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ジブリが到達出来なかった世界・・・映画 『若おかみは小学生!』

2018-11-10 05:42:00 | アニメ
 



映画『若おかみは小学生』PV


■ 昔の偉い人は言いました! ■

「世の中には二種類の人しか居ない!
 『若おかは小学生!』を観た人と、観ていない人だ。」



私、様々な映画を観て来ましたが、こんなに何度も観たくなる作品は初めてです。劇場で4回観ましたが、多分、後2、3回は足を運ぶと思います。

とにかく、観れば観る程に、その構成の素晴らしさに舌を巻くばかり。

90分という短い尺の中に様々なエピソードが凝縮されて詰まっていますが、「語らない」という省略の美学によって、観客の想像の余地が十分に残されたまま物語が進行し、最後に全てのエピソードが収まる所にストンと収まる。この気持ち良さと言ったら・・・・。


■ 「滅私」という古い思想が、現代人の心に響く ■

高坂監督はこの様に語っています。

この映画の要諦は「自分探し」という、自我が肥大化した挙句の迷妄期の話では無く、その先にある「滅私」或いは仏教の「人の形成は五蘊の関係性に依る」、マルクスの言う「上部構造は(人の意識)は下部構造(その時の社会)が創る」を如何に描くかにある。



『若おかみは小学生!』 劇場版ポスター

劇場版のポスターでオッコの前掛けは仏教の「5色」をイメージしたものでしょう。ポピュラーな配色は青・黄・赤・白・黒ですが、緑・黄・赤・白・樺色のバージョンも有ります。後ろの真月さんはロザリオを首から下げています。


■ キリスト教の福音にも似た幸福感を与える作品 ■


神学者の青木保憲氏は次の様な記事を載せています。

映画「若おかみは小学生!」 自分を信じて生きたいと願う全世代に向けたメッセージが込められた秀作


<引用>
94分という短い(上映)時間だが、私は花の湯温泉のお湯にどっぷりとつかったようだ。そこであらためて、自分の生涯は「福音」という至高のお湯につかり続けていたのだと気付かされた。至福のひと時であった。

本作は、教会でファミリー向けに鑑賞するのに適している。子どもから大人まで楽しめ、また考えさせられ、さらに福音のエッセンスに近い「恵み」をメッセージの本質として抱いている作品である。

まだ劇場で公開しているだろう。ぜひ「若おかみ」体験をしてもらいたい!




私からもお願いします。この作品は「観たほうが良い作品」のでは無く、「現代を生きる全ての人が観るべき作品」なのです。


私自身、4回も観てもなお、この感動がどこから沸き上がって来るのか分からずに居ます。様々な人が様々な分析を試みています。



■ 物語の生まれ出ようとする力に従った事で、「普遍性」を手に入れた ■


個人的には、高坂監督や客品の吉田玲子さん、そしてスタッフの皆さんが、「過剰な自己主張」を排して、物語の自然な流れに任せた結果がこの「傑作」を生みだしたのだと考えています。

物語は「当然こうあるべきだ」という本来の「姿」が有ります。神話などが分かり易いのですが、世界各地の神話には共通のパターンが観られます。同様に児童文学にもこの傾向が有るかと思います。シンプルに分かり易く伝えようとする過程で研磨され、ある種の「普遍性」を手に入れるのです。

そして、その「普遍性」こそが、多くの人が心のどこかで共有する「善性」なのだと、この映画に涙する多くの方の姿を見て気付きました。


■ ジブリの2大巨匠では到達し得なかった境地 ■

ジブリアニメは確かに多くの人達に支持されて来ましたが、「神話の獲得」という境地には達し得ませんでした。

それは、宮崎駿氏や高畑勲氏が、作品に自分の思いや思想を強く込めた為だと私は考えています。特に彼らは全共闘の時代を体現する存在でしたから、「個人主義や資本主義を否定」し、「科学技術崇拝」を否定し、「自分を捨ててコミュニティーに貢献する」という主張を物語にコッソリと潜ませています。


両監督の「人はコミニュテーの為に存在する」という思想は、高坂監督にとっては主張では無く、既に前提となっています。これはある種の「ジブリ教」です。この作品でも「花の湯温泉」は、強力なコミュニティーです。

一方で、高坂監督は反面教師としての両巨匠の姿も観ています。

作品のクオリティーにひたすら拘り続け、映画を観る観客を顧みる事を忘れた高畑勲。
自分のイメージの具現化を追い続け、物語のあるべき姿を無視した宮崎駿。
(『となりのトトロ』と『紅の豚』には主張が少ないので私はこの2作品が好きです)

この二人の姿を一番近くで見続けた高坂希太郎の取った選択は、「徹底的に物語と観客に寄りそう」事でした。無名の仏師が一心に、ただの木から、その中に眠る仏像の姿を彫り出す様に、『若おかみは小学生!』という児童文学の中にある普遍的な価値を、監督とスタッフは3年という歳月を掛けて彫り出していったのです。


■ 頼むから劇場で観て!! お願い!! ■

『若おかみは小学生!』の上映は、あまりの客入りの悪さで公開初週で、メインのTOHOシネマズ系列が打ち切りになりましたが、SNSの口コミによって、復活上映されるという異例の展開となりました。それでも、やはり、「子供向けのアニメ」というイメージによって、多くの方は劇場でこの傑作を観る事は有りません。

そろそろ上映館も少なくなりましたが、映画を良く知るミニシアター系の劇場が、地方でもこの作品を上映し始めました。多分、年内中はどこかでご覧になれると思います。後からDVDを観て「あーー、劇場に行けば良かった」と後悔なさらない様に、この週末、お時間があれば劇場へGO!!


・・・お願い・・・。