コンクール(大阪府高等学校演劇研究大会というらしい)の大阪大会に来ている。長尾高校演劇部を見るために。見に来てよかった。とてもいい芝居だった。それに初めて府大会を見ることが出来たのも楽しかった。何度か予選は審査員を依頼されて見ているが、本戦を見るのは初めてだ。こんな感じなのか、と知れてよかった。時間の関係で3本しか見ることが出来なかったけど、貴重な体験になった。僕は参加はしなかったけど、公演ごとに終演後すぐに合評会が開催されていた。これはすごい。
さて、長尾高校演劇部の芝居である。これまで見た作品の中でもこれが一番よかった。萩原先生の渾身の一作だ。今学校で起きている問題の核心部に迫る。一応は学校を舞台にした「学園もの」だけど、高校生が抱える問題だけでなく、大人が抱えている問題にまで視野に入れて未来に向けたメッセージになっている。そして何よりこれは弱さと向き合う話だ。大人の方が強くて、子どもは弱いというわけではない。大人にも強い弱いはあり、子どももそう。だから支え合う。先生が生徒に支えてもらうことだってある。これはそんなお話。
教員1年目、新卒の教師ナオが主人公。夢を抱いて先生になったが、挫折している。まだ1年にすらならないのに辞めたいと思う。学年末、彼女が辞表を書いているところから話は始まる。そこに学校に馴染めず出席日数不足から転学した女の子サキが大学に合格したことの報告に来る。この現在の時間から始まってふたりの出会いに遡る。
文化祭に向けて企画を練る生徒会、ナオは生徒会顧問をしている。そこにやって来て教師と立ち回りを演じたサキ。喧嘩ではないけど、ある種のバトルである。彼女は学校生活に馴染めないで不登校気味。高校なんか辞めてやる、と息巻く。ナオが仲裁に入ったことでふたりは出会う。
高校を卒業して4年。母校に教諭として戻ってきた。だけど上手くいかない日々を送っている。教師を主人公にして、彼女が生徒たちの支えによって成長していく、なんてお話は滅多にないだろう。もちろん生徒たちの方も彼女を支えるだけでなく自分たちも成長していくことにはなるのだが。
過去の自分(高校生だった彼女)が現れて今の彼女にハッパをかける。ふたりの自分が一緒になって今という時間を戦うことになる。文化祭で劇をする生徒会スタッフとサキ。山下と名乗るナオの過去でもある生徒に導かれて文化祭を成功させたけど、それでナオは立ち直るわけではない。教師にとっても生徒にとっても学校が過酷な場所になっている現状を踏まえて、だけど学校はアジールであり、ホームだと信じる。
ラストで再び最初のシーンに戻ってくる。大学生になり教員資格を取り高校に戻ってくるから、というサキ。それまで学校を辞めずに待っていることにするナオ。今ある問題と向き合いそこからどう戦っていくか、という普遍的なドラマを高校生と彼らと向き合う教師を主人公にして、あの頃の想いと今の現実を交錯させた1時間の作品に仕立てた。よく出来たお話と役者たちの演技、丁寧な舞台美術(教室)も素晴らしい。枯れ木に花を咲かせる、という暗喩は根本的な問題をお座なりにしているシステム、というか文科省の官僚たちのバカな指針に抵抗し、今の時代を生きる子どもたちや夢を抱いて学校にやって来る若い先生たちの後押しをする。安易な「頑張りましょう」では解決しない。