人力でGO

経済の最新情勢から、世界の裏側、そして大人の為のアニメ紹介まで、体当たりで挑むエンタテーメント・ブログ。

逆サプライズに翻弄された日経平均・・・HFTの暴走?

2015-12-19 06:35:00 | 時事/金融危機
 

■ 大きすぎる期待が生んだ黒田ショック ■

昨日は「逆サプライズ」に翻弄された日経株市場と為替でした。
今回の日銀の政策決定会合は追加緩和は発表されないと市場は見込んでいましたが、何と「予期せぬ追加緩和」が発表されました。

これを市場は好感してドル/円は一気に1円近く円安になりました。株式市場も19、869円と一気に2万円超えを達成するかに見えました。ところが、ここから市場は一気に反転します。

報道の多くは「追加緩和の規模が小さかった事への失望」が原因としています。

1)80兆円の資産買い入れ額は継続する
2)年間3兆円のETF買い入れ額も継続する

3)購入国債の平均期間を「7〜10年程度」から「7〜12年程度」に延長
4)設備投資などに積極的な企業の株を中心にETFの買い入れを3000億円拡大する
5)銀行株などを中心に3000億円市場で売却する

・・・これ「追加」では無くて「調整」ですよね。良く見るとマネタリーベースの拡大規模は変わりません。「ETFの買い入れを3000億円追加」辺りに敏感に反応してしまった市場ですが、すぐに「追加緩和」で無い事に気付きます。

■ 為替市場の変動を後追いした株式市場 ■

実は昨日の乱高下、為替市場が先に反応して株式市場は少し遅れてその後を追っています。

為替ディーラーらは日銀の追加緩和の内容がショボイ事に直ぐに気づいたのでしょう。だからドル/円は15分余りで円安に1円程変動した後に一気に円高に反転しました。

多分これに外資のHFTのプログラミングが敏感に反応したのでは?

円安=日本株買い
円高=日本株売り

こうプログラミングされているはずです。

■ 「日本株は2万円で売れ」の法則 ■

多分昨日の日本株の乱高下には「日本株は2万円で売れ」の法則も働いていたと思われます。個人投資家から外資まで、2万円を一つの節目として利確を考えていたでしょうから、2万円を目前にして一気に売り注文が出たと思われます。

相場が反転した事を感知して、外資のHFTも売りを加速させたのでは無いでしょうか。これが更なる下落を加速させたのでは?

■ 日銀は手詰まりなのか? ■

ところで昨日の日銀発表の内容はいったいどの様な効果が有るのでしょうか。

買い入れ国債の残存年限の長期化は、中短期国債の購入を減らし、長期、超長期国債の購入枠を増やす事を意味しています。

現在、中短期国債の金利は十分の低下しており、このまま日銀が買い続けるとマイナス金利が固定化される恐れが有ります。金利がマイナスになれば日銀は国債購入で損失を被る事になり、さすがにこれはマズイ。

さらに、金融庁は国内金融機関に保有国債の残存年限の圧縮を指導していますから、市場には残存年限の長い国債が放出される事になり、この買い手が居なければ中長期国債の金利が上昇してしまいます。そこで日銀が中長期の国債を買い支える事となります。

■ 「マジックタイム」が続く内に財源を低コストで確保した政府 ■

日銀が購入国債の残存年限を長期化する事で、中長期国債の金利が下がり、政府は低コストでこれらの国債を発行して財源を確保する事が可能になります。将来的に金利が上昇しているならば、今の低い金利で出来るだけ長い償還期間の国債を発行する方が、メリットは大きくなります。

現在の日本国債市場は「異次元緩和」によって国債金利が実体よりも押し下げられています。いわば「マジックタイム」の状態です。このマジックは、シンデレラの掛けられた魔法の様に時間制限が掛けられています。異次元緩和をこの先5年10年と続ける事は不可能だからです。

既に日銀は残存国債の30%以上を保有していますが、このままのペースで買い入れを勧めればいずれ50%以上の国債を保有する事になり、流石にこの状態が「財政ファイナンスでは無い」とは言えなくなってきます。ですから日銀はどこかの時点では出口戦略に切り替えざるを得ず、この時点で余程民間のリスクが高まっていない限り、国債金利はぴょんと跳ね上がる事は確実でしょう。

こうなる前に出来るだけ長期国債を発行しておきたいというのが財務省の思惑だと思われます。日銀はこれに忠実に従っているだけでしょう。

■ 金融政策を捨て、実利に走る日銀 ■

ETFの3000兆円上乗せは明らかに株価の下支えを意図しているはずです。さらには「設備投資に積極的な企業」などという「金融政策を逸脱した」様な条件を付けるなど、もはや異次元緩和は政府の景気回復のツールと化した感すらあります。

そもそも、「株式市場を中央銀行が買い支える」事自体が前代未聞の状況でクレージーです。

株価が下がれば日銀の含み損も拡大するので、株価を買い支える為にお金を刷る

こんな通貨に信用もへったくれも有りません・・・・。「リフレ政策」という言葉に騙されていますが、日銀の異次元緩和の内容は、「金融政策」よりも実はかなり「実利的」なものである事が露呈して来ています。


■ 優秀なイエレンと間抜けなドラギと黒田・・・これは酷すぎる ■


12月3日のECBのショボイ追加緩和と、昨日の日銀の逆サプライズで、「FRBのイエレンは有能だった」という意見が多く聴かれる様になりました。「黒田はイエレンの爪の垢を飲むべきだ」なんて意見も有ります。

ところでイエレンやFRBはそんなに有能なのでしょうか?イエイエ、そんな事は有りません。ただ、時間を掛けて「サプライズ」に成らない様にしただけ。市場が「利上げを当り前の事と認識する」様にしただけです。

これはバーナンキも同じで「テーパリングを当たり前の事」と認識させる時間を掛け、その前に多少市場を揺さぶって過剰リスクを整理したに過ぎません。

さらに、世界はドルの崩壊や、金融市場の混乱を望んではいないので、金融市場の関係者は利上げに際して多少の仕掛けはしたとしても、市場が崩壊する様な行為に出るとは考えられません。結局、大多数の人々が「現状維持」を望むのであれば、崩壊を仕掛ても勝負にはなりません。多少のボラティリティーの上昇はあっても、それが市場を一気に崩壊させる力にはなり得ません。

「イエレンが優秀」なのでは無く、市場関係者が正気を保っているだけというのが今回の利上げ成功の要因です。

■ 根っこが腐った大木はいつかは倒れる ■

米利上げ成功で安堵する市場ですが、実はその根っこは相当腐っています。金融緩和による資金供給は根腐れの進行を抑制する効果を持っていますが、これが縮小されるのですから、根腐れは再び進みはじます。

既に新興国から相当な資金流出が起きており、ジャンク債市場も崩壊が始まっています。これら末端の根の腐敗から市場崩壊は始まり、最後は巨木も根本から倒れるのでしょう。

多分、2016円夏ごろから、葉が枯れる様な目に見える変化が株式市場などで起こり始め、人々は異変に気付くはずです。


FRBが量的緩和に戻っても、ECBや日銀が量的緩和を拡大しても、「マジックタイム」の終焉を人々に意識させるだけで、一時市場が回復しても直ぐに混乱は拡大してゆくでしょう。

夢はいつかは覚めるのです・・・。