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映画・演劇のレビュー

三浦しをん、あさのあつこ、近藤史恵『シティ・マラソンズ』

2011-03-21 19:46:17 | その他
 3人の作家による3話からなる短編連作。ニューヨーク、東京、パリ、3つの都市の3つのシティマラソンを舞台にして、3人の男女がそれぞれの人生、そのひとつの区切りに立ち合うことになる。読みながら、何度も泪が溢れてきて困った。

 特に最初の『純白のライン』がいい。『風が強く吹いている』の三浦しをんなのだから当然のことだろう。彼女が再び走ること、今度はマラソンを描くのである、僕が自動的に泣いてしまっても仕方ない。それにしても、痛いところを突かれた。走るという行為を通して、浄化されていく心が、こんなにもシンプルに描かれると、その無防備さに、はっとさせられる。主人公の広和が、自分の本当の気持ちに気づくその瞬間、涙が止まらなくなる。今まで何のために生きてきたのか、ただがむしゃらに頑張ってきたのはなぜか。それによって失ったものはなんだったのか。
 心地よい疲労と高揚感に向けて、42.195キロを走り抜く。勝つためではなく、心からの喜びと満足のために走る。それは生きることと同じ意味だ。そのことに気づく。誰かを幸せにするために生きることが、自分自身を幸せにしていく。これは主人公の広和と真結のラブ・ストーリーにもなっている。とてもいいかげんに見える笹野社長の命令によりNYマラソンを走ることになった広和がもう一度走ることを通して本当の自分を見つけだすというシンプルな話が心地よい。

 それは他の2編も同じである。あの傑作『バッテリー』を書いたあさのあつこによる『フィニッシュゲートにて』も、近藤史恵『金色の風』も同じなのだ。ここには同じコンセプトのもと、3人の主人公たちが、自分のフルマラソンを走り抜けることで見えてくるものがしっかり描かれてある。


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