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映画・演劇のレビュー

劇団大阪『親の顔が見たい』

2024-11-17 17:51:43 | 演劇

久々の劇団大阪公演である。15年振りの再演となる。前回は初めてこの戯曲を見たからかもしれないが、当事者である子どもたちが出ない芝居に憤りを感じた。その後他の劇団での公演も見ているが、今回久々に劇団大阪による公演を見て感心した。今回も、もちろん熊本一による演出。劇団大阪にとっては2年振りの本公演であり、しかも第90回の節目にもなる。

役者たちがとてもいい。それぞれが勝手だけど、自分の子どもを守りたいという一念を抱き、まさかの行動までする。自分たちの正義を貫く。教師たちも誠実に対応している。悪魔のような子どもたちはもちろん登場しないけど、彼女たちにもそれなりの理屈はあるだろう。

2022年版ということでいくらかの改訂はあるみたいだけど、その細部はわからない。あまりに印象が違うことに少し驚く。熊本さんに聞こうかと思ったけど、やめた。それよりもまず、今回見た印象から書く。

冒頭登場する七星演じた担任教師の異常さに驚く。彼女は来客の意向を聞かずにお茶かコーヒーかの選択を迫る。彼女は何も見ていない。学年主任から「先生は休んでいてください」と何度も言われるが、聞かない。ただお茶を運ぶ。お話全体から完全に浮いている。事件の最初の目撃者であり、自殺した生徒の一番身近にいたにもかかわらず、この会議から一番遠い存在だ。

今回の作品の要は彼女の存在であろう。ラストで感情を爆発させるまで、無表情でここにいる5人の加害者たちの親と向き合い、全くお話に入って来ない存在。空気のように姿を消し、だけど確かにそこにいた。そこからはここには描かれない教室での彼女と生徒たちのお話がしっかり見えてくる。虐めを見過ごしていたのではない。初めての担任を持つ若い教師が中学2年生という微妙な女の子たちの輪に入って戦ってきた。その答えが今回の自殺。彼女はその事実を受け止めきれない。七星は見事にそんな存在を体現する。

何度かこの芝居を見ているけど、今まではお話に気を取られて担任のことはあまり気にしないで見ていた気がする。

それにしても劇団大阪の面々による狂騒劇は見事だ。特に上田啓輔演じる加害者のひとりの父親である高校教師の存在は白眉。最初はあまり目立たないフリをする彼から目が離せない。当然後半お話のイニシアティブを取るのだが、終盤に化けの皮が剥がれるまで。圧巻である。彼が10数人によるアンサンブルプレーの影のリーダーになる。さらには遺書を燃やし、さらには食べてしまう夏原幸子の怪演。

だけどこれはやはり七星が主人公である。早朝の教室で自死していた井上道子の無念。彼女を自殺に追い込んで平気な顔をしている5人。彼女たちの親たち。親の顔を見ながら、表面には描かれないさまざまな物語を想起させる。もちろんそのキーマンは若いこの担任の不気味な存在である。

空っぽになった彼女の心を背景にして大人たちの勝手なやり取りを描く、今回はそんな作品になっている、気がした。


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