる訳では無いので、国民の負担増は変わらないのですが、何となく国民は得した気分になります。
マスコミの論調は「軽減税率に反対する自民党内の意見や財務省を官邸が押し切った」という内容なので、安倍首相は「国民の味方」に見えてしまいます。小泉政権の時もそうでしたが、「ポピュリズム」の政権は長期政権化します。
■ 憲法改正は国民投票がネックになるので難しい ■
安倍首相の国民サービスは、国会での2/3の議席を確保して憲法改正を実現する為のものと思われがちですが、憲法改正には国民投票で1/2の賛成が必要なので、憲法9条の改正などはハードルが高いと思われます。それこそ「尖閣有事」でも起きない限りは・・・。
私達は安倍首相の「なりふり構わぬポピュリスト振り」を見て、その目的を「憲法改正の実現」と勘違いしがちですが、実は目的は別にあるのでしょう。「憲法改正」はその目惑ましに過ぎません。
■ 国会で安定多数を維持する事で、構造改革や規制緩和を加速する ■
安倍政権はアメリカの傀儡政権ですから、その最大の政治課題は構造改革や規制緩和だと思われます。アベノミクスの三本目の矢ですが、現状はTPP合意と郵政関連株公開程度にとどまっています。(実は来年4月の混合診療の事実上の解禁が一番私達の生活に影響を与えそうですが)
既得権者や高齢者が強硬に反対する規制緩和などは、安定した政権で無ければ実現が難しい。安倍政権は国民に「アメ玉」を乱射する事で高い支持率を維持し、安定した政局運営を実現しています。
今後は構造改革や規制緩和をかなり強引に進めて行くでしょう。まさに、小泉政権の再来です。
■ 目先の利益に飛びつく国民は、将来の損失に気付かない ■
軽減税率にしろ、補正予算にしろ、国民は分かり易い目先の利益に飛びつきます。一方で将来的な不利益に有権者は無頓着です。
この様な、表面的なメリットとデメリットの非対称性を利用するのが「ポピュリズム」です。
確かに、現在の日本に必要なのは構造改革や規制緩和といった成長率を回復させる転換です。しかし、改革は傷みを伴い、日本の利益よりもグロバル資本家の利益が優先されるケースも多々あるでしょう。
本来は国民が「痛みを自覚しながらも改革を選択する」事が一番ですが、現在に日本人には無理なのでしょう。だから「ポピュリズム」が利用されるのでしょう。実はこれは日本に限らず、世界全体で進行しています。集団の利益より個人の利益が優先される民主主義はこうして腐って行くのです。